どろ水が引きずり込む
どろどろに濁ったどろ水が、向こうの世界を眺めている。
やわらかそうな肌色が通りを歩いて、まずそうな鈍色の塊がすごい勢いで走り去っていく。
ならば、興味を惹かれるのはどちら?
その泥水は、肌色の方を選んだ。
視界の隅から隅を、ちょうど小さな肌色たちが通っていく。
それらは、「やっと学校終わったな」とか「この後うちで集まってゲームしようぜ」とか「さんせい!」とか、泥水には理解できない鳴き声を放っている。
「これ、新品の長くつなんだ」
「かっこいい!」
「いいな俺も買ってもらいたい」
ぱしゃり。
弾力のあるもので包まれた、小さな肌色の先端が一本。
泥水の中に飛び込んだ。
泥水はそれを、知りたくて。ほしくて。
弾力のある「なにか」をはずして、そっとその肌色を引きずり込んだ。