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神喰らい  作者: 新殿 翔
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過去への歩み



「……」

「……」



 なんか、会話が続かない。


 宿までの道をゆっくりと歩きながら、ちらりと横にいるフォルを見る。で、視線がぶつかった。


 なんだか気まずくて、視線を外した。



「……」

「……」



 なんだろう、この沈黙。


 別に不愉快ってわけじゃないけど、手の届かないところが痒いような感じだ。



「……」



 このまま、黙ったまま宿について、別れるのかな。


 そんなことを考えると、なんだかそれは、少し嫌だった。


 これで別れたら、後味が悪すぎる。


 ……よし。


 とにかく何か声をかけよう。


 そう思って口を開こうとして――、



「あの、ヘイさん」



 それより早く、フォルが口を開いた。



「な、なんだ?」

「……昨日は、本当にありがとうございました」

「ん……お礼はもういいって」

「いえ。何度お礼を言っても、言い足りません」



 そこまで感謝してくれなくてもいいのに。



「それに、嬉しかったですから」

「嬉しかった?」



 フォルは頷いて、俺を見上げた。


 その顔は、心なしか少しだけ赤くて……なんだか無性に緊張する。



「最初、街中で男の人から助けてくれた時も……森に薬草を採りに行った時も、ヘイさんがいてくれて、助けてくれて、嬉しかったです。それに……かっこよかった」



 かっ――!?


 慣れない褒め言葉に、思わず過剰に反応してしまう。



「だから、やっぱり……何度でも、ありがとうって伝えたいんです」

「……そっ、か」



 いい子だな、フォルは。



「……」

「……」



 ぷつり、と。途切れるように、また沈黙が落ちた。


 フォルは、顔を俯かせてしまっている。


 けれどその耳まで赤くなっているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。


 ……風邪、だろうか?


 昨日俺の看病で眠れなかった、とか?


 だとしたら申し訳ないな。



「……」



 俺の聴覚は、大分離れたヘイ達の会話をしっかり拾っていた。


 ……で、なんだか自分がひどく悪趣味に思えて来る。


 いや、事実悪趣味だろう。


 いくらウィヌスとイリアに連れ出されたからと言って、盗み聞きはよくない。



「聞こえるか?」

「ちょっとだけなら。けれど、会話の内容はほとんど理解できないわ」



 こそこそと物影からヘイ達の様子をうかがっているウィヌスとイリアに溜息をついて、俺は魔術を使った。


 耳に、土の魔術で造り出した耳栓を詰め込んだ。



 宿の前についた。



「わざわざ送ってもらって、悪かったな」

「……」



 俺の言葉に、しかしフォルは沈黙を返した。



「フォル?」



 様子を窺おうとして、不意にフォルが勢いよく顔をあげた。



「ヘイさん!」

「お、おう?」



 その勢いに圧されて少し後ずさる。



「な、なんだ?」

「……っ!」



 何か意を決したような顔を、フォルは浮かべた。



「ヘイさんは、この街を出て行ってしまうんですか?」

「ああ……まあ、旅の途中だしな」



 多分、明日には出ることになるだろう。


 その後の進路は分からないが。



「私は、ヘイさんにこの街に残って欲しいです」

「え……?」



 軽く思考が停止した。


 今、なんて言われたんだ?


 この街に、残って欲しい……?



「な、なんで……」

「それは……私は……ヘイさんのことが、好きです! かっこよくて、優しいヘイさんが!」

「――――」



 今度こそ、完全に思考が凍結した。


 ……は?


 いや……え?


 今、フォル……好きって……。


 ――え?



「な、なんの冗談だ?」

「冗談じゃ、ありません」

「俺達、どんだけ歳離れてると思ってんだ。それで俺みたいのが好きって……本気、なのか?」



 こくり、と。


 フォルが真っ赤な顔で俺を見据えながら、頷いた。


 その目尻には涙が溜まり、きっと、今もありったけの勇気をふりしぼって俺に想いを告げているのだろうと言うことが、これでもかというくらいに伝わってきた。



「……ヘイさんは、私みたいな子供の言葉なんて、無視しますか?」



 そんなこと、出来るわけがなかった。


 今目の前でこうして俺を見つめる少女は、けれど一人前の女だった。


 その言葉を無視する?


 冗談じゃない。俺は、そこまで最低なやつじゃない。


 ……けど。



「ヘイさんには、残って欲しいです」

「それって、そういう意味、なんだよな?」



 迷わず彼女は頷いた。



「私は、ヘイさんに隣にいて欲しいし、いたいです」



 参った。


 本当に、参った。


 俺は……それに返す言葉を持っていないから。



「……なんていうか、こういうの初めてで、正直戸惑ってる」



 なんて言えばいいのか、思いつかない。


 だから、とにかく思い浮かんだ言葉を口にした。



「嬉しいよ、フォルがそうまで俺なんかを想ってくれるっていうのは。確かにフォルとは歳が離れてる。でも、俺には今の言葉が一時の感情とか、感情の取り違いとか、そんなものには思えない。フォルは、自分の本当に本当の気持ちを伝えてくれたんだなって、分かる」



 ……でも、やっぱり、駄目だ。



「それでも、俺はフォルの言葉には何も返せない」

「――っ!」



 フォルが、身を翻して駆けだそうとして――その腕を俺は掴んだ。



「待ってくれ」

「なん、ですか……」



 俯いてしまったフォルの表情は分からない。けれど、その頬を滴が流れたのは見えた。


 それが、酷く胸を締め付ける。



「すみませんでした。もう、忘れてください」



 掠れたフォルの声。



「馬鹿言うな」



 忘れるだなんて、そんなこと出来るわけない。


 そんなことしたら、俺は自分が今以上に大嫌いになる。



「違うんだ」



 何も返せないっていうのは、そういうことじゃないんだよ。



「俺は、フォルの気持ちに、どんな言葉も返せない。頷くことも、首を横に振るうことも」

「――どうして、ですか?」



 どうして……か。


 理由は、一つ。



「リセの話、したろ?」

「……はい」



 今目の前にいるフォルと瓜二つの少女。


 俺の、最大の後悔を象徴する少女。



「あいつさ、もう随分昔に死んでるんだ。俺のせいで」

「え……」

「あいつだけじゃない。俺が育った町の人間が全員、死んだ。俺は助けられたのに、それを助けられなかった」



 馬鹿だった、と今でも思う。


 なんであんなことをしてしまったのか、と後悔は尽きない。


 そしてあの時のことは、今でも俺を縛りつけている。



「……俺さ、怖いんだよ。フォルと、リセを重ねて見てるんじゃないか、って」

「怖い……?」

「ああ。もし俺がフォルの言葉を受け入れても、そうじゃなくても、それは……きっと、フォルにじゃない、リセへの答えになる。だから……俺は、フォルに何も返せないんだ」



 自嘲的な笑みがこぼれた。


 こんな最低なことがあるか。


 俺はやっぱり、ここにきても目の前の少女一人まともに見れていないんだ。



「まだ、俺の中にはっきり残って、ひきずってるんだ。昔のこと」

「だったら……だったら、私はどうすればいいんですか!?」



 フォルの言葉に、まるで心臓を貫かれたような気分になる。


 ……もう、俺もいい加減にするべきなのかもしれない。


 過去から逃げ続けるのは、もう、止めるべきなのだろう。



「……待ってて、くれないか?」



 こんなの、言えた義理じゃないのは分かってる。


 でも、待ってて欲しいんだ。


 今すぐ答えを返せない俺が、答えを返せるようになるまで。



「過去に、決着をつけてくる。それで、フォルへの答えを、伝えにくるよ。だから、それまで……待っててくれないか?」

「……それって、酷いですよ、ヘイさん」



 ああ、そうだ。



「いつ帰ってくるかもしれない人を……待てって、言うんですか? その答えが、どんなものかすら分からないのに。もしかしたら、拒絶されるかもしれないのに?」



 本当に、酷い言い分だ。



「でも……」



 フォルが、俺の肩を掴む。


 そのまま引き寄せられて、気付けばフォルの顔が目の前にあった。



「帰ってきて、くれるんですよね?」

「……ああ」



 絶対に、帰ってくる。


 そう誓う。



「なら、約束です」



 柔らかな、感触だった。


 ……!?


 気付けば、近い、なんてものじゃないくらいにフォルの顔が目の前にあった。というか、触れていた。


 唇が。


 それは一瞬の出来ごとで、すぐに唇は離れてしまう。



「これで帰ってこなかったら、ヘイさんは最低です」

「……え、あ……うん」

「――帰って、きてくださいね」



 行って、フォルは今度こそ身を翻して、駆けて行ってしまった。


 呆けていた俺に、フォルを止める暇はない。


 ……え?


 今の……キス、だよな?



「……は、はは」



 乾いた笑みがもれた。


 こりゃ……本当に、帰ってこなかったら俺、最低だろ。


 というか、ここまでされて帰ってこないわけがない。


 すげえな。


 フォル……将来は、きっと魔性の女か、それともとんでもなく気がきく女になるんだろうな。


 ……そんな子が、どうして俺を好きになるかね。


 世の中、分からない。


 苦笑して――その時だった。




「さーて、ヘイ」




 世界が凍った。


 その声に、俺の首は軋みながら、後ろを向く。


 そして、その笑顔が視界に飛び込んできた。



「きりきり吐いてもらおうか、罪な男め」

「……姫様」



 そこにいたのは、姫様だけでなく、ウィヌスさんや、ライスケやメルまでいた。


 ……まさか、聞いてたり?


 視線で問いかけると、姫様の眩しいくらいの笑顔。


 ……聞かれたぁ!?


 い、今のやりとりを、全部!?



「ちょっ、あんたら……なにやってんだ!」



 いくらなんでも今のを盗み聞きって、趣味悪すぎる!


 問い詰めようとして、しかし、姫様の笑みが鋭いものに変わって、思わず身体が硬直した。



「それで、ヘイよ」



 その笑みは、なんだかひどく頼りになる笑み。



「次の行き先はお前の過去、それでいいな?」



んー。いきなりすぎたかも。

フォルのこともっと描きたかったなあ……。

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