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神喰らい  作者: 新殿 翔
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黒の中の白


 ――刹那。


 原初の動きが、硬直した。


 と思った次の瞬間……漆黒の身体に、白く輝くひびが入る。




 ――ピシッ。



 ――ピシッ。




 いくつものひびが同時に生まれ、そして交わり、巨大なひびとなって原初を包み込んでいく。


 その光景に、叫ぶ。


 ライスケがやったのだ。


 だったら、私達も……それに応えよう。



「全力で――!」



 爪翼を限界まで広げて、ありったけの水をあつめる。




「全力で、撃ち滅ぼせ!」





 ――白い空間にいた。


 瞼を開けているのか、いないのか。そんなことすら疑問に思う、一点の曇りもない純白が、ただ広がっていた。


 けれどそこにあるのは寂しさや空虚感ではなく……温もり。


 白闇。


 希望がどこまでも詰め込まれた闇。


 ふと、目の前に立つ存在に気がついた。


 それは、この空間に反する、漆黒。


 何故今の今までそれに気付けなかったのか。その姿は、まるでぽっかりと空いた穴のようだった。


 常闇。


 絶望がどこまでも詰め込まれた闇。


 それが、人の形をして俺の前に立っている。


 それは他でもない。


 俺の姿だ。


 俺という、常闇だ。



『……どうして、一つになれない』



 問いかけられ、俺は苦笑。



「一つになれないことなんて、ないさ」



 そう。


 確かに、俺達は皆違う。


 でも、知ったんだ。


 皮肉にも、俺は人を喰らうことで、そうして喰らった存在に力を貸してもらったことで、知った。


 決して、俺達は個であっても、孤ではないのだと。


 個と個は、例えどんな存在と存在であっても、繋がろうと思いあえれば、繋がれる。


 それは、きっと……それこそが、正しく、一つになるということなのだと、俺は信じたい。



『ならばどうして、争いが起きる?』



 それには、簡単には答えられなかった。


 でも……そうだな。


 俺の得意の、綺麗事、ってやつで答えるのなら……、



「守りたいものがあるから」



 守りたいものがあるから、人は戦う。


 その戦いは、本当にいろいろな戦いがあって、中には悪と呼ばれる戦いもあるだろう。


 それでも、それは……自分にとって大切な、譲れないものを、守りたいものを守るための戦いなのだ。


 俺だって、同じ。


 俺にも守りたいものがあったら、戦って……そして今、ここにいる。


 そして、守る為に、原初を喰らった。



『なばら永遠に分かり合えないと?』

「さあ……それは、どうだろう」



 そんな未来の事は、正直俺には分からない。



「でももしかしたら、ほんの些細な切っ掛け一つで、みんな、分かり合ったりするのかもしれないな」



 思い出すのは、再会したウィヌスが俺の事を仲間と、改めて呼んでくれた時のこと。


 ウィヌスは、そして世界は、本当ならば俺の敵。俺を倒そうとしていた。


 けれど、それでもウィヌスは俺を仲間と呼んでくれたんだ。


 それがどんな切っ掛けによるものか、俺はウィヌスではないから分からない。


 それでも、少なくとも、分かり合った、ということだけは、自身を持って言える。


 そんな風に、きっとどんなものだって、分かり合えると気がする。


 繋がりは、広がっていく。



「そうなったら、いいよな」

『……そう、だな』



 頷き、黒い手が俺に伸ばされた。



『ならば、貴様はその為に生きればいい』

「……その為に?」

『我が言えた義理ではないのだろうがな。きっとそれが……償いにも、なる』



 償い。 


 それは、俺が喰らってしまった全ての存在に対するもの。


 ……そっか。


 そういう償いかたも、あるのかもしれないな。


 だったら……。



「そうだな」



 俺も、手を伸ばした。



「償いの第一歩は世界平和、ってところか……うん。悪くない」



 黒い手を、握る。


 と、俺の姿をした常闇が、足元から純白の粒子となって空間に溶けていく。



「どうせ時間はいくらでもあるんだ。なら、やってみるよ」

『……そうか』



 脚。


 腰。


 胸。


 腕。


 そして、俺の握りしめていた手も消えてしまう。


 次に首。


 顔の半分ほどまでが、なくなる。



『ならば、我と違い、最後まで正しくあるがいい……欠片――いや。原初の神すら喰らいし者よ』

「ああ。正しさ、なんてよくわからないけれど……でも、間違いないように、気を付けるよ。というより、間違えたら、いろいろなやつらにボコボコにされそうだからさ」

『……そうか』



 互いに、微笑する。


 そして……原初が俺の内に落ちる。



 原初が、ついにはじけ飛んだ。


 漆黒の内側から溢れだしたのは、純白。


 それが空を覆い尽すような、大輪の花を形作り、収束する。


 それはまるで、原初が現れた時の、あの現象の繰り返しのよう。


 けれど、それに不安はない。


 あるのは、安堵。


 だって、この純白は……とても温かだから。


 純白が一点に集まり、そして、一つの形を作り出す。


 人。


 そう……。


 他でもない。


 ライスケだ。


 彼が、地面に立つ。


 その双眸が開かれ――私と視線がぶつかった。


 僅かな静寂。


 彼の口元に、笑みが浮かぶ。


 それに私も、笑みで応えた。




「えっと……ただいま」




 どこか自信のなさそうな、ライスケの声。


 まったく。こんな時くらい……って言っても、まあライスケだものね。


 一拍子。




 ――大喝采が、空を震わせた。




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