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神喰らい  作者: 新殿 翔
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対峙

 自分が生態系の頂点に在った。


 この世界に自分より強いものはなく、全てが自分に従った。


 ……そしてそれは、ひどい孤独だった。


 同等のものがない。隣に立つものがいない。子を成すことすら出来ない。


 それだけで、ひどく生が無意味に思えた。


 どれほど超越していようとも……それだけだ。


 ならばいっそ、このような力は不要だった。自分は、普通に、生命の一つとして、生態系の一部となりたかった。


 だが、それは許されない。この力が自分を逃がさないから。


 ……いや。一つだけ。


 逃げる術を見つけた。


 それは……。



 お父さんとお母さんは、私の味方だった。


 私は普通と違って……そのせいで、迫害された。


 それでも、家族は、私を見捨てないでくれた。


 私が村を追い出されれば、一緒に村を出てくれた。


 誰かが私に刃を向ければ、身を呈してまで助けてくれた。


 だから、大好きだったんだ。


 でも……見てしまった。


 お父さんとお母さんが、二人で話し合っていた。


 もうこんな生活は嫌だ、と。


 耐えられない、と。


 そこで私は、自分がどうしようもないくらいにお父さんとお母さんの重荷になっているのだと、自覚した。


 これ以上、迷惑なんてかけたくはない。


 そして……。



 それなりの幸せが、そこにはあったのだと思う。


 幼い頃から、この能力故に、周りから忌避されていた。


 そんな環境下で私は育ち……大人になって、孤児を集めて、育てた。


 人の温もりが恋しかったのだろう。


 だから、自分よりも弱く、無垢で私を拒絶しない、子供達を集めた。


 もちろん、私は全力で子供達を育てた。


 私には子供達は眩しく輝いていて、それが羨ましくて……けれどそれは私が手にすることのできないものだと諦めて、だからこそ子供達の輝きをもっと強くしてあげよう。そんな風に、考えていた。


 しかし……そんな日々も、長くは続かなかった。


 子供達が、殺された。


 理由はひどく下らないもの。


 悪魔に育てられた、悪魔の子供達。


 私を悪魔と罵るなら好きにすればいい。しかし、子供達になんの罪があったのか。


 子供達を殺した連中を、一人残らず殺した。


 そうして私は生きる意味を失ったのだ。


 だから……。



 孤独は、常に私の側にいた。


 それを不快とは思わなかったし、仕方ないと納得もしていた。


 私は他とは違う。


 それは明らかだから……別に、奇異の視線も気にしないし。


 だから、これでいい。


 私は一人で生きていける。


 そう思っていた。


 でもある日……ひどい流行病が発生した。


 私の暮らしていた町もその病に罹る者が続出し……死者も沢山出た。


 そして……その責任の全てが、私におしつけられた。


 お前がこの病を流行らせたのだ。


 そう言われた。


 違う、と言っても誰も聞きはしない。


 道を歩けば、小石を投げられる。悪い時は、汚物をなげられた。


 私はただ、一人で生きていただけなのに。


 なのに、どうしてこんな目にあわなくちゃならないんだ。


 普通に生きることは諦めた。


 周りの態度にも納得した。


 そこまでした私に、まだ苦痛を求めるのか。


 ……だったら、構わない。


 こんな人生、こっちから願い下げだ。


 私をどこまでも許容しないというなら、もういい。


 ならば……。



「――っ!」



 一瞬で流れ込んできたそれらの記憶に、俺は打ちのめされていた。


 今のは……まさか、他の欠片達の、記憶……?


 ――なんて……、


 なんて……悲しい人生なんだろう。


 欠片の力のせいで、全員が全員、自らの命を諦めようとして……そして、世界を喰らってしまった。


 本当は……普通に、生きたかっただけなのに。


 なんで、こんなこと……。


 拳を握りしめる。




 ――そんな、時だった。




『――故ニ』



 重苦しい、無機質な声。


 それは言葉というよりも、効果音とか、そういったほうがより正確に思えた。



『我ガコノ世界ヲ喰ラウ。全テガ、我ガ内デ一ツニナル。ソレコソ、理想的ナ世界ダ』



 原初の声。


 なんの理由もないけれど、そうだと分かった。


 ……いいや。


 理由なら、あるか。


 この声から、感じるんだ。


 怖気を。


 吐き気を。


 寒気を。


 ……常闇と同じものを……!



『貴様モ我ガ渦ノ内ニテ溶ケ、交ワルガイイ。苦シミモ忘レ』



 周囲の闇が、俺に触れてくる。


 俺を渦に沈めようとしてくる。


 それを……思いきり振り払った。


 腕に力は籠もらないけれど。脚はぴくりとも動かないけれど。それでも……ただ、一つの気持ちが闇を退ける。 


 そこは他ならない、希望という名の闇。


 まだ、俺の手元に欠片の力がある。


 感覚からして、ほとんどの力は原初に奪われてしまったようだが……それでもまだ俺には、例え僅かであろうとも、戦う力が残っている。


 なにより、皆が俺に力を貸してくれている。


 だから、原初のその言葉を、拒絶する。



「ふざけるなっ!」



 俺は、こんな中途半端な終わり方はしない。


 苦しみを忘れるだって?


 誰が、そんなことを望むものか!


 これは、俺が背負うべきものなんだ!



「もう、なにもかも、お前の思い通りにはさせない……!」



 真っ直ぐに、闇の向こうを睨む。



 巨人が、微かに動く。


 本能的に、身体が動いていた。


 最大まで己の力を引き出して、天の魔剣を作り出し、それを巨人に掃射する。


 それに合わせて、周囲の神々も巨人に攻撃を加えた。


 強大な破壊力に巨人が晒される。


 攻撃の嵐が途切れ、その隙間から覗いた巨人は……無傷。


 ……これで、傷一つ負わない。


 出鱈目すぎて、笑いがこみ上げて来そうになる。


 これは……最悪だな。


 どうしろというのだ。


 と、不意に。


 巨人の動きが止まり、その身体が大きく、痙攣するかのように震えた。


 これは……ライスケか――!


 間違いない。


 きっと、あの巨人の内で、ライスケが何かをしているのだ。


 だったら、私達も弱音を吐いてはいられないな。


 あいつ一人だけに頑張らせるのは、なんというか、情けないじゃないか。


 無駄かもしれない。


 それでも、責めてほんの僅かでもライスケの手助けになれば……。


 その想いを込めて、天の魔剣をさらに作り出す。


 攻撃の嵐は、止まない。


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