崩壊都市トーリアン
「行ってくるから、大人しく待ってるんだよ。」
砂埃立ち込める崩壊した都市。ここトーリアンは戦争の所為で既に終わりを迎えていた。敵国と隣接する都市だったトーリアンは戦争開始と同時に標的とされ瞬く間に戦火の餌食となった。ビルや公共施設等は既に破壊され瓦礫の山と化している。敵国、ダリアンツの攻勢を受け止めきれず既にアインリッツ正規軍は1週間ほど前に撤退しており傭兵や市民兵が僅かに抵抗を続ける限りだ。
瓦礫の山に体を伏せじっと敵を探す。荒れた呼吸が砂塵を巻き上げむせそうになるのを我慢しひたすら耐える。
「居た……」
手元の魔導小銃を強く握り締め、遠くを歩く2人組の敵兵をじっくりと狙う。談笑をしながら歩いているようでそれが余計に腹立たしい。敵側はすっかり戦勝ムードであとは残敵の掃討くらいにしか考えていない。だからこそ、ここで出来るだけ殺して敵の戦意を削ぐ。
「ダリアンツの兵士よ……ここで死ね。」
ダンという重く弾ける音と共に敵兵の頭が飛ぶ。共に歩いていたもう一人もすぐさま銃を持ち辺りを警戒していたが、撃たれてから索敵したのでは遅い。もう一度銃声がなるとその敵兵の頭も飛んだ。
軽く息をついて銃口を下ろす。周囲を見渡し、誰もいないことを確認すればようやく肩の力を抜いた。先程倒したばかりの敵兵に近づき、物色を始める。
「まだかなり余りがあるな。来たばかりか。」
お目当ての携行食糧と水、防弾ベスト、無線機等々使えるものはなんでも貰っていく。罪悪感などとうに無い。こうしなければ生きていけない。詰められる限りリュックへと詰めこむとどこかから足音が聞こえた。すぐさま近くの瓦礫へと身を隠し、誰が、何処から来るのかを探った。
「あー。死んでますねこれ。」
「全く、占領地で油断するからこうなるのだ。」
自分と反対側の崩壊したビルの中から男が2人出てきた。格好を見るに一等兵と伍長といったところだろう。
「まだ暖かいですね。近くに奴まだいるんじゃないですか?」
明らかに奴とは私のことだろう。息を殺し物音を一切立てないように努める。ここに私がいることがバレれば、死ぬ。
「そうだなぁ。そこか?」
ダンという音が鳴り響く。弾丸は瓦礫を貫通し私の真横を飛んで行った。
「なんてな。もうとっくに逃げただろうよ。次こそは仕留めねぇとな。死んだ仲間に顔合わせできねぇ。」
「そうですね。次こそは。」
そういうと2人の男は去っていった。
地面に体を滑らせ大きく息を吐く。今になって鼓動が早くなり汗が出てくる。久しぶりに死を間近に感じた。
「はぁはぁ……はぁ……」
いつになっても死の恐怖は無くならない。いくら人を殺しても自分が殺される番になれば怖くなる。そういう理不尽を抱えて生きている。
「今日は……帰ろう……」
重くなった足を引きずりその場を後にした。
市街地の少し外れの廃ビルの地下、そこにシェルターがある。元は何軒かの居酒屋やバーの集まりだったが今はそこが拠点となっている。ゆっくりと一段一段下へと向かい入口のドアを開ける。
「トーリャが帰ってきたぞ!!」
一番上の子が叫ぶ、それに追随して周りの子も駆け寄ってくる。地下シェルターには孤児の子供が3人と私を含めた大人が2人いる。5人で暮らすには充分な広さで椅子や机は昔のまま残っているからそのまま使える。インフラの破壊工作は行われなかったため水や電気も通ったままと意外と自由に過ごせる空間になっている。
いつも待っているのは8歳のリリアと9歳のウィンと11歳のディアンと50いくつのゼントー。皆を戦地に送るのは危険すぎるため私一人で外を回っている。
「ただいま。今日もちゃんと帰ってきたよ。」
子供たちの頭を順番に撫でると皆満足してまた遊びへと戻って行った。
「無事に帰ってきてよかった。どれ小銃を見てやろう。」
ゼントーの不格好に髭を生やした顔を見ると安心する。私はゼントーの横に座り小銃を机の上に置くとゼントーはそれを受け取り一つ一つ部品を確認していく。私はゼントーが小銃のメンテナンスをする姿を見ているのが好きだ。じっと見ているとゼントーがこちらに気付いたようだった。すぐさま視線を前に向け何事も無かったかのように振る舞う。ゼントーと私は叔父と姪の関係で歳も30くらい離れているのだが、ただの叔父に対して抱く感情と少し違うのは私も理解している。
にしてもこの小銃は不思議なものだ。極東の企業が開発したというこの魔導小銃。弾丸がいらない小銃で持って引き金を引くだけで射撃ができるという前代未聞の兵器。原理は全くの謎でただ構造だけが世に出ている。
「ほら、終わったぞ。」
ゴトリと小銃が机に置かれそれを受け取る。
「ありがとう。」
「老いぼれに出来るのはこれくらいしか無いからな。」
そういうとゼントーは豪快に笑った。だがどこか憂いのこもった声のようで私は一緒に笑えない。
「なに、大丈夫だ。心配すんな。いざというときは守ってやる。俺の可愛い姪だからな。」
優しい声が響き、すぐにまた静寂が広がる。だがその静寂は悲しい静寂ではなかった。
しばらくゼントーと話していると奥からディアンが走ってきた。
「トーリャ、そろそろお腹空いた。」
「じゃあそろそろご飯にしよっか。」
年頃の子は皆お腹を空かせている。今日取ってきた携帯食料を取り出してご飯の準備を始めた。
「トーリャ、今日はこれだけ?」
やはり5人に対して2人分の携帯食料では少ない。私があそこで物怖じせずにもう少し動けたら変わっていただろう。
「ごめんね。今日は少ないの。でも良いものが1つあるよ?」
「良いもの!?」
子供3人の目が一気に輝いた。やはり良いものと言われて期待するのは子供の性だろう。私はリュックから板チョコを2つ取り出して机の上に置いた。あの時倒した2人組が持っていたものだ。
「チョコだ!!良いの!?」
「良いよ。4人で分けてね。」
「やった!!!」
この子達を見ていると過去の自分を思い出す。私も昔は孤児でゼントーに引き取ってもらった過去がある。この子達は戦争孤児で、私は両親が事故死した孤児のため経緯は違うが孤児であることには変わりなく、どうしても守ってあげたい気持ちになる。取ってきた食料を皆で分けて食べるとき、それが一日のうちの少ない幸せの時間になっていた。私はできるだけ子供たちに食べて欲しいと思い多くは子供たちに渡してしまう。ゼントーは私のことを心配しているようだが私としてはこれで良い。
3人は食料を食べ終わると私にお礼を言ってまた奥へと行った。表情から物足りないことは読み取れるがディアンらは強い子だ。これまでも決して足りないなどと漏らすことはなかった。彼らも明日の見えない日々を何とか生きている。いつか彼らが自由になる日まで私はあの子たちを守って行かないと行けないのだろう。
そう彼らの向かった方向をぼんやりと見つめているとゼントーに肩を叩かれた。
「トーリャ、また何も食べなかっただろう。」
私をたしなめるような声と共に板チョコを半分差し出してくる。
「え……あ……うん……でもあの子たちになるべく食べさせてあげたいから……」
つい俯いて答えてしまう。自分では何も後ろめたいことなど無いはずなのに本能がそうさせる。
「食うんだ。トーリャが食べなくてどうする。」
ゼントーの言葉には怒りと心配が混ざっているのがわかった。私は軽く頷いて板チョコを受け取る。甘いものは久しぶりだったためか吐きそうになったがしっかりと飲み込んだ。
「ディアン達が心配なのはわかる。だがあいつらはお前が思っているよりも強い。いつまでも守られてくれるとは思うなよ。」
ゼントーの言葉は私に重くのしかかった。私はその後ぼんやりとなんでもない事を考えながら長い夜を過ごした。
初投稿になります。
気分で書き進めていく予定なのでよければいいね、ブックマークの方よろしくお願いします。




