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崩壊都市トーリアン・弐

 机の上で目を覚ます。どうやら昨日はそのまま寝てしまったようだ。まだ日も出ていない時間だが毎日この時間に起きてしまう。今のトーリアンでは安心して寝ることもままならない。近くで銃声が聞こえれば飛び起き、周囲の安全を確認しなければ死ぬのは自分だ。

 誰も起きておらず、時計の針の音だけが響いている。ボサボサになってしまった髪を何とか整え水を飲もうとキッチンの方へ向かった。


「ゼントー、起きて。」

 いつものようにゼントーを起こす。

「……ん……あぁ起きてるよ……。」

「今日は早めに行ってくるからディアンたち宜しくね。」

「……そうか……わかった……。」

 本当に起きているのかどうか分からないため一応こぶしを一発入れてから外に向かう。グっという声が聞こえたためおそらく大丈夫だろう。


 外はまだだいぶ冷たかった。瓦礫となってもビル風は吹き風切り音が余計に静けさを知らしめる。

「今日は、狙撃だな。」

 ダリアンツの兵どもから鹵獲した火器はかなりの数になっている。たまに最新式の火器が混ざっておりこの前狙撃銃を運良く拾えた。今日はこれで行くとしよう。


 かつては街有数の高さを誇ったビルも今ではただの骨組みと化している。街の中央にあった3本のビル、それぞれセントラル、ウエスト、イーストと名付けられたビルは2本しか残っておらず残ったビルもウエストは3分の2程度、イーストは5分の3程度しか形を保っていない。

 ウエストビルの階段を一つ一つ登っていく。このビルは相当の高さがあるものの昇降機が既に壊れているため階段で上まで向かうしか無い。とりあえずは途中から街を見下ろして見つけたものから撃っていこう。今日も残党掃討の部隊がバラバラに展開しているはずだからそれを撃ち、回収できそうな奴からは物資を頂こう。昨日の分も取り戻さないと。

 ビルを半分くらい登った辺りで割れた窓から銃口を出す。よく見れば数百メートル離れた先に4人の兵士を見つけた。ゆっくりと呼吸を落ち着け射撃姿勢に入る。ゼントーから教えて貰った姿勢で、ゼントーから教えてもらった動作で獲物を確実に撃ち抜ける瞬間を待つ。手が震えないようにしっかりと抑え、頭を冴え渡らせる。

「……………………」

 今。

 ダンという音とともに弾丸は空中を駆け抜け、1人の頭に命中する。魂を抜かれたように兵士はその場に倒れ、他の兵士も伏せる。同様に私も伏せ、敵から見えないようにする。おそらく相手はこちらが狙撃手だということに気がついているため不用意に頭は出せない。目線をあちこちに動かしたあとようやく再びその方向を覗き見る。視線の先では倒れた兵士を運ぼうとしている3人が見えた。急いで構え、狙う。相手の足は随分と遅くなっている。狙うなら今だ。

「………………」

 ダン、ダンという素早く2発放たれる。いずれも敵兵の頭を直撃しまた2人倒れる。こうなってしまえば残りの1人は逃げて当然だろう。銃口を下ろし鼓動を落ち着かせる。ビルの中を突風が抜けていき、汗を吹き飛ばした。

 一息ついたあと急いで物資の回収に向かう。応援を呼ばれて遺体ごと持っていかれては無駄になってしまう。階段を数段飛ばしで飛び降りビルを飛び出す。裏路地を飛ぶように駆け抜け目当てのものへ一直線に向かう。


「なんでこんなに物資を持ってるんだ……」

 戦果は予想以上だった。5人で分けても数日は持つであろう食料の数々、最新式の小銃に頑丈なボディープレート。こんな戦闘が終わった場所に持ってくるようなものでは無い。あまりの戦果に思わず顔が綻び満足した。


「今日はもうこれでいい。帰ろう。」

 できる限りの物資を詰め、持ち、いつも通らないような路地裏を通って、大通りは全て迂回して地下シェルターへ辿り着いた。今日の階段を下る足取りはいつもより軽い。まだ太陽が頂点まで登りきっていないという時間のせいもあるだろう。しかしそれ以上に嬉しかった。


「みんな、帰ったよ!」

 勢いよくドアを開いたせいかゼントーが飛び跳ねそうな勢いで驚いていた事に多少の申し訳なさを感じつつ、持ってきたものを全て机の上に置いた。リアンとウィンの顔がいつもより明るく、それが何より嬉しい。

「今日は随分と早かったな。」

「ええ、だってこんなにも集まったんだもの。持って帰ってこなきゃ損でしょう?」

 自慢顔で答えて装備を脱ぐ。シャワー代わりに水を浴びようとして隣の部屋へと向かおうとするとディアンに手を引かれた。

「どうしたの?」

 ディアンは強く唇を噛み締めたあと意を決したように口を開いた。


「トーリャ、俺に銃の撃ち方を教えて。」

 突然の言葉に一瞬返答ができなかった。ただこのディアンの言葉はただ単に銃を打つ所作を知りたいと言うだけのことでは無いことはわかった。

「ダメ。まだディアンにそんな危険なことは教えられない。」

 少しかがんでディアンと目線を合わせる。

「なんで。俺だってトーリャみたいに皆を守りたいよ。」

「今は私が守ってるでしょ?ディアンまで危険な目に合う必要は無いの。死んじゃうかもしれないんだよ?」

「それはトーリャだって同じだろ!俺もトーリャみたいにいざってときに誰かを守れるようになりたい!死んじゃうかもとか考えてる暇なんて無い!!」

「ダメ、銃の撃ち方は教えられない。ディアンが傷付くかもしれないことなんて私は教えられない。」

「なんだよ……もう……」

 ディアンは奥の部屋へと走っていってしまった。

「ディアン……」


 私には何が正解だったのか分からなかった。ただディアンのためとしか考えられなかった。

「トーリャ。お前の気持ちも分かる。だがそろそろ成長させてやるべきじゃないのか?」

 ずっと視線が奥の部屋の続くドアに固定されて離れない。何もものを言うことが出来なかった。

「ディアンもそろそろ自分のことを自分で守りたいんだ。」

「で、でもディアンはまだ11じゃない……」

「……俺がお前を引き取って戦い方を叩き込んだのは幾つのときだ。」

「…………11。でも私はあの時は一人で生きていかなきゃ行けなかったから……」

「ディアンも一緒だ。いつ自分の周りがいなくなるか不安なんだろう。それこそトーリャ、お前が急にいなくなったときディアンは生きていけるのか?」

 言葉につまる。私が守っていれば良いと思っていたがそれが逆にディアンたちを脅かしているなんて考えたこともなかった。

「そうね……教えてあげないと……」

「ディアンは俺が話をつけてこよう。」

 ゼントーにはまだ敵わない、そう強く思った。

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