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神喰らい  作者: 新殿 翔
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重なる面影


 どうやら、この森はあの植物っぽい魔物の巣窟らしい。


 あれからもう既に二十体は倒したろうか。


 最初は少し手間取ったものの、今では行動のパターンも読めて初撃か第二撃で仕留められるようになった。


 意外なことにあいつの弱点は触手の付け根で、その辺りに急所があるらしく、そこを突けば一発でやれた。


 というわけで、俺とフォルは順調に森の奥の方に進んで行く。



「まだ先か?」

「はい。この先に泉の周りに生えているという話を聞いたことがあります」



 泉、ね。


 周りは薄暗い緑ばかりで、水の匂いはしてこない。


 本当にこっちであっているのだろうか。


 ま……どうにでもなるだろ。


 あまり深く考えずに構えておく。



「……あの、ヘイさん」

「ん?」



 フォルの声に一旦足を止める。



「なんだ?」

「一つ、聞いてもいいですか?」

「なにをだ?」

「……どうして、私の父の為にここまでしてくれるんでしょうか」

「そりゃ、まあ二日酔いの薬の為に……」

「嘘、ですよね?」



 フォルの視線に、俺はこれ以上嘘がつけないことを悟った。


 まあ、こんな分かりやすい嘘で誤魔化し切れるとは思っていなかったけどさ……。



「ヘイさんの、その剣や、服装……お金がない人の格好じゃありません。それに、泊まってるって宿も、決して安宿ではないです」



 よく見てるな……。


 頬を掻く。



「……なんて言えばいいかな」



 べつに、隠すようなことでもない。


 話してもいいんだが……。



「ちょっと、フォルにしてみれば不愉快かもしれないな」

「……それって、どういうことですか?」



 俺は、改めてフォルの容姿を見た。


 ……本当に、本当によく似ている。



「似ているんだ」

「え……?」

「俺の幼馴染に、滅茶苦茶似てるんだよ。フォルは」



 それこそ、瓜二つという言葉以外が思い浮かばないほどに。



「だから、ちょっとだけ気になった。だから、助けようと思った。それだけなんだ。フォルからしてみれば、他人に重ねて見られて、迷惑だろ?」



 それって、つまり俺が目の前にフォルがいるのに、フォルを見ていないってことじゃないか。


 これほど失礼なことがあるだろうか。



「……正直、いきなり他人と重ねて見られるだなんて言われて、面白くないのは、その通りです」



 フォルが少しだけ迷うように、言葉を選びながら言う。



「でも、それで父を助けてもらえるなら……役得、って思っていいんでしょうか?」



 はにかむフォルに、俺は思わず目を丸めた。


 役得……って。


 いや、そうなのか?


 ……でも、役得って、そんな言い方あるか?



「なんだそりゃ」



 苦笑する。



「おかしなやつだな」

「そう、ですか?」

「そうだよ。まったく、なんだか性格まで少し似てる……と、悪い」



 言った側からまた重ねてしまった。



「いえ、気にしてません」



 ……良い子だなあ。


 メル並みに良い子だなあ。


 思わず頭を撫でてやりたくなるが、いきなりそんなことをしたら驚かせてしまうだろうから止めておく。



「もう一つだけ、訊いてみたいんですけどいいですか?」

「おう」



 何でも聞いてくれ。


 お兄ちゃんなんでも答えちゃうぞ。



「その、ヘイさんの幼馴染っていう人は、どんな人なんですか?」

「――」



 その時。


 上手く感情を隠すことが出来たか、自信がない。


 ただ、脳裏で氷がひび割れるような、そんな音がした。


 ……あいつが、どんな人“だった”か、か。


 大丈夫。


 俺は、もう子供じゃないんだ。



 こんな傷ぐらい、笑って隠すだけの甲斐性は持ち合わせている。



「そうだな……俺達は、孤児院育ちなんだよ。で、まあ幼馴染っていうか、どっちかっていうと家族って意識の方が強かったかもしれないな」

「そう、なんですか……」



 孤児院、という部分に軽くフォルがきまずそうな顔を浮かべる。



「ああ、気にするな。別に孤児院育ちってことは気にしてないんだ。あれはあれで、楽しかったからな」



 ここは本当。


 別に親なんていないからって、そんなのあまり気にならない。


 周りは憐みの視線とか向けてきて煩わしかったけれど、そのくらいだ。


 それで迫害されたとかいうこともない。土地柄として、誰も彼もが善人だったから。


 ほんと、優しかったんだよ。あの村の人達は。



「で、あいつは……リセっていうんだけどな。リセは……なんていうか、ちょっと不思議なやつだったな」



 思い出せば、今でも自然と口元が緩む。



「俺とリセは特に仲が良くてな。いっつも一緒に遊んだりしてたんだ。遊びっても俺がいっつもあいつの突拍子もない行動に振り回されてたんだけど」



 ……そういえば、俺って今も大分振り回されてるんだよな。


 俺は、なにか女に振り回される星の下にでも生まれてしまったのだろうか。



「それで、リセの行動ってのがまたおかしくてな。女の癖に、木登りは大好きだわ川に素っ裸で飛び込むは、がさつかと思えば妙に繊細な性格してて、悪口言うとそれだけで泣き出すような感じだったな。で、誰よりも優しかった。うん、本当に、不思議なやつだった」

「……ちょっと、想像が出来ないです」

「だろうな」



 あいつを一切目にすれば、きっとフォルも驚く。


 世の中、あんなお気楽な人間がいるんだな、って。まあしっかりしてる所もあったけど。


 総じてあいつは、ちぐはぐなんだよ。行動も性格も。



「その人が、私に似ているんですか?」

「ああ。優しいところとかな」



 言うと、軽くフォルの顔に朱が差す。



「そんな、私は別に優しくなんか……」

「優しくない人間が、いくら助けられたからって商売道具の薬をタダで人に飲ませるかよ」



 生活だって決して楽ではないだろうに。


 俺の中じゃ、フォルは優しい人間に指定済みだ。



「うぅ……」

「ははっ、恥ずかしがるな恥ずかしがるな」



 褒めてるんだからな。



「……ヘイさんは、そのリセって人が好きなんですか?」

「ぶっ……!」



 今度は俺が顔を赤くする番だった。



「な、何を……!」

「あ、もう分かりました。十分です」



 万事理解しました、と言うような顔でフォルが大きく頷く。



「勝手に分かったつもりになってるだけだろ!」

「これでも近所では人の色恋沙汰に耳が早い子と有名なのです」

「この子意外に色事好きなんだ!?」



 そしてそんなところで胸を張らないでくれ!


 大体、俺がリセを好きだなんて、そんなこと……。


 ――もう、遅すぎるんだ。


 そう。気付いたのが遅すぎて……だから、もう俺はリセとは……。



「ヘイさん?」



 フォルの声にはっとする。



「もしかして、機嫌を悪くさせてしまったでしょうか?」

「あ、いや」



 心配そうな顔をするフォルに、慌てて笑顔を作る。



「そうじゃないんだ。ただ、少し嫌なことを思い出しちゃって……」



 慌てていたからだろう。


 だからだろうか、俺は気付くことができなかった。


 森の草むらの奥から迫ってくる気配に。


 気付いたのは、その直前。


 草むらから飛び出した巨大な影が、フォルに跳びかかるその直前だった。



「フォル……ッ!」



 あわてて、手を伸ばす。


 届け――!


 その思いが天にでも届いたのか、俺の手はしっかりとフォルの腕を掴み、俺はそのまま彼女の小さな身体を思いきり引っ張った。


 間一髪。


 黒い影はフォルをかすめて、そのまま別の草むらの中に消えて行った。


 気配は、感じられない。


 いなくなったわけではない。


 気配を隠しているのだ。


 ……厄介な。


 そんな魔物もいるのか、この森は。完全に油断していた。


 そんなことを考えて警戒していると。



「あ、あの、ヘイさん……!」



 俺の腕の中で、フォルが身体をよじらせた。


 ……ん?


 俺の、腕の、中で?


 ……はっ。



「わ、悪いっ!」



 慌ててフォルの身体を離す。どうやら、自覚しないまま抱きしめていたらしい。



「い、いえ。助かりました」



 顔を赤くしたフォルが一歩後ろに下がり、そして――。




 ビシリ。




 という音。



「え……?」



 見れば、フォルの足元の地面にひび。


 さらによく目を凝らすと、どうやらフォルの背後にある草むらの向こうが数メートルほどの高さを持つ落差になっていることが解った。


 ――っ、まずい。


 一瞬の後に起こる現象を予見して、俺はフォルに再度手を伸ばした。


 でも、今度は間に合わない。


 地面が崩れ、そのままフォルの身体が斜面を落ちて行く。



「っ……間に合え……!」



 俺はその後を追って、地面を蹴った。





まるごとヘイの回。


こっからちょびちょびとヘイの過去に触れていこう。

……そしてそろそろ反骨野郎イベントも発展させないと。

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