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神喰らい  作者: 新殿 翔
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原初の渦



 終わった……のだろうか。


 空に広がった常闇がおさまり……残ったのは、ライスケ、ただ一人。 


 アスタルテの姿はない。


 勝った……ライスケが。


 彼が、この世界を救った……?


 長いようで短いような、短いようで長いような静寂。


 誰もが空を見上げて、固まっていた。


 ライスケ……。


 ライスケ……っ。



「ライ――」




 刹那。




 巨大な黒の爆発が、空を吹き飛ばした。



 渦巻く。


 五つの欠片。


 原初の欠片。


 いや……もうそれは、欠片とは呼べない。


 五つ全てが交わり、それは……完全な形を取り戻す。


 ――変わらない。


 アスタルテはそう言った。


 そう。


 変わらないのだ。


 あの時。


 俺が勝っても、例え負けたとしても、変わらないことがあった。


 それは……欠片が五つ集まってしまうという、その事実。


 でも……変わることだってある。


 アスタルテは、自ら望んで原初の復活を望んでいた。


 でも俺は……原初になんて、もうなにも喰らわせるつもりはない。


 だから、抵抗する。


 身体の内側で息づき始めた、巨大な存在に。


 溢れだしそうな、漆黒の常闇に。


 でも、俺のそんな抵抗は……あっさりと打ち砕かれる。


 抑えきれなくなったものが、零れだす。


 たった一滴。


 そのくらいの力。。


 でも、それだけで――……。


 ――空が、常闇に喰い尽された。


 と、思えば、空一面に広がった常闇が、俺へと収束する。


 逃げることなんで出来やしなかった。


 気付けば。


 俺の意識は、黒に塗り潰されていた。



 あれは……なんだろう?


 空に浮かぶのは、大きな黒い球体。


 空を常闇が覆い尽したかと思った次の瞬間、その常闇がライスケさんを覆い包むように集まった。


 その外見は……黒い卵。


 すると……ぴしり、という小さな音。


 え……?


 見れば、黒い球体の表面にひびが入って、そこから濃密な闇が滲みだしていた。


 そのひびが徐々に広がっていく。


 そして球体の全体がひびに侵され……砕けた。


 舞い散る黒い卵殻。


 その内側から出て来た何かが、地面に落ちてくる。


 巨大な質量に、地震のような振動が生まれる。


 立ち上った土煙が、ゆっくりと晴れて行った。


 ――ぞわり。


 全身が粟立つ。


 この世界の全てが、怯えている。そんな錯覚を得た。


 いや……もしかしたら、それは錯覚などではないのかもしれない。


 本当に、世界が恐れ、震えあがっている。



「なによ……あれは」



 言ったのは、ウィヌスさん。


 声はひどく揺れていた。


 土煙の向こうから、何かが突き出す。


 黒い腕。


 光の欠片すらも感じさせない、漆黒の腕だ。


 それも……指一本だけですら、私よりも大きい。


 その腕が地面に突き立ち、そして、さらにその根元までが煙の中から這い出て来る。


 巨人。


 目も口も鼻も、ありとあやるる人間らしさを削ったような、輪郭だけしかない巨人の姿が、そこにはあった。


 と――その背中が、蠢く。


 ばさり、と広がったのは、巨大な黒い翼。


 翼というよりも、複雑に絡み合った木の枝と言った方が正しいかもしれない。


 それが、空を貫いた。


 大気が震える。


 私の中で、何かが告げる。


 あの存在は、いけないものだと。


 逃げなくてはならないと。


 そして……逃げられはしないと。



 それが何なのか。


 直感的に、本能的に、理解していた。


 原初の存在。


 神々が世界を支えるより前。旧世界で、ただ一柱のみで世界を支え、そして狂った――原初の神。


 目の前の存在こそ、それに違いない。


 そうか……。


 わたしは、わたしの……わたし達の愚かさ加減に、ようやく気付いた。


 ライスケが勝って……それで、何故喜べるものか。


 ライスケが勝利し、アスタルテを喰らう。それはつまり五つ全ての欠片がライスケの体内に取り込まれたということ。


 それは……完全な原初の形成を示す。


 それこそが目の前の現象なのだ。


 ……あらば、ライスケは?


 ライスケは、どうなった?


 自然と、目は原初に向いた。


 恐ろしい、と感じる。


 今まで出会ったどんな存在よりも、目の前のそれは、強大で……醜悪だった。


 脚が竦む。


 それでも、視線だけは動かなかった。


 そこか?


 ライスケ。


 お前は……そこにいるのか?



 漂っていた。


 闇の中を。


 目は、開いているのか、閉じているのか。分からない。


 でも確かなことは……俺はまだ、ここにいるということ。


 不意に、足元の方から何かが込み上げてきた。


 視線を向けて……驚愕した。


 そこにあったのは、闇の中で、なお暗い、渦。


 これは……そうか。


 これが、そうなのだ。


 この巨大な渦こそが……俺が喰らってきたもの、全て。


 それに気付いた直後、渦の中になにかがちらついた。


 泡……?


 渦の中に無数に泡が浮かび上がっていた。


 その泡が、俺に触れる。




 ――っ。




 そして。


 俺の意識に、何かが染み込んできた。




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