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神喰らい  作者: 新殿 翔
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常闇に喰らわれる者



「本当にこんなことで、アスタルテ達がやってくるのか?」

「さて……どうだろうね」



 言いながら、ティレシアスが常闇で地面にクレーターを作る。



「どうだろう……って」

「まあ、下手に探しまわるよりかは、確実だと思うよ」



 そうなのだろうか……。


 この行為を初めて、三日。


 あれからやってくるのは、神ばっかりだ。


 その度に隠れているのだが……正直、いつ見つかるかひやひやしている。


 別に、恐ろしいとか、そういうわけではない。


 ただ神に見つかったら、また戦わなくちゃならないのかもしれないし……それは、望ましくはない。


 下手に戦って、もし常闇が暴走したら……最悪の結果になる。


 もちろん万が一そんなことがあった時は、逃げるけどさ。



「慌てずにいれば、いずれは会えるさ」

「ああ……」



 ――戦いは、好きじゃない。


 こんな能力あるなし関係なく、そういうものが嫌いなのだ。


 だって戦いなんて……傷ついても、傷つけても、辛いだけだ。


 それでも……今だけは。


 一刻も早く、アスタルテ達と決着をつけたかった。


 言うまでもなく、その決着とは、勝利という形で、だ。


 そういう思いがあるのは……大切な仲間の為。


 ……多分、そんなこと言ってたら、イリア辺りに怒られそうだな。


 自分達を理由にするな、って。


 苦笑する。


 そんなイリアの様子が、簡単に想い浮かべることが出来た。


 でも、仕方ないんだ。


 俺に残されたものなんて……仲間くらいしかないんだよ。


 だから、それの為に戦わせてほしい。


 それで皆に迫る危険が取り除けるなら……これほど嬉しい事はない。


 俺なんかが、僅かでも、誰かの力になれるなんて。今までそんなの、少しも考えたことはなかったけれど……不思議だ。なんだか、力が沸いてくる。


 原初とか、関係ない。


 もっと温かな力だ。



「なあ、ティレシアス」

「なんだい?」

「俺さ……負けるつもりは、ない」



 言うと、俺の言葉を吟味するように僅かにティレシアスが沈黙して、そして頷いた。


 その口元には、柔らかな笑み。



「それでいい。私も、負けるつもりなどないよ」



 そうだ。


 負けない。


 負けられない。


 その言葉の重みを、自分でしっかりと感じる。



「……行こう、ティレシアス」



 そう、歩き出そうとした時――、




「どこに行くの? 私達を、待っていたのではないのかしら?」




「――っ!」



 俺とティレシアスが、その場を飛び退く。


 直後、地面に巨大な漆黒の牙が突き刺さった。


 これは……常闇……っ!



「どういうつもりかは知らないけれど、こんな派手な動きをして……誘っていたのでしょう? なら、それなりのもてなしは、してくれるわよね?」



 轟、と。


 辺りに濃密な異質が満ちた。


 これ、は……!?


 ざり、と。地面を踏みしめる音とともに、その姿が俺達の前に現れた。


 そしてその姿に俺は――、



「アスタルテ……?」



 ――違和感を、覚えた。


 違う。


 なにかが。


 俺の知っているアスタルテという存在と、目の前にいるアスタルテという存在が、どこかでズレている。


 そんな違和感。


 その正体がなんなのか、分からない。



「……ふむ」



 ティレシアスが、アスタルテに常闇を放つ。



「いきなりね」



 そのティレシアスの常闇を……アスタルテの常闇が喰らった。


 ――は?


 ちょっと、待て。


 今のは、どういうことだ?


 なんで、常闇が常闇に……だって、常闇同士が触れたら、対消滅するはずじゃ……。



「なるほど」



 ティレシアスに驚いた様子はない。



「ふん。予想していたの?」

「少しはね。まさか、本当にこうなるとは、思わなかったが……」



 なんだ?


 ティレシアスは、これがどういうことなのか、分かっているのか?



「どういうことなんだよ、ティレシアス」

「……簡単なことだよ。常闇が、常闇に喰われる。それはつまり、私の常闇が、アスタルテの常闇に大きく劣っていた、ということに他ならない」



 なんだって?


 それは……どういう……。



「アスタルテ」



 ティレシアスが、アスタルテの名前を口にする。


 そして、その言葉を口にした。


 決定的な、それを。




「ヘスティアを、喰らったか……」



 もう嫌だ。


 嫌だよ……。


 会いたいのに。


 もう一度、会いたいのに。


 ただ、戻りたいだけだったんだ。


 あの時に。


 特別幸せな人生ではなかったけれど。


 それでも、今よりずっとマシだった。


 でも、それもなくなってしまった。


 常闇が、喰らってしまったのだ。


 全部、全部……。


 それが苦しくて……辛くて……。


 だから、取り戻したかった。


 こんな力を私に押し付けたこの世界に復讐をして、それで原初の中で、皆に再会したかった。


 けれど……それは、無理らしい。


 原初の中では、全てが溶けて一つになる。


 それは、個を失うと言うことで……例え一緒にあったとしても、何を感じることも出来ない。


 温もりも、声も、何もかもを失うのだ。


 それじゃあ、違う。


 私は、戻りたかったんだ。


 普通だった、あの頃に。


 なのに……どうして?


 どうして世界は、こんなにも、酷いの?


 私に優しくないの?



「もう嫌だ……」



 なにもかもが、嫌だった。


 地面に膝をついて、涙を流す。


 なんでなのかなあ。



「ねえ、どうして私達だけ、こんな目にあわなくちゃいけないの……アスタルテ」

「それは、この世界のせいよ」



 背後から、アスタルテの声。


 世界のせい……そうだよね。


 こんな力、押し付けられて……全部、そのせいなんだ。


 復讐、かぁ……。


 でも……もう、無理かな。


 なんだか身体を動かすのが、すごく難しい。


 ずっとこうして、ここで、泣いていたい。



「私はやめるよ」

「……なんですって?」

「復讐なんて、いいや。なんだか、どうでもよくなっちゃった」



 アスタルテの気配が、鋭くなった。



「何を言っているの、ヘス。私達は、この世界に復讐しなくちゃいけないのよ?」

「もう、いいや」

「よくないっ!」

「……いい。私は、もう、いいの」



 なんだか、疲れちゃったんだよ。



「何故なの!? どうして貴方も、シアスも! 復讐を諦めるの!?」



 だって……復讐なんてしても、何も戻ってこないんだもん。



「っ……もういい!」



 アスタルテが叫ぶ。



「だったら、もう……例え私だけになっても、この世界に復讐してみせる! 貴方達なんて、いらない!」



 そして、溢れだした。


 アスタルテの、常闇。


 ……ああ。


 これでも、いっか。


 うん。


 アスタルテに、全部あげる。


 もう、私にはなにもないから。





「ばいばい」





 黒に、包まれた。


ヘスティアが思ったより早く退場してしまった……。

……多分、ティレシアスを動かすタイミングをミスったよね、作者。


……作者の馬鹿っ!

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