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神喰らい  作者: 新殿 翔
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騎士の平穏



 先日保護した子供は、あいつのところにさっさと送り届けた。


 といっても送ったのは俺じゃなくて部下だけど。


 ……書類仕事が多すぎて、あっちまで行く余裕がないんだよな。


 ったく、どうして騎士が書類仕事なんて……。


 ぼやきながら、やっとたどり着いた最後の一枚の処理を終える。



「やっと終わった……」



 深い溜息を吐き出して、椅子から立ち上がる。


 背筋を伸ばすと、ごきごきと小気味いい音がした。



「よし。飯食いに行くか」



 書類はとりあえず机の端にまとめておいて、と。


 部屋から出ようとして、俺が扉をあけるより先に外側から誰かが扉をあけた。



「どーも隊長」



 ヌルサか……。


 こいつが俺のところに来るってことは……。



「飯おごってください」

「……またかよ」



 こいつ、またやったのか。


 呆れる。


 ヌルサには、習慣みたいなものがある。


 こいつは給金が入ると、毎回必ずそれを全額食べ物に変えて、そこらへんにいる浮浪児に見境なく配るのだ。


 昔の自分に浮浪児を重ねているのだろう。


 そんなわけだから、ヌルサはいっつも金欠で、日常的に俺に飯をたかりにくる。


 ……まあ、ヌルサのそういうとこは嫌いじゃないし、いっつも優秀に働いてくれるし飯くらいならおごってやるけどさ。



「そんじゃ、何食う?」

「肉ですねー」



 聞くまでもなかったな。この肉食獣。


 なら、いつものところでいいか。



 騎士団の詰め所を出て、そのまま城下の小さな酒場に向かった。


 ここは味もそこそこで量も多いので、騎士団の面には人気なのだ。


 俺はそこまで量を食べるわけでもないのだけれど……、



「がつがつがつがつがつがつがつ」



 この山のようにうずたかく盛られた肉を咀嚼していく大食いがいるので、自然とここに足を運んでしまうのだ。


 というかここじゃないと俺の財布がからになる。


 俺だって、給金のほとんどは仕送りしてるんだ。余裕のあるほうじゃない。



「お前には胸やけとか、そういうものがないのか?」

「なんですかそれ? おいしいんですか?」



 どうやらご存知ないらしい。


 というか、前々から気になってるんだよな。


 ……こいつ、なんで太らないんだろ。


 不思議だ。


 いくら普段から身体を動かしているからと言っても、これだけ食えば腹が出そうなものだが……。



「隊長、なんでこっち見てるんですか? 惚れましたー?」

「いい食いっぷりだな、と」

「隊長は小食ですよね」



 ヌルサを基準にすれば大抵のやつは小食になるだろうな。



「にしても、最近は異端が多くて嫌になりますよね」



 唐突にヌルサがそんなことを言いだした。



「んー、ああ……」



 最近になって、急激に異端者が増え、その掃討任務も増えてきた。


 ……だが、多少この国の政治に詳しい者から見れば、その原因は明らかだ。


 この国は、王族と教皇が最高権力者として君臨している――というのは表向きの話。実際のところ、ほぼ全ての実権は教皇側が握っているのだ。


 そして、連中は「神々の名のもとに」という名分で、民から多くの金を巻き上げている。民は民でヴェイグニア教徒ばかりなので、その言葉を疑うこともせずに進んで金を納める。


 民としては、納めた金の分だけ自分達が救われると思っているのだろうが……実際、そんなわけがない。


 納められた金は、ほぼ全てがお偉いさんの懐に入れられて、福祉などに回されるのはほんの一部のみ。


 そんなことで、まともに国や、民の生活が維持できるわけもない。


 徐々に民の生活苦は増し、それがヴェイグニア教への不信へと変わる。


 そうやって、異端が増えていくわけだ。


 この国は……もう遠くない未来に終わるのかもしれない。


 そう思っても、口には出さない。


 そんなことしたら、普通に異端として裁かれそうだ。



「まったく、教典をばっちり読んで神々を信じていればいいのに」



 ヌルサは典型的な教徒だよな。


 でもさ、ウルサ。


 神々を信じても、救われることなんて滅多にない。それが現実なんだぞ。


 俺だって、金を稼ぐために必死に剣の腕を磨いて、ここまできたんだ。その努力は神々の加護なんかじゃない。神々なんて信じたところで剣の腕があがるわけじゃない。


 ほんと、この国は狂ってるよ。



「隊長!」



 そんな事を考えていると、騎士が一人、俺達のところにやってきた。



「んー?」

「大隊長がお呼びです」



 げ……あのおっさんが?


 ってことは……またなんか任務かよ。



「……行くぞ、ヌルサ」

「あ、待って下さい。これ全部食べるまで」



 ヌルサが飲み込むように肉を国に放り込んだ。一噛みもせずに、あれだけあった肉が綺麗に消える。


 ……こいつ、人間か?



「……まさかこんなことになるはなぁ」



 馬にまたがりながら、呟く。


 後ろには、俺の部下が同じように馬にまたがり、一つの馬車を囲んでいた。


 さる高官殿の乗る馬車だ。


 なんでも休養をとある田舎の町でとるらしく、その護衛として俺達がお呼ばれしたわけだ。


 こんな任務、適当な兵士でもつけとけばいい話じゃないか。騎士を呼ぶほどのことか?


 とはいえ、俺としては大歓迎。


 人殺ししなくていい気楽な任務だし……それに、とある田舎の町というのが、なんと俺の故郷だというのだからなんて偶然だろう。


 しばらく帰ってなかったし、丁度いい機会だよな。


 ま、息抜き気分でいくとしよう。



「隊長、馬がへばってるんですけどー」



 隣に並んでいるヌルサがそんなことを言って来た。


 ……そりゃそうだろう。


 ヌルサの武器である剛槍は、その外見を裏切らない重量を誇っている。ヌルサは普段から魔術で筋力とかを強化してそれを使っているらしいが、馬は魔術を使えない。つまり、槍の重量とヌルサの体重をこの馬は自力で運んでいるわけだ。


 そりゃ疲れもするさ。


 かわいそうに……。



「仕方ない。槍をこっちによこせ。その馬の体力が少し戻るまでこっちで運んでやるから」

「隊長やさしー」



 軽々とヌルサは槍を片手で持って、こちらに放り投げて来た。


 って、この馬鹿――!


 慌てて腕を広げて、槍を受け止める。


 肩が外れるんじゃないかと思うほどの重量がのしかかってきた。


 それはそのまま俺のまたがる馬にも伝わり、突然背中にかかる負担が増えたことに混乱したことに馬がなき声をあげた。


 どうにか馬を宥める。



「っ……この、アホが! 投げて渡すやつがあるか!」

「あー、すみません」



 まったく申し訳なさそうじゃないぞこいつ。


 ったく。


 溜息をつく。



「そういえば、これから行くのって隊長の故郷なんですよねー?」

「ん、ああ」

「どんなところなんですか?」



 どんなところ、と聞かれても困る。



「特になんの面白みもないところだぞ。森に囲まれてる小さな町で、まあ休養とかとるには静かでいい場所かもしれないけど……」

「へえー」



 あと、熱心な教徒とか少ない。ヴェイグニア教に無関心な人間ばっかりなんだよな。田舎すぎて外界から孤立してるからかもしれない。


 そんなところで育ったから俺もこんな感じになったわけだけれど。



「とりあえず、過度な期待はよしとけ」



 ほんと、大したことない場所だし。


 ……唯一自慢できるのは。あの平和な空気だけか。





思った以上に書きにくいな……。

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