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神喰らい  作者: 新殿 翔
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酔っ払い二人


「まったく。まさかこんなところで会うとはな……」



 グラスを片手に、ソフィアの近衛――オルネスが言った。



「貴様らがここにいるということは、イリア様もここにいらっしゃるのだろう?」



 その問いかけに、俺とヘイは苦笑するしかない。


 オルネスはやれやれと首を振り、グラスの中の酒を飲み乾した。


 俺達がいるのは、少し寂れた感じの酒場。


 往来の真中での立話もなんだから、ということで出会ってすぐのところにあったここに入ったのだ。



「そ、それよりもなんであんたがここに?」

「決まっている。ソフィア様の護衛だ。王国からの使いとして、ソフィア様自ら帝国へ来ているのだ」

「へえ……」



 ソフィアが帝国にいるのか。



「大変だったぞ。皇帝と謁見した後のソフィア様は。生きた屍かと一瞬目を疑った」

「生きた屍って、そんな言い方いいのかよ」



 ヘイの言葉に、オルネスは肩をすくめ、鼻をならして笑った。



「貴様らが口を閉じていれば問題ないことだ」



 さいですか。



「ま、でもならソフィアの近くを離れて呑気に買い物なんてしてていいのか?」

「そうだな。ソフィア様はこっちの姫様みたいな規格外じゃねえし、側に付いてろよ」

「そのソフィア様の為に、街で買い物をしているのだ」



 オルネスが、ソフィアが街に出たがっていたことを教えてくれた。


 ……やっぱりちょっとはイリアと同じ血、入ってるんだな。



「でもいいじゃねえか。制止がきくだけ。うちの姫様を見てみろ。あの人の言葉をきかずに進んで行っちまう人を。ついていくこっちがどれだけ苦労してるかなんて考えてもいないんだ」



 ヘイもグラスを煽りながら、愚痴のように零す。



「言葉をきかない、と先に分かっているのならば多少の覚悟は出来よう。しかし考えてみろ。ソフィア様は物わかりがいいかと思えば、稀に突飛な行動に出るのだ。それには予兆もなければ周期性もない。本当に唐突に、だ。普段はおとなしいソフィア様がいつの間にか城の中から姿を消しているなんて状況は悪い悪夢でしかないぞ」

「はっ。何言ってるんだか。ソフィア様は普通の女の子だからいいじゃねえか。姫様なんて、姫様なんてなあ……俺をいっつも気絶させるんだぞ? 頭にでっけえ氷の塊とかぶつけられる気分、分かるか?」

「そんなものは気合いで耐えろ」

「出来るかっ!」



 これはあれだな。


 隣の芝は青く見える、ってやつだ。



「そもそも姫様に護衛とか必要ないし! 俺いつまで側近やらされてんの!?」

「その身に余る光栄ではないか。何故素直に、貴様なぞを側近に取り立ててくださったイリア様に感謝しない」

「面白そうだから、なんて理由で側近にされて喜ぶやつがいるか!」



 こう見ると、ヘイってとことん騎士とか、そういうタイプじゃないよな。


 まあ、イリアとしてはそういうところを気に入ったのかもしれないが。



「ったく。酒!」

「店主、酒の代わりを!」



 ヘイとオルネスが同時にグラスをテーブルに叩きつけた。グラスの中の氷が独特の音をたてる。



「そういえば貴様は何故さっきから口をつけん」



 オルネスが俺の手元のグラスを顎で指して言う。


 俺の手元にも、二人と同じ酒の入ったグラスがある。しかし、その中に入っている液体を俺は口にしようとしていなかった。


 だって俺未成年だし。


 こっちの世界じゃそんなの関係ないんだろうけど……なんとなく気が引けてしまうのだ。



「んー。いや、酒飲んだことないし」

「その歳でか?」

「俺の暮らしていたところの風習で十八になるまで酒は飲んじゃいけないんだよ」

「いいじゃねえか、ここはお前の暮らしていたところなんかじゃないんだから」



 ヘイが酒を俺にすすめてくる。



「そうだな。酒の一つも飲めずして、男などとは言えん。さあ飲め」



 意外なことにオルネスまでヘイと一緒になって酒を俺にすすめてきた。


 真面目なやつだと思ってたのに……。



「いや、やめとく」

「そう言うな」

「飲め飲め」



 ぐい、と二人がグラスを押してくる。



「いや、だから――」

「酒を飲めないなど、女に笑われるぞ」

「そうだそうだ。メルに笑われるぞ」



 なんでメルがここで出てくるんだ……。


 というか別にメルはそんなことで人を笑わないだろ。



「さあ飲め」

「一気に飲め」

「だから、やめろって」



 こいつら、実は酔っぱらってないか?


 よく見て見れば、二人の顔は若干赤らんでいる。


 男の赤い顔が二つ近くにあっても全く嬉しくないな……と、まあそれはともかく、やっぱりこいつら酔ってるだろ。


 まだそんなに飲んでないのに……酒に弱いなら酒を飲むなよ。



「貴様、それでも男かっ!」

「まったくだ! テメェにはちゃんとついてんのか!?」



 なんかいきなり怒鳴り始めたぞ!?


 典型的な酔っぱらいじゃねえか。



「「一気、一気、一気!」」



 そしていきなり、そんな風に二人が手を叩き始めた、


 ヘイはともかく、オルネスの性格が崩壊してる!


 あんたそんなノリのよさそうな性格してなかっただろ。どんだけ酔ってんだ。


 ああ、もう。


 だから酔っぱらいは――!



「……最近、わたしの影が薄くなっているような気がする」

「なによいきなり」



 露店で買った焼き鳥の串を手に持ちながら言うと、同じように焼き鳥の串を片手に隣を歩くウィヌスが訝しげにわたしを見た。



「いや。わたしはほら、桁違いな能力が売りだろう?」

「売りって……まあ、そうね」

「だが、ウィヌスやライスケがいると、なんだかわたしの存在感が薄れているような気がしてだな……」

「ああ……確かにね。でもそれ、能力だけが取り柄のせいでしょ。自業自得よ。メルなんて見てみなさい。なんの能力もないのに、影がそこそこ濃いわ」

「誰がわたしの取り柄は能力だけなどと言った。他にもいろいろあるだろう」



 人間性とか、美貌とか、そんな感じで。


 ――だが、影の濃さでメルに負けているというのは認めざるを得ない事実か。



「どうすればいいものか……」

「もっとヘイを虐めて見ればいいんじゃない?」

「それだ」



 ちびちびとグラスの中身を口にする。


 いや……あの二人のちょっとおかしなテンションの押しに負けた。


 なんであんな鬼気迫った顔で酒をすすめられてたんだろう、俺。


 思わず苦笑が零れた。


 ちなみに、酔いはない。


 まあ、アルコールに負けるような体じゃないだろうさ。


 そして、俺に酒をすすめてきた二人――、



「……」

「……」



 さっきまで騒いでいたのだが、今は黙々と酒を飲んでいる。


 というか、こいつら樽で酒を頼みやがった。


 グラスの中が空になると、グラスを樽の中につっこんで酒を足すのだ。なんて豪快な飲み方。


 ……酔って気分よくなって酒飲んで酔って気分よくなって酒飲んで酔って――普通に悪循環だ。



「……」

「……」



 と、二人がいきなり立ち上がった。


 なんだ……?


 首を傾げる俺の前で、二人がにやりと笑う。



「「決闘だぁっ!」」



 いきなりなにを言い出すんだこの酔っぱらいどもは!?


 俺がつっこむ暇もなく、二人は手近にあったテーブルを倒し、そのテーブルの脚を圧し折って手にした。


 ヘイは二本。オルネスは一本だ。



「あ、あのお客さん……困ります」



 流石に放っておけなくなったのか、店主が俺に近づいてきた。


 それを言うならあの酔っぱらい二人に言って欲しい。


 ……まあ二人もいろいろ辛いみたいだし、今日くらいは俺が尻拭いしてやるか。


 ちなみに、いつの間にか店内から客の姿は俺達以外なくなっていた。もうけっこう遅い時間だしな。



「これ、テーブルの修理代と迷惑料と酒代です」



 店主に銀貨を五枚渡す。



「こ、こんなに……す、好きなだけ暴れてくださって結構です!」

「いえ。大人しくさせますよ」



 好きなだけ暴れたいから金を渡したわけじゃない。


 俺は二人の真ん中に立つ。



「なんだ貴様はぁ! 決闘のぉ、邪魔をするとはぁ!」

「どけぃ、ライスケぇ! 男にゃ越えなきゃならない壁がぁ!」



 とりあえず二人ともその変な構えをといてくれ。


 オルネスは、なんて言えばいいんだろう。テーブルの脚を……ああ、あれだ。切腹する武士みたいな持ち方している。


 ヘイはヘイで、両手に持ったそれを頭にくっつけて角みたいにしてるし。


 アホかこいつらは……。


 とりあえずまともな言葉は通用しそうにない。


 俺は水の塊を作り出すと、それを二人の頭にかぶせた。



「「ごぼごぼごぼごぼ!?」」



 流石に暴力を使うなんてことは出来ないので、溺れてもらうことにした。


 もちろん本当に溺れさせるつもりはない。ちょっと頭を冷やす程度のつもりだ。


 しばらくして、水を消す。


 地面に二人が倒れた。



「落ち着いたか……?」

「ごほっ……ライスケ、ここは、どこだ……?」



 とりあえずヘイは記憶を失った。



「ぬぅ……俺は何を……」



 オルネオも記憶を失った。


 酔って暴れて記憶を失う。本当に性質の悪い酔っぱらいだなこいつら。



「とりあえず水でも飲んで酔いを覚ませ」

「いや、なんだかもうすげえ水を沢山飲んだ気が……」

「うむ……」



 そりゃそうか。



「それに、水を飲むまでもない」



 オルネスがそう言うと、その身体が薄緑の光に包まれた。


 これは……魔術か。



「酔いざましなど容易い」



 魔術を酔いざましに使うって……いや、まあ別にいいけどさ。


 魔術の光が治まり、すっきりした顔のオルネスが立ちあがった。



「お、俺にも酔いざまし……」

「気合いだ」

「無理だっ!? っていうかお前は気合いじゃなくて魔術使ったよな!?」



 オルネスの言葉にヘイが叫ぶ。


 その叫びを無視して、オルネスは店の中を見回し、倒れて脚の折られたテーブルを見て表情を曇らせた。



「これは一体……」



 お前だお前。



「……まあいい。店主、勘定を」

「そちらの人がもうお済ませになりました」

「む」



 店主の答えに、オルネスが俺を見た。



「いくらだ?」

「おごりでいい」



 というか、オルネスがどれだけ飲んだかなんて覚えてない。だってヘイと一緒に樽を開けてたんだぞ?



「そうか……? ふむ。すまんな」

「別にいいけど……酒に弱いなら控えた方がいいんじゃないのか?」

「そう言われても飲んでしまうのが酒というものだ」



 それが周りに迷惑をかけていると一刻も早く気付いてほしい。



「それでは、そろそろ帰らねばソフィア様を心配させてしまう。俺は一足先に帰らせてもらうぞ」

「ああ……あ、そうだ。ソフィアのことって黙ってた方がいいのか?」

「そうだな……他はもちろん、イリア様にも黙ってくれ」

「イリアにも?」

「ああ」



 イリアはソフィアの姉なんだから教えてもいいように思えるんだが。



「もしイリア様がここにソフィア様がいると知ったら、何をしでかすか分かったものではない」



 ああ。納得。



「それもそうだな」



 オルネスとしては面倒事は避けたいだろうしな。



「分かった。黙っとくよ」

「そうしてくれ。ではな」



 そして、オルネスは酒場を出ていった。



「さて。俺達もそろそろ帰るか、ヘイ……ヘイ?」



 返事がない。


 ただの屍のようだ。


 ――じゃなくて、単に気絶しただけか。


 ……仕方ない。


 俺はヘイを背負って、店を出た。





というわけで、なんとなーく書いた。


近衛騎士さん、名前作っちゃった。

そして多分、もうほとんど登場はない。

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