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神喰らい  作者: 新殿 翔
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村での出来事

「馬車?」



 この世界にきて三日目。


 俺達は新しい村に到着していた。


 少し小さな、しかしそれなりに活気のある場所だ。



「ええ、馬車を買いましょう」


 俺達はこの街で今日を過ごすことにしたのだが……宿をとったところでウィヌスがそんなこと言い出した。


 ちなみに宿は部屋を二部屋借りた。


 さすがに、ウィヌスはともかくメルと同じ部屋で寝るのは抵抗がある。普通の女の子なわけだし。


 本人は俺と一緒でも構わないと言っていたが、そもそもこの宿は一部屋にベッドが二つしかないので、必然的に三人の俺達は二部屋を借りなければならないということで納得させた。


 というか、俺と一緒の部屋なんて、メルだって困るだろうに。



「馬車って……なんでまた」

「歩くの、面倒じゃない」



 ……まあ、そんなことだと思ったさ。


 でも、そうだな。


 確かに馬車っていうのは魅力的かもしれない。


 移動の効率も上がるし、荷物だって今より多く運べるようになるだろうし。



「丁度この宿の裏手で馬と馬車を扱ってるみたいだから、そこで買い付けましょう」

「分かった。ならすぐに行くか?」

「そうね。早いに越したことはないもの」



 ということで、宿の裏手に向かうと――そこには何頭かの馬がいれられた小屋と、そして倉庫のようなものがあり、倉庫の手前では一人の男がパイプを口に咥えてぼんやりとしていた。


 多分この男が馬と馬車を扱っているという人なのだろう。



「少しいいかしら?」

「んー、おー」



 ウィヌスが声を駆けると、ぷか、と煙を吐き出しながら男が立ち上がる。



「馬車と馬を用意して欲しいの。どちらもここにある一番高いものを用意してちょうだい」



 すると、その男は訝しげに俺達三人を見た。



「失礼だが……あんたら金は?」

「これだけあれば十分?」



 ウィヌスが懐から金貨を一枚出して男に投げた。


 それを受け取って、慌てて男がたたずまいを直す。



「おっと。こりゃ……」

「不足?」

「とんでもねえ。多すぎるくらいだ」

「なら、釣りはいらないから早く用意してちょうだい」



 にやり、と男が嗤った。


 金貨を一度服の裾で磨いてから、大事そうにポケットにしまう。



「おまかせあれ」



 小走りに男が倉庫の近づいて。その大きな扉を押しあけた。


 中にあったのは……数台の馬車。


 男はその馬車の中から男が示したのは、金属製の車輪が四つついた、屋根に布の張られている丈夫そうなものだった。



「これがうちで一番の馬車だ。よっぽどのことがないかぎりは長く使えるぜ」

「それじゃ、あとは馬ね」

「それだが……お客さん、運がいい。ついこの間珍しいもんを手に入れたばっかなんだ。馬じゃないが、それ以上に役に立つぜ。どうだ、見てみるか?」

「ふうん……いいわ、見てあげる」



 すると、男が倉庫の奥の方へと歩き出した。


 俺達もそれに続く。


 しばらくして、倉庫の一番奥に辿りついた俺達を出迎えたのは……金属製の檻。


 そしてその中にいる、全身を鱗で覆われた馬によく似た生物だった。それも、二匹。



「……魔物?」



 驚いたことに、その二匹から感じられる力は魔物のそれだった。


 メルが俺の陰に隠れた。


 怖いのだろう。まあ、メルは普通の人間だしな。



「へえ。王馬じゃない。こんなのどうやって捕まえたのよ」

「お嬢さんよくご存じだねえ。そう、こいつらは正真正銘の王馬さ」



 王馬?


 言葉の響きからしてなんか、なんか凄そうな雰囲気ではあるな。



「それがつい先日、樹を採りに山の中に入ったら、なんとこいつらを見つけてな。俺ぁ、外気はてっきり死んじまうんだとばかり思ってたんだが、なんでか知らねえがこいつら、とんでもなく気性が静かでな。なんか知らんが、簡単に捕まえられちまった」



 はっはっ、と。豪快に男が笑う。



「……なるほどね」



 ふと、ウィヌスが目を細めた。



「貴方、勘違いしてるわ。この二匹は別に、気性が静かなわけじゃない」

「へ……?」

「こいつら、死にかけてるのよ。王馬はもともと神聖領のシュレヴァ山脈にしか生息していないのだけれど、稀に病を患った個体が出て、そういうのは群れに被害をおよばさないように出来るだけ遠くに離れてくるの。この二匹はその病を患った個体で、ここまで来てしまったのね。けれど……そうね。この調子ならあと二・三日で死んでしまうわね。それほどに弱っていたから、貴方でも簡単に捕まえられたの」

「そりゃ……本当かい?」



 ウィヌスの説明に男が困惑気味に汗を流す。



「これじゃ、売り物にはならないわ」

「……なんてこった。せっかくの掘り出し物かと思ったのによ」



 肩を落とす男に、しかしウィヌスは不敵な表情を浮かべた。



「――けど、買ったわ」

「……へ?」



 男の身体が固まった。


 ウィヌスが何を言っているのか分からない、という顔だ。



「金貨八枚と銀貨九十枚追加。それでこの二匹を買うと言ったのよ」

「き、金貨八と銀貨九十!?」



 驚いたのは男だけじゃない。


 俺とメルもだ。


 おい……それ、俺達の所持金の大半じゃねえか。


 メルはどうやら、俺達がそれほどの金を持っていたことに驚いているらしい。



「そ、そりゃもちろん構わないが、そいつら死ぬんじゃないのかい?」

「普通ならね。けど、私は普通じゃないのよ」



 ウィヌスが手を振るう。


 と、鉄の檻が粉々に砕け散った。



「おわっ!?」

「ああ、ごめんなさい。でも、上客なんだからこの檻の弁償には目を瞑ってちょうだい」

「お……おお」



 こくこく、と男が小刻みに頷いた。


 ウィヌスはそれに見向きもしないで、王馬二匹へと歩み寄る。


 二匹の視線がウィヌスに注がれた。


 彼女はその二匹に掌をかざす。すると、そこに仄かな光。


 俺はそれを見るのが、これで三度目になる。


 加護だ。



「病を取り除いてあげるわ」



 その光はすぐに消えて……しかし、その効果は絶大だった。


 王馬の鱗の隙間から、赤い炎が噴き出す。



「うぉっぁ!?」



 その炎に煽られて、男が腰を抜かす。


 ウィヌスに関しては心配するまでもない。


 俺も同じくだ、こんな炎どうってことない。しかしメルはそうではないので、彼女に迫る炎に対して腕を振って、それを薙ぎ払う。


 王馬二匹は……先程までの静かさが嘘のように低い唸り声をあげ、強大な敵意をウィヌスに向けていた。


 それを受け止めて、ウィヌスが口の端を吊り上げる。



「王馬は知能が高い魔物の筈だが……貴様ら、病で脳まで腐ったか? 他でもない、命の恩人である私に対しこの態度……身の程を知れ」



 素の声でウィヌスは言い放つと、次の瞬間、王馬達が地面に叩き伏せられていた。


 普通なら何が起きたのか分からなかったろう。


 だが、俺はそれをしっかりと見ていた。


 ウィヌスの背中から一瞬だけ爪翼が現れ、そして王馬達を叩き伏せた後に即座に消えたのだ。


 まさに神速。


 王馬達の悲鳴が遅れて響く。


 ウィヌスはそのまま、王馬達を見下ろして言う。



「選べ。恩に報いて生きるか、恩を仇で返して死ぬか」



 その問いに、王馬達はか細い声をあげることで応えた。


 鱗から噴き出す火は収まり、敵意も霧散する。



「ふん、それでいいのよ」



 くる、と。


 ウィヌスが身を翻す。



「それじゃあ、明日の朝に取りに来るから、それまでこれの世話よろしく」

「よ、よろしくって、こんなのの世話しろってか!?」

「ええ。大丈夫よ、王馬は馬鹿じゃない。貴方を殺したら自分達も殺されるってことくらいもう理解してるわ」

「……」



 男の肩を叩いて、ウィヌスが倉庫を出ていった。


 ……あ、追わないと。


 慌てて俺とメルは足を動かす。


 と――、



「なあ、あんた」

「ん……?」

「あのお嬢さん、何者なんだい?」

「……あー。ま、悪魔みたいなもんだな」



 メルがぎょっとした顔で俺を見るが気にしない。


 神に不敬、ってか?


 でもなあ……俺は絶対にあいつには神より悪魔の方が似合うと思うんだよ。



「悪魔……なるほどなあ」



 いまだに地面に伏せたまま王馬達を見て、男が溜息を吐いた。



「頑張れよ、兄ちゃん」

「どうも」



「思わぬ出費だったわね」

「お前……勝手に金使うなよ」

「あら、いいじゃない。王馬なんて滅多に手に入るものじゃないのよ?」

「というか、王馬ってなんだ……」



 すると、ウィヌスは手短に王馬について教えてくれた。


 馬の百頭に匹敵する怪力を持ち、人の倍の寿命と優秀な知恵を兼ね備えた魔物なのだという。その存在は希少で、貴族の間では金貨十枚以上で取引されるのもザラのようだ。


 それを金貨十枚以内で買えたんだから……得、なんだろう。


 でもなあ……、



「金、どうするんだ?」

「残金でもしばらくは楽出来るけど……どうせだから、手早く集めちゃいましょうか」



 ウィヌスが足を止めた。


 ――とある建物の前で。



「……嫌な予感がするんだが?」

「さ。じゃあ、またギルドで荒稼ぎしましょうか」



 やっぱりか……。



「そう何度もあんな手が上手くいくのか……?」



 あんな手、とは最初の村――ライーンのギルドでやったアレのことだ。


 俺が山にクレーター作ったやつ。


 ウィヌスは今回もあんな風に滅茶苦茶な手段で金を手に入れるつもりなのだ。



「大丈夫よ」



 で……ギルドに入る。


 このギルドは普通に仕事の斡旋しかしていないらしい。


 小さな建物の中には壁一面に依頼の紙が張り付けられ、隅にはカウンターがあり、そこで髭面の男が頬杖をついてる。


 その男が俺達を見て……迷惑そうに顔を歪めた。



「黒髪の男と変な服来た女……あんたら、ライーンのギルドから大金巻き上げたって連中だろ」

「……」



 ウィヌスの沈黙が痛い。


 ――どうやら、今回は真っ当に仕事するしかないみたいだな。



「情報が早いのね」



 思い通りにならなかったのがさぞ不快なのか。


 ウィヌスの頬は若干引き攣っている。



「そりゃな。ギルドだって金は無限じゃねえ。何回も同じような手で金を巻き上げられたんじゃ溜まったもんじゃねえんだよ――で、依頼は受けるのか?」



 催促する男に対し鼻をならし、ウィヌスは壁に貼り付けられた紙を眺めると、その中から一枚とって、男に突きつけた。



「これでいいわ」

「ランクA、西の草原で旅人を襲う大型の魔物の群れの討伐だ。報酬は銀貨二十枚」

「周囲への被害は押さえた方がいいのかしら?」

「いや。魔物を全部始末してくれればいい」

「そう」



 その返事に満足げに頷くと、ウィヌスは俺とメルを振り返って、いい笑顔を浮かべた。



「ちょっと行ってくるわ」



 ウィヌスが一陣の風となって消えた。



「……噂にゃ聞いてたが、本当にバケモンなんだな」

「…………ああ」



 っていうか……ウィヌスが自ら動くなんて。


 あいつ、よっぽど思い通りにならなかったのが気に入らなかったんだな。


 多分今日が終わることには、その西の草原とやらは一面荒野になるんだろうなあ。八つ当たりって、まるで子供だ。


 件の大型の魔物の群れとやらに同情する。


 そして、同時に嫌気がさした。


 ウィヌスが魔物を殲滅するのは確実だ。


 ……その魔物の命は、十中八九俺に流れ込んでくるだろうな。


 なにせ、ウィヌスがそうすることが分かっていて止めなかったんだから。これも殺した範囲にはいるだろう。


 この能力、本当に気持ちが悪い。


 いったいどれほどに俺に命を喰わせてば気が済むと言うのだろうか。


 ……ほんと、気持ち悪い。



「メル。俺達は先に宿に帰るか」

「……え、あ、はい」

「ん、どうかしたか?」

「いえ……」



 メルが心配そうに俺を見上げてきた。



「……また、顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか?」

「――……ああ」



 頷いて、俺は苦笑した。



「持病みたいなもんだ。気にするな」

「そう、ですか……」



 いつか、メルにも俺の力について話す時がくるのだろうか?


 ……その時、彼女はどんな顔をするのか。


 考えたくもなかった。







ヤッヴェ。

戦闘要素薄いとマジで書きにくい。

戦闘書きたいなぁっ!


てかメルの活躍マダー?

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