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神喰らい  作者: 新殿 翔
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戦い

 炎を殴って消し飛ばし、さらにその衝撃が空中を駆け抜けて、ツィルフや、その後方に控えていた神々を襲う。



「っ、なんちゅう威力や……!」



 かろうじて吹き飛ばされなかったツィルフが苦々しく呟く。



「……悪いな。やっぱり、殺されてやるわけには、いかない」

「男なら一度口にした言葉は守りいや」



 言いながら、ツィルフの身体が変貌した。


 その髪や服が、完全な炎に変わる。そしてその炎は、触れただけで地面を溶岩のようにしてしまう。



「こんなに想ってくれる仲間がいて……それで、諦めたら、それこそ男じゃないだろ?」

「納得したわ。だがまあ……」



 ツィルフが、空に向かって手を掲げた。


 夜空が、明ける。


 太陽を思わせる、巨大な紅蓮の塊が、夜空に輝いていた。


 その炎塊が――俺に落ちて来た。



「だからって、ワイらがすることは変わらんがな!」



 その炎を、もう一度。拳で消し飛ばす。



「……無駄だ」



 ツィルフ一人の力じゃ、俺を傷つけることはできない。



「まあ、そうやろうな。けど、忘れてへんか?」

「そう。ここにいる神全てが貴方の敵なのです」



 見えない何かが駆け抜けるのを、空気の揺れから感じる。


 それを、握りつぶした。


 風の刃、とでもいうのだろうか。


 それが飛んできた方向を見れば、ナワエが立っている。多分、彼女は風の神なのだろう。



「それと、もう一つ」



 ナワエが、目を細める、


 その視線の先には、ヘイとメル、それに王馬達。



「貴方には、足手まといがいる」



 暗闇の中から、一人の神がヘイに向かって飛び出した。


 と、空から二本の剣――天の魔剣が飛んできて、それをヘイが受け止め、そのまま流れるような動きで神の身体を四つに分割した。



「足手まといか」



 イリアが口の端を吊りあげる。



「残念だが、わたしの側近は、そこいらの人間とは一味違うぞ?」

「そういうことだ」



 天の魔剣を両手に構えて、ヘイがナワエを睨んだ。



「いくら神様だからって、おとなしくやられるわけないだろうが」

「――なるほど。人にしては、優秀なようですね。それにその剣……神すら切り裂くとは。天属性、ですか。厄介ですね」



 言葉の割に、ナワエの顔は涼しげだ。



「いいでしょう。ならば、まずそちらから。弱いところから崩すのは、基本ですしね」



 次の瞬間、ナワエの身体はメルの背後にあった。



「――っ!」



 ナワエが腕をふりかぶり、メルが、息を呑む。


 しかし、ナワエがメルに攻撃を加えることは、結果として出来なかった。


 横から、巨大な蹄が四つ、落とされた。


 ナワエがそれを避ける。



「……王馬に好かれているようですね」



 蹄の主である王馬達は、メルを守る様に、二頭で彼女のまわりを固める。



「メルはいい子だからな。そりゃ王馬達だって好きにもなるさ……っ!」



 そこに、ヘイがナワエに切りかかる。


 ひらりとそれを避けて、ナワエは空中に指を滑らせた。ヘイには届いていない。


 ――だが、



「っ……危、な……!」



 ヘイが身体の前で構えた天の魔剣が、圧される。


 おそらく、ナワエの指の動きに合わせて風の刃が放たれたのだろう。



「風を見切るとは……少し、驚きました」

「見切ってなんかねえよ、ただの勘だ!」



 叫び、再ヘイが剣をはしらせる。それでも、やはりナワエは落ちる葉のようにその刃を回避した。


 そして、その合間合間に不可視の刃が放たれる。ヘイもまた、それをうまく防いでいた。


 勘とは言っていたが、実際には風の音や動きを感じて、無意識のうちに攻撃を感知しているのだろう。でもなければ、あそこまでやりあえるわけがない。


 凄いのは、俺のように人以上の身体を持っているわけでもないのにそれを感じとれるということだ。


 ……と、ヘイがナワエと打ち合っている隙をつくように、数人の神がメルに近づいた。


 だけど、やらさせるか……!


 魔術によって、地面から堅固な岩の塊を取り出す。


 それを、思いきり投擲した。


 岩は投擲の衝撃で一瞬で蒸発して、プラズマ化……そのまま、圧倒的な高熱とともに神を抉った。


 遅れて、炎が駆け抜ける。



「おいおい、ワイを差し置いて炎とはやってくれるやないか」



 そこに、ツィルフが炎を放ってきた。



「だから、無駄だって言っているだろうが……!」

「そうは思わんなぁ」



 すると……炎に、さらに闇や光、他の様々なものが混じった。


 見れば、他の神々も俺に向かって攻撃を放ってきている。


 っ……流石に、マズいかもしれない。


 咄嗟に、左手を前に出す。


 神々の攻撃が、掌に触れた。


 瞬間――。




 ……痛……っ!




 痛覚、というものを、久しぶりに感じた。


 掌に、焼けるような、刺されるような、裂かれるような、砕かれるような、そんな痛みが生まれる。


 でも……悲鳴をあげるほどの痛みじゃない……!



「っ……」



 声を出さなかったのは、ほんの些細な強がり。


 攻撃をうけた掌に、傷はない。


 どうやら、怪我はほとんど一瞬で直ったようだ。


 ……本格的に、人間じゃないな、俺は。


 改めて痛感する。


 …………でも。



「そんな俺でも、大切って思ってくれる仲間がいるんだ!」



 それが、嬉しくて。


 それが、ありがたくて。


 だから、それに応えたい。


 俺は本当に弱くて、馬鹿で……どうすればいいのか、今も正直分かっていない。


 それでもここで殺されるなんて選択肢は、とっくに消してしまったんだ!



「負けられないんだ……加減はしないぞ!」



 幸いにも、相手は神だ。


 あの黒い闇でもなければ、本格的に傷つけることは出来ない。


 だから……思いきり腕を振るう。


 とにかく、全力で。


 きっと、誰にも俺が腕を振るったことは認知できなかったろう。


 気付けば。


 俺の周りにいる神々が、俺の腕の一振りによって巻き起った爆発的な突風によって吹き飛ばされていた。



 神々が吹き飛ばされる光景は、なかなかに痛快だ。


 わたしは、それを空から眺めていた。



「見ろ。貴様の仲間が塵芥のように払われているぞ?」

「……」



 正面には、ウィヌスが浮かんでいる。


 わたしの相手をするつもりか……。


 ふん。



「貴様とやるのはこれで二度目だな」

「そうね」



 一度目は、いつかの闘技大会だ。


 思い出して、血が騒いできた。


 状況が状況だとは言え……やはり、多少は、な。


 天の魔剣を、空中に数本展開させる。



「なあ、ウィヌスよ」

「……なに?」

「貴様はこれでいいのか?」

「…………」



 答えは返ってこない。


 答えるつもりがないのか……あるいは、答えられないのか。


 私的には、後者であってほしいのだがな。



「ライスケを殺すことが、ほんとうに正しいと思うのか? あいつは、世界を危険に晒すような人間だと?」



 そんなわけがない。



「もしそんな人間だったら、貴様は……わたしだって、あんな気弱で、秘密ばかりで、何もしないろくでなしな男となど、とっくに分かれているとは思わないか?」



 少なくとも、わたしはライスケがそれだけの男ではないと思ったから、ここまで一緒にきたのだ。


 側にいて面白いと、そう思ったから。


 ウィヌスだって、そうではないのか?



「……貴方が少し羨ましい」

「なに……?」



 ウィヌスが、悲しそうな瞳を見せた――気がした。



「そうやって、自分の意思が自分のものであると、そう確実に言える全ての人間が、今だけは、本当に羨ましい」

「どういう意味だ?」

「別に……」



 薄い笑みを浮かべ、ウィヌスは肩を竦めた。


 そして、その背の爪翼が、大きくはばたく。



「ただ、私は……本当に最初から全部、自分の意思でライスケについてきたのか……分からないから。もしかしたら、私は無意識のうちに、最初から世界の命令を受けていただけなんじゃないか……そう思うと、もう、分からない」

「なん――っ!?」



 言葉を口にし終える前に、ウィヌスがわたしに向かって飛び込んできた。



「どこからどこまでが自分の意思か分からないなら、もう全部が世界の思い通りでいい。それが、神として、一番正しい形だから」



 天の魔剣と、爪翼が、ぶつかる。



 ヘイさんが、ナワエさんの攻撃を――私にはまったくと言っていいくらいにわからないけれど――防いで、さらに反撃する。


 けれど、さっきからヘイさんの剣はあたらない。


 いくら神様にも通用するとはいっても、あたらないのでは意味がなかった。



「ええい、ちょこまかしやがって!」

「こうも人間に相手取られると、神として自分の力量に疑問を持ちますね」

「ならさっさと自信喪失してくれ!」



 すごい、と。


 本当に、すごいと思った。


 神様相手に立ち向かえて、それできちんと相対できるヘイさんが。


 私なら、きっと怖くて逃げてしまう。


 それ以前に、戦う力なんてないから……。


 ヘイさんも、イリアさんも、それにライスケさんも、皆、懸命に戦っている。


 ウィヌスさんも、多分……なにか、違うところで、戦っているんじゃないかと、そんなこともふと考える。


 私だけ、何も出来てない。


 ――ううん。


 それじゃあ、駄目なんだ。


 せめて。


 せめて……言葉だけでも。



「頑張ってください、皆さん!」



 言葉だけでも、届けたい。



「余計な真似を……」



 忌々しい。


 あんな、下らない仲間ごっこ。


 所詮、偽善だ。


 全てを知れば、あの神のように見限る癖に。


 この世界は、そうやって、私達に苦しみを強いる。


 だから……はっきりさせよう。


 もう彼が迷うことがないように。


 彼がそのことに気付けるように。


 さあ。


 ここから、始めよう。


 終わりを。


なんか予定よりどんどん遅れてる……。

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