表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らい  作者: 新殿 翔
47/99

薬の代金



 部屋の中から話し声がする。


 見張りのその言葉に、俺はソフィア様のお部屋の扉をたたいた。



「ソフィア様、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」



 部屋の中から帰ってきた返答に、ドアを開ける。


 中にはいると、ソフィア様はベッドに腰を下ろして、俺が買って来たお土産をいくつか、ベッドの上にならべていた。



「昨日はありがとうございました、オルネスさん。この、飴……でしたか。とてもおいしいです」

「でしたら、よいのですが……ところで、なにか声が聞こえたと見張りの者が言っていたのですが、異常などはありませんでしたか?」

「ああ、それは、独り言です。すみません、お土産を見ていたら少し嬉しくて」



 嬉しくて独り言、か。


 まあ、そういうこともあるのか。



「そうですか」

「すみません、心配をかけてしまって」

「いえ、こちらこそお邪魔しました。では私はこれで……」

「はい」



 一度頭を下げて、部屋を出る。



「引き続き頼むぞ」



 部屋の前にいる見張りに言って、俺は城の通路に足音を響かせた。



「……流石にお姉ちゃんの気配がバレたりはしなかったみたいだね」

「当然だ。わたしを誰だと思っている」



 ひょいとお姉ちゃんがベッドの陰から顔を出した。



「私の困ったお姉ちゃんですよ」



 私の言葉に苦笑しながら、お姉ちゃんはベッドに腰を下ろした。



「まったく酷い妹だ。姉を、困ったなどとは」

「実際そうでしょ。大体お姉ちゃんは勝手すぎるの」

「おっと、説教はよしてくれ」



 お姉ちゃんが肩をすくめて、私のお土産の中から一つ、お菓子を手に取ります。



「私のだよ」

「いいじゃないか。妹のものは、姉のものなのさ」

「なんなのかなあ、それ」



 お姉ちゃんは私の言葉になんて耳も貸さずに、お菓子を口に入れてしまう。


 ……まったくもう。



「……まあ、いいや。仕方ないから、説教はまた次の機会にしてあげる」



 そう言うと、お姉ちゃんが目を丸めた。



「なに、その目」

「いや、説教を愛し説教に生きるお前が、説教を後回しにするなんてな……」



 私はどんな説教人間ですか。



「私が説教するのは不甲斐ないお姉ちゃんがいるから。そこは、ちゃんと分かってる?」

「ふむ、不甲斐ない姉とはどの姉のことだ? わたしのことではあるまい?」

「……白々しいよ」



 もう……これだからお姉ちゃんは。


 でも、これこそお姉ちゃんらしいんだけど……うん。



「それで、実際なにがあった? なにもなかった、なんてことはないだろう?」



 問われ、私はここ最近あったことを話した。


 昨日、皇帝に謁見したこととか、帝国に来た理由、それ以外にも、いろんなこと。



「いろいろ疲れちゃったんだよ。だから、説教なんてする余裕はないの」

「なるほどな。それは、喜ぶべきか嘆くべきか」



 と、お姉ちゃんの手が、私を撫でた。



「なに……?」

「いやなに、頑張る妹をねぎらっているのさ」

「……そうですか?」



 だったら……うん。


 もう少し、このままでもいいかな。



「頑張れよ、妹。わたしは表舞台に立つことが出来ないから何も出来んが、お前にはきちんと、王国の為にできることがある。しっかりやれ。けれど、身体にだけは気を付けろ」

「……ん」



 表舞台、か。


 お姉ちゃんが、誰よりも国を愛していることを知っている。


 でも……お姉ちゃんは力を持っているから、姿を表に出すことは出来ない。きっとこの先も、身体が弱く、僻地で療養中という名目で、一生縛られるのだろう。


 ……頑張らないとなあ。


 改めて、そう心を決め直す。



「ねえ、お姉ちゃん。一つだけ、いいかな?」

「なんだ。言ってみろ」

「旅の話、聞かせて欲しいな」

「旅の……?」



 お姉ちゃんは不思議そうに首を傾げる。



「あまり面白い話はないぞ?」

「いいの。普通の話でも」

「……ふむ。だったら、少し話すとするか」



 そして、お姉ちゃんはいろいろなことを話してくれた。


 いろいろな町のこと。そこに住んでいた人々達のこと。一緒に旅をしている人達のこと。珍しかったことや、逆にどうでもいいようなこと。


 それら全てが、私にとっては新しく、そして鮮やかな物語だった。



「それでな、その時のライスケの顔は見ものだった。たかが毛虫一匹にみっともないくらいに驚いていてな」

「それは仕方ないよ。起きて顔の上に毛虫がいたら、誰だって驚くもん。それにそれ、お姉ちゃんが置いたんでしょ」



 ……あれ?


 談笑しながら、ふと気付く。


 なんだか、ライスケさんの話が多い……かな?



「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?」

「ライスケさんと、なにかあった?」

「……いや、なにも?」



 その僅かな間。


 普段なら取るに足らない間だけれど。



「そっか、なにかあったんだ」

「いや、なにもないと言ったろう」



 うん。


 これはなにかあったんだ。



「なにがあったの?」

「いや、あのな、だから人の話を――」



「ここです」



 フォルの家は、街の端の方にある、こじんまりとしたものだった。



「よかったら、お茶でも飲んで行きませんか?」

「いいのか?」

「はい。是非」



 だったら、お邪魔するか……。


 俺はフォルに誘われて、彼女の家にあがることにした。


 家の中に入ってまず最初に感じたのは、匂い。


 薬草、だろうか。


 そんな感じの、少し鼻にくる匂いが家のなかに充満している。



「すみません。臭いですか?」

「いや、別に平気だけど……これは?」

「薬の材料が置いてあるので」



 ああ……そういえば、父親が薬剤師だったっけ。


 それで、か。



「フォル。帰ってきたのか?」



 ふと、奥から男性の声。


 おそらくはその父親だろう。



「うん。ただいま」

「少し、水をくれないか。咽喉がかわいてしまってな」

「分かった」



 言うと、フォルは近くに置いてあった水差しを持って、家の奥に消えた。


 少しして、戻ってくる。



「すみません、お待たせしてしまって。お父さん、今は一人じゃ動けないから」

「あ、いや。それはいいんだけど……病気か?」

「はい……医者の不養生、といいますか。少し前から、ちょっと……」

「そっか、お大事にな」

「ありがとうございます。薬さえあればすぐにでもよくなる病気なので、多分大丈夫だと思いますので」



 ……ん?


 少し前から病気、って言ったよな?


 でも薬があればすぐに治るんだろ?


 なんかちょっとおかしい。


 それって、つまり――。



「もしかして薬、ないのか?」



 尋ねると、フォルの表情が陰った。


 やば……まずいこと聞いたか?



「それは……はい。実は、薬の材料の薬草が手元になくて……」

「それって、マズいんじゃ……?」

「あ、自然治癒もありえる病なので……大丈夫、だと思います」



 ありえる……つまり、逆にそのままじゃ治らないかもしれないってことか。



「その薬草って、貴重なのか?」

「はい……生えている場所は分かっているんです。このすぐ近くの森の奥に生えているものなのですが……その森は、魔物がたくさんいて、危険だから」



 だから迂闊には手を出せないし、誰かから買うにしても高くついてしまう、ってわけか。


 言っちゃ悪いが、こんな家に住んでいることからして、金にそんな余裕があるとは思えないしなあ。



「――……なあ、あの二日酔いに効く薬って、まだある?」

「え……あ、はい。ありますよ」

「じゃあそれ、五つくらい貰えないかな? これからも使う機会があるかもしれないしな」

「ええ、分かりました」



 頷き、フォルが近くの棚から小瓶を五つとりだす。



「それじゃあ、これ……」

「あ、でもさ、俺今金ないんだわ」

「え……あ、別にそれは構いませんよ」



 いやいや、構わなくないだろう。


 商売っ気とか以前の問題だぞ。



「構わなくないだろ。だからさ。金の代わりになるもの持ってくるよ」

「……どういう、ことですか?」

「つまり、例の薬草ってのをとってくるから、その薬タダでくんないかな、ってこと」



 ちなみに。


 お金は実は、持ってるんだがな。



んー。次回はヘイ君の戦闘かなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ