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夫が医療行為のキスをしてくれました

 ごきげんよう。

 ラファエラです。


 今日は久しぶりに神聖国に来ましたの。

 神官のバディの玄妙に会えてうれしいわ。


 そして、久しぶりに黒ローブを着て、聖女に面会しました。


「ラファエラ! 玄妙!! あんた達がこなくなってから、次の世話係がまだ来ないのよ! 何やってんのよ!」


「ごきげんよう。聖女マリーナ。前にも申し上げました通り、お世話係は、クリーンなどの魔術を教えることはあっても、聖女のために清掃をする係ではございませんの」


「あんた、やってたじゃない!」


「ええ。魔術を覚えるまでは、わたくし供がお手伝いするのもやぶさかではありませんが、覚える気がないので、あきらめるしかありませんわ。ご自分で物理的に清掃できるように道具は揃えてありますでしょう?」


「は? 私に自分で掃除しろっていうの? 聖女なのに?」


 ダジマットの姫も、神聖国の姫も、神聖国では自分で身の回りのことをやるのです。

 聖女も例外ではありません。

 聖女には同じことを何度も申し上げているのに、ご理解いただけなくてよ。

 相変わらずだわ。


「はい。それより、本日は、ブライト国の王太子オーグスティン様をお連れいたしましたの。お通しする前に、様子を見に来たのですが……」


「なんでそれを早く言わないのよ! 早く連れてきてよ!」


「しかし、この汚部屋は、貴人を通すには不浄すぎるじゃろ?」


「オージーは、侍女もつけてもらえず虐げられている私を見たら、きっと連れ出してくれるわ!」


「そなたが瘴気をまき散らさぬようになるまで、誰にも連れ出すことは出来ぬよ」


「いいから早く連れてきてよ」


 わたくしと玄妙は顔を見合わせて溜め息をつきます。


「エリアクリーン!」「エリアクリア!」


 くっ。

 聖女の8日分の瘴気を浄化するのに、相当な量の魔力を持っていかれましたわ。


 カーディフから神聖国にわたくしと夫の二人を転移させた後に、この瘴気の量を浄化するのは、ちょっと無謀だったかもしれません。


 思わず片膝をついてしまったわたくしが玄妙に支えられながら聖女牢を出ると、隣室から物理透視で様子を見ていた夫が出てきて、抱きあげてくれました。



 やだ、素敵。

 本物の夫婦みたいよ。


 夫はそのまま隣室に戻り、ソファーでわたくしを抱きかかえたまま、魔力を授与してくれました。

 額から伝わる魔力はいまだに瘴気交じりの気持ちの悪い魔力でしたが、それでも大分マシになりましたわね。

 心地よさも感じられるようになってきましたわ。



 あぁ。オーグスティン。

 ちょっとだけ顔を見せて。

 ふふ。

 わたくし貴方のことを大好きになってしまったわ。

 

 貴方の浄化が終わったら、こうやって貴方の腕の中でウトウトすることができなくなるのね。

 寂しいわね。

 こういう時は、どうしたらいいのでしたっけ?


 あぁ、ふて寝。

 ふて寝がいいわ。

 ちょうど酔い心地だし。

 このまま寝てしまいましょう。



 目が覚めたら、ソファーで玄妙に膝枕されておりましたわ。

 夫はわたくしに魔力を授与した後、隣の部屋で聖女が神から賜ったこの世界の記憶について聞いたそうです。


 同行した玄妙が聞いた内容だと、聖女は記憶について話をする代わりに、ここから出して欲しいと要求した。


 それが通らないと、今度は、聖女牢に一緒に住んで欲しいと要求した。夫はこれも却下した。


 最終的には、せめて抱きしめてキスをして欲しいとせがんだ。夫は首を振って部屋を出た。


 ほんの短い邂逅だったと、わたくしを安心させようとしているみたいでした。


 どうしてかしら?

 わたくしが自覚したばかりの気持ちが既にバレているみたいでしたわ。


 その後、夫は神官たちに魔術を教えてもらっているとのことでした。


 ブライトのお家芸である「魔力増幅」を教えられていない夫ですが、魔力量が豊富なので転移が使えるハズですって。


 流石にいきなり国を跨ぐのは無謀なので、わたくしが連れ帰りましたが、技術自体はちゃんと習得できていましたわ。


 驚異的な技術力ね。

 流石は技術のブライトの王太子ですわ。


 

 ヴィラに戻った後は、ゆったりと夕食をとって、身を清めて、まったりと「人をダメにするソファー」で癒されました。


 夫は一人掛けの椅子で読書していましたわ。


 ウトウトしていると、こんなところで眠ると風邪をひくからと、再び抱きかかえられたの。

 あーん。すごく夫婦っぽくて、素敵すぎるわ。

 わたくしの夫。


 ベッドにわたくしを下ろした夫は、ごく自然に、半ば習慣となった魔力授与を始めました。


 でも、その夜は、いつもと違って…… 


 えっと、あの、その、口から、でしたわ。

 唇よりも、その、もっと奥の……


 わたくし、驚いて、ドキドキして、パニックでした。



 しかも、何度も、何度も、ですのよ。


 物理的には吸い取られるようでいて、同時に押し寄せてくる魔力の感覚が何とも甘美で、すっかり力が抜けてしまいました。


 こうやるんですのね?

 なるほど、唇では上手く行かなかったわけですわ……


 秘儀や密事として多くが語られない理由もわかりましたわ。

 簡単に誰とでも練習できるような方法ではありませんでした。


 それに、優しく慈しむような物理的な感触に、とろけそうでしたわ。

 わたくし、何故、あのように労わられた心地になったのか不思議ですわ。


 夫は、もしかして、わたくしのことを愛おしく感じてくれたのでしょうか?



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