表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らい  作者: 新殿 翔
99/99

白い闇の中にあるもの

「それで、どうだね。この世界を改めて見て回った感想は」

「……そう、だな。やっぱり、前にいた世界とは、何もかもが違うんだなって、そう思ったよ」



 答えると、くすりと笑う声。



「当然でしょう。そんなことは」



 当然だからって、そんな風にいわれると、少しむっとする。



「まあ、いいのではないかな。彼らしいと言えば、彼らしい」

「それってどういう意味だ?」



 褒めてるのか貶してるのか……微妙だな。



「つまり、ライスケはまだまだなーんにも分かってないんだな、ってことじゃないの?」

「……何気に毒舌だな、お前」



 しかもそっちのやつも同意するように一鳴きしたし。


 ……もう敵じゃないんだから、仲良くしてくれ。まったく。


 溜息をついて、俺はその白い空間に座り込んだ。



「地面に座り込むなんて行儀がなってないわね」

「ここに地面もなにもあるか。それに、もうヘスティアは座ってるじゃないか」

「ヘスはいいのよ」



 差別だ。



「それにしても、何度来ても不思議なとこだよね。ここは」



 バアルを肩の上にのせたヘスティアが辺りを見回す。


 ……白闇の空間。


 それは、俺の内面に広がる世界の、ほんの一端だ。


 俺と、そして欠片を持っていたからか、ティレシアス、アスタルテ、ヘスティア、バアルだけが出入りできる場所。



「我々が存在している、という点で言えば、もはや異質だがね」



 ティレシアスが言った。



「本来ならば原初の渦に沈む筈だった全てが、この白闇の中で等しく個を保てている。それは、どういう奇跡だろうね」



 ……そう。


 ティレシアスが言う通り、この白闇の中に喰われた全てには、個の意識があるらしい。現に今こうして俺の目の前にいるティレシアス達のように。


 俺は直には行けないのだが、ティレシアス達経由で聞いた話だと、白闇の中には巨大な世界があり、そこで今まで俺が喰らった存在がいて、普通の――そう。普通の生活を送っているのだと言う。


 ……当然、と言えば当然なのかもしれない。


 白闇は、温もりの闇で、個を認める闇だ。


 その中にあるものが、個を保てないわけがなく、そしてそこに温もりがないわけがない。


 つまり、営みがある。


 ……それを、素晴らしい、と思う。


 いわば俺は生きた世界一つ背負ってしまったわけだが、そんな俺の負担なんて気にならないくらいに、これは素晴らしいことだ。


 本当に、奇跡みたいだ。


 でも……俺は、実のところ違うと思う。


 奇跡みたいだけれど、これは……奇跡なんかじゃない。



「原初からの、贈り物、かな」



 小さく呟く。


 ――白闇の中には、原初がいない。


 確かに俺は原初を喰らった。


 なのにいないというのは、どういうことなのか。


 俺は、なんとなくこう思う。


 原初はいないのではなくて、姿を変えただけなんじゃないかと。


 この世界。


 この世界こそが……原初なんじゃないかと、俺は思っている。


 理由とかはないけれど……漠然と、そう感じるんだ。



「贈り物……なるほど。そういう考えもあるのだね」



 ティレシアスが感心したように頷く。



「人の世界を散々喰い散らかして、最後にいいところだけ持っていくのね」

「でも私はいろいろな人に会えるから嬉しいよ」



 アスタルテは肩を竦め、ヘスティアは屈託なく笑う。


 ……とても、彼女達が全てを原初の渦に沈めようとしていた張本人だったとは思えない代わりっぷりだ。


 というよりも、こっちが素なんだろうな。


 どうやらこの世界では、こいつらも平和に生きられるらしいし。


 いいことだよな、それって。



「しかし、君は大変だね」

「ん、なにがだ?」

「あちらの世界では世界平和を目指し、こちらの世界をまるまる背負う。並大抵のことではあるまいよ」

「……そう、だな」



 確かに重いし、道のりは果てしない。



「でも、ちょっとだけ、やりがいはあるかな、と思うよ」



 言うと、この場にいる全員の目が見開かれた。



「なんだよ、その目は」

「いえ……貴方がそんな前向きなことを言うなんて」

「もうこの世界、滅びちゃうのかな?」

「覚悟は決めておいた方がいいだろうね」



 とどめにバアルが悲壮を滲ませた泣き声をあげる。



「お前らひどいだろ!」



 俺って前向きなことくらい言うよ!


 いつまでも根暗なわけにはいかなんだし……。



「ふ。そうか」

「そうだよ」



 まったく。


 ――っと。


 身体が浮遊感に包まれる。



「そろそろ時間も限界か」

「だな」



 今日はここでお終い、か。



「まあ、がんばりなさいよ」

「がんばってね」

「がんばりたまえよ」



 バアルは翼を大きく広げた。



「……ああ」



 意識が浮上した。


 身体を起こす。


 視界に移るのは、朝日。


 ……ん。


 いい天気だな。


 立ち上がって、背中を伸ばす。


 さて、今日も張りきっていくかな。


 肺に新鮮な空気をとりいれ、頬を叩く。


 一ヶ月で世界一周。


 世界平和を目指す為にも、とりあえず世界を見ておかないといけないと思ったのだが……まずいな。


 あと期間が半分くらいしか残ってないのに、まだまだ見る場所が残っている。


 世界、広いなあ……。


 思い、目を閉じる。




「今日も平和な一日でありますように……」



ということで、終わりですっ!

長い間読んでいただいて、ありがとうございましたっ!


ちなみに番外編などを「新殿ファンディスク」という小説で公開していく予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ