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神喰らい  作者: 新殿 翔
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純白の闇

 込み上げてくるのは……温もり。


 それは、皆の、気持ち。


 皆も、戦っている。


 そして、俺の心配を、応援を、してくれている。


 その気持ちが流れ込んできて……俺の内側に、溢れた。


 人の気持ちは、ここまで大きくなるものなのか。


 そしてその温もりが、俺の内側に残った欠片の力と……交わる。


 完全ならばまだしも、残滓でしかない力では、この温もりを喰らい尽すことは出来ない。


 それどころか……欠片の力の方が、温もりに喰われる。


 そしてそれを喰らうことで、温もりがはっきりとした形を持つ。


 これは……。


 渦巻き、水泡を作り出しながら、しかしそれは常闇とは決定的に違った。


 まるで誰かに抱きしめられるような温かで優しい渦。


 ふわりと不安を包み込んでくれる、透明な泡。


 ああ――なんて綺麗なんだろう。


 それを身体の内に感じて、なにもかもが晴れ渡るかのような気分。


 ついには俺と言う器から、温もりが溢れだす。


 白い……、




 ――白い闇。




 その純白が、原初の内に小さく咲き誇った。


 常闇が叫ぶ。


 白闇に、次々に常闇が喰われていく。


 黒を白が侵食していく。


 ゆっくりと……けれど、確実に。



『ナンダ……ソレハ』



 原初が、ここにきて初めて、声に感情らしい感情を見せた。


 困惑だ。



「わからないのか?」



 こんなの、一目見て、ほんの少し触れれば、すぐに分かる。


 ああ……そんな簡単なことすら、もう原初には分からないのか。



「これは……人の、想いだ」

『下ラヌ……』



 俺の言葉に、原初が短く吐き捨てた。


 常闇の渦が加速する。


 俺の白闇が、常闇に削られていく。


 やはり、あちらほうが上か……。


 そりゃそうだ。


 なにせ、いくつもの世界の力を、その内側に宿しているのだから。


 改めて、自分が持っていた力の恐ろしさを知る。


 そして……だからこそ、自信が湧いてきた。


 全ての欠片を集めたのは、俺。


 そして俺を支えてくれたのは、皆。


 その皆の想いが俺と共にあるのだ。


 ならば……一体どうして、原初の力を怖れることがあろうか?


 そんな理由、欠片も存在しない。


 そう。


 俺は、勝てる。


 確信した。


 その確信のままに、俺は白闇を広げる。


 想いは、次から次に溢れだしてきた。


 それは、俺の仲間達だけのものじゃない。


 常闇に喰われた存在を、白闇がさらに喰らい、その存在達も、俺達と想いを共にしてくれる。


 白闇の力は、爆発的に増大していた。



『愚カナ……!』

「愚かなんかじゃない!」



 これを愚かと言える原初こそが、なにより愚かだ。


 確かに、言っていることは分かる。


 それぞれが別々であるから、全ての存在は争う。ならば、全てが一つになれば、そんなこともなくなる。


 原初の行動原理は、突き詰めてしまえばこれだ。


 ――そうなのかもしれない。


 もしかしたらそれは、とても幸せなことなのかもしれない。 


 でも、俺はそんな幸せ、絶対に認めやしない。


 認めたくなんてない。


 俺は、知ったんだ。


 この世界で、教えられた。


 争っても、離れても……繋がれるんだって。


 いろいろな形で、繋がり、繋がっていく。


 それを、そのままであってほしいと願う。


 その為に……俺は、俺の我が儘の為に、覚悟を決めた。



「お前の力は、確かに強い!」



 それは、俺が一番知っている。


 なにせ、ついさっきまでその力は俺の中にあったのだから。



「でもな、そんな力……ちっぽけなもんだ!」

『小サイ、ダト? 世界ガカ?』



 鼻で笑うように、原初は言う。



『馬鹿ゲテイル』

「小せえよ」



 だから、俺も思いっきり言葉を帰してやった。


 もちろん、鼻で笑いながら。



「一番強い力ってのはなあ、そんなもんじゃねえ」

『ナラバ、ナンダト言ウノダ』

「だから、それはもう言ったろう?」



 そう。


 簡単に、一言で言うのであれば、ぴったりの単語がある。



「想い、だよ」



 想いがあるから、世界は重い。


 それがない世界のなんと空虚なことか。


 今の常闇が、それだ。


 原初は決して常闇に沈んだ存在の声に耳を傾けない。そこにあることこそ至上だと思っているから。


 けれど本当は、そんなことはないんだ。


 常闇に溶けて、沈んでも……存在は、叫び続けている。


 自分達の想いを。


 その想いが、力になるのだ。


 だから……それを聞かない原初に、俺は負けない。


 だって俺には聞こえているんだ。


 負けるな。


 勝て。


 守ってください。


 また一緒に旅をしましょう。


 やってやりいや。


 世界を任せました。


 そんな想いが、いくつも、いくつも……重なる。


 今だって、徐々にその想いは増えていく。


 白闇が常闇を喰らう度に、一つ、また一つと、想いが想いと絡み、一つの大きな流れを作り出していく。


 その全てを……きっと、希望、と呼ぶべきなのだろう。


 それら全ての希望が、俺に託された。


 だから、希望を託してくれたという期待に、俺は答えなくちゃならない。裏切ることなんて、間違ってもできやしない。



「原初……原初の神」



 お前だって、最初はきっと俺と同じように感じていた筈なのにな。


 どこで、間違えてしまったのだろう。


 俺は、お前がどうしてこうも過ってしまったのか、分からない。


 もしかしたら長い時間の中で、少しずつ狂ってしまったのかもしれない。


 それを、気の毒だ、と思うよ。


 出来ればお前も一緒に希望を抱ければ、それはどれほどすばらしいことだろう。そうも思う。


 でも、きっともう後戻り出来るような場所じゃない。


 だから……お前も、俺は背負って行こう。


 白闇を、さらに広げる。


 常闇を喰らい、白が広がる。


 温もりが、冷たい渦を喰らって行く。



『ヤメロ……』

「やめない」



 原初も、ようやく気付いたらしい。


 この白闇が、どれほどに強いものかを。


 そりゃそうだろ。


 皆の想い、だからな。



『ヤメロォオオオオオオオオオオオオオ-!』

「お前を、喰らうよ」



 白闇は、どこまでも、果てまで、果てを越えて、広がる。


 なにもかもが純白に染め上げられた。


 そう。


 その白は、人の想い。


 何よりも強いもの。


 世界すら超越する、とてつもない力。




 純白に、瞳が閉ざされた。


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