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神喰らい  作者: 新殿 翔
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帝都



 帝都リハイクオルベ。


 円形に作られた街は三層の区域に別れ、一番外側の平民区は文字通り、平民などが暮らす区域。その平民区の一つ内側にある貴族が多く屋敷を構える上流区。そして街の中心にあるのは荘厳とした、巨大な城。城壁は高く聳え、その壁の向こうに覗く城の形はまるで小さな山のようだ。


 さすがに国の中心というだけのことはあるのか。街中にはこんな情勢だというのに人が覆う、それなりの活気を見せていた。


 俺達はその帝都の平民区の大路を馬車でゆっくりと進んでいた。


 平民区と上流区の間には壁があり、通行証を持つ者しか入れないようになっているので、俺達が行けるのはこの平民区の中のみだ。



「もっと暗い雰囲気を予想していたんだがな……」



 辺りを見回しながら呟く



「まあ国の中心だ。国の体面としては、餓死者やら浮浪者やらが帝都に増えられては困るのだろう。まあ、他にも理由はあるだろうが」



 確かに、嫌でも国の中心地っていうのは目を引くしな。そこで人が生活に苦しんでいたら、国の品格なんかが疑われるものなのかもしれない。


 馬車の中のイリアの言葉に納得し、改めて街を見る。


 道はレンガで舗装され、並ぶ建物もそれなりにしっかりしているように見える。


 平民とは言っても、普通の平民よりも比較的裕福な層が集まっているのかもしれないな。


 それがイリアの言うところの、他の理由なのだろう。


 ま、帝都なんていう立地条件のいい場所に住めるんだから、それなりの資産はあって当然か。


 これまでのように街で宿屋を探すのに苦労しなくて済みそうだ。


 他の町じゃ、どこも宿屋は閉じてたからな。利益をあげられないからって。




「とりあえず宿を探そう」

「そうですね、ここなら食糧も買い足せると思いますし」



 ああ。それも重要だな。


 というか、大変だった。


 用意していた乾し肉などの食糧が、いつの間にかなくなっていたのだ。だから、昨日なんてヘイが動物を狩ってきて、それを捌いて食べることになった。


 ……その狩られた動物を俺は喰ってしまったし。能力的な意味で。最悪だ。


 食糧が尽きた原因は分かっている。


 ここに来るまでに、馬車の中でいっつも怠けているウィヌスとイリアが、次々にその胃袋に食べ物を放り込んでしまったからだ。


 食べものは食べればなくなる、なんてのは子供でも分かること。


 ……あいつら、本当に食いすぎだ、


 そもそも食欲ありすぎだろう。信じられないくらい喰ってるぞ。


 ウィヌスは神だからともかく、イリアは人間なんだから普通に太るぞ。


 ちなみにそれを忠告したヘイは短時間記憶喪失になるという状態に陥った。


 ……そろそろヘイの人間としての立ち位置が崩れそうで心配だ。



「……はぁ」

「溜息などはお控えください、ソフィア様。今はともかく、これから会う御方の前では、特に」



 思わず零れた溜息に、近衛の人が小声で囁いた。



「大丈夫です。それはもちろん、分かっていますから」

「は。余計なことを申しました」

「いえ……ありがとうございます」



 短く礼を述べて、椅子の背もたれに体重を預ける。


 豪華に飾られた部屋だった。派手というわけではないが、調度品の一つ一つに品があり、この部屋にある小瓶一つでも、普通の民には一生手が届かないような値段がついているのだろう。


 私は、グライブ帝国、帝都リハイクオルベ。その中心に建つ城の応接間で少しだけ急いでいる鼓動を落ちつけていた。



「……お父様も、お人が悪いです」



 思わずそんなことが口から出てしまった。


 ソングストリース王国は平和国家。言い方を帰れば、絶対中立だ。


 例え帝国と神聖領の間に問題があったとしても、王国は両国への対応を変えない。


 それは例えどんなことがあっても揺らぐことのない不文律だ。


 帝国神聖領間の国境に両国の軍が展開され、これまでの冷戦状態からいつ戦争状態に突入してもおかしくはないという今、私はそれを改めて帝国側に示す為にこうしてやってくることになった。


 本当ならば、こういうのは大臣達の仕事。


 実際、神聖領側には現在大臣が向かい、私と同じように王国の意を神聖領側に伝えている筈。


 何故私がこんなことを……。


 嫌、というわけではない。いや、嫌と言えば嫌なのだが、それは面倒だからとか、そういう理由ではない。むしろ王国の為ならば国境一つ股ぐ位はいくらでもやってみせよう。


 けれど……外交なんて、私はこれまでそんな経験、数えるほどしかしたことがないのだ。それも、どれもが大して重要性の高くない親善使節のようなもの。


 だから、緊張する。


 この、お腹がきりきりと締め付けられるような感覚が本当に堪らなく嫌だ。



「そんなことは仰らずに。国王は、ソフィア様が将来に活かせるようにと、この経験の場を用意して下さったのですから」

「だとしても、もう少し易しい試練でも構わないのではないでしょうか……」

「それは……父君の優しさゆえの厳しさ、というものではないかと」



 分かっていますよ。ええ。


 お父様が私を想って、私に期待してこうしてこの場に私を送り出してくれたのだから、もちろん私はその期待を裏切らないだけの結果を出すつもり。


 けれど……そんな意気込みがさらに重しとなって、自分の首を絞める。


 ……やっぱり嫌ですね、外交というのは。


 見知らぬどころか、国すらも違う人と顔を合わせ、言葉を交わすのだ。そこにさらに重大な責任がのしかかるともなれば……。


 考えれば考えるほどにお腹が痛くなる。



「お姉ちゃんならこんな時でも威風堂々と出来るのでしょうね……」

「姉姫様は……その、少しばかり肝が据わっておりますので」

「簡単に、人が変わっている、って言ってもいいんですよ。私も、お姉ちゃん自身も気にしませんし」

「国に、王族に使える騎士として、そうはいきません」

「真面目ですね」



 そういえば、お姉ちゃんは今頃なにしてるのだろう。


 ……クルーミュで逃げだして以来、居場所の手がかりは何も掴めていない。


 お姉ちゃんのことだから何か不幸があった、だなんてことはないだろうけれど……。


 まったく。我が姉は奔放すぎて困る。


 自分が王女だと、本当に認知しているのだろうか。


 ……いいなあ、お姉ちゃんは。


 私も少しくらい、自由にしてみたい。


 もちろんそんな我が儘は許されないけれど。



「……あの、今夜は街に出てみても……」

「なりません」



 何気なしに尋ねると、即座にその答えが返ってきた。



「ここは他国です。あまり勝手な行動は出来ないとご理解ください。ましてやクルーミュの時のように誰にも言わずに抜けだすなどということは……分かりますな?」

「……はい」



 私だってこんな所にきてまで抜けだしたりはしませんよ。


 ……ここまで来て、帝都をまともに見ることも出来ないだなんて、なんだか損した気分だ。


 少しだけ肩を落とす。


 帝都って、どんなところなんだろう。城の中にいるだけじゃ、そんなこと分からない。


 人々はどんな暮らしをしていて、どんなものを食べて、どんな娯楽をして……そいうことを、なんとなく知ってみたいと思う。


 けれど、どうやらそれすら私には許されないらしい。


 王女というのも、辛い。


 とはいえ国の上に立つ者として、甘えたことばかりも言っていられないのだけれど。


 ふと、部屋の扉が外から叩かれた。


 入って来たのは帝国の役人らしい人。



「謁見の用意が出来ました。どうそ」

「……謁見?」



 思わず首を傾げる。


 おかしい。この後は帝国側の大臣と話をするだけの筈じゃ……。


 というか謁見って……まさか……。


 私の疑問に、役人が笑顔で答える。



「王国の姫君が来たとあっては自ら対応せねば失礼にあたる、とリクスエルマ帝のお言葉です」



 愕然とした。


 思わず後ろに控える近衛騎士を振りかえり見てしまう。


 彼も私と同じように、困惑し、驚いたような顔をしていた、


 リクスエルマ帝。つまり、帝国の、現皇帝。


 ……皇帝と謁見だなんて聞いてない!


 大臣相手だと思っていてあれだけ緊張したのに、それが実は皇帝でしただなんて、笑い話にもならない。


 心臓が急に加速し出した。



「それでは、どうぞ」



 役人が扉を開けて、私を招く。


 ……私はもう一度、近衛騎士を振りかえった。


 彼は私を見ると若干心苦しそうな目をして、小さな咳払いをした。



「……後ほど、街で土産を買って来ましょう。目に見ることは出来ずとも、多少は帝都の空気を感じられるかと」



 その優しさがちょっとだけ嬉しかった。


 ……それを支えに皇帝に謁見することにしよう。


 うう……お父様。恨みます。



 帝都では基本的に各自自由行動になった。


 というのも、イリアとウィヌスのテンションに他がついていけないからだ。


 そりゃそうだ。


 よく考えても見ろ。


 あの二人はいいさ。馬車の中でごろりと寝転がって食べ物くってぐーすか寝てばっかだからな。


 でも俺とヘイとメルは決して座り心地がいいわけではない御者座に、しかも三人で詰め合って座ってここまで来たんだぞ。そりゃ疲れているに決まってる。俺だって体力的にはともかく、精神的に疲れた。


 結果として、あの二人は俺達を置き去りにして帝都の歩き食いを堪能しているといわけだ。


 俺達は日が暮れるまで宿屋で寝ていた。俺とヘイはさっき目を覚ましたが、メルはまだ眠っているようだ。


 そのメルを起こすのも可哀そうだということで、彼女のことはミニチュア王馬達に任せて俺達も帝都へと繰り出した。


 主に食料調達の為に。


 どうせウィヌスとイリアが皆の分の食料を確保するなんて気の利いた真似をするわけもないだろうし、だったら俺とヘイが雑用を済ませるしかないのだ。


 夜の帝都は、昼間より少し少ないが、それでも結構な数の人が行き交っていた。


 大路には一定間隔で灯が置かれ、街を朱色に照らし出していた。


 どうやら帝都は夜の方が露店が増えるらしい。昼間は他の仕事をして、夜に小金を稼ぎに露店を開くという感じの生活を送っているのだろう。一日働きづめで、露店を開く人々の表情は若干血色が悪い。


 適当に露店を眺めながら歩く。



「というかさ、姫様は本当にどうにかしてくれ。いっつも痛めつけられるこっちの身にもなってくれってんだ」



 歩きながら話すのは、もっぱらヘイの愚痴なんかだ。



「というか、よくお前は生きてるよな。普通に何かの拍子でイリアに殺されそうだぞ」

「だよな。うわ、なんだか背筋が寒くなってきた」

「まあイリアだけじゃなくてウィヌスもやばいけど」

「あー。でもまあ、ウィヌスさんは基本触れなければ害はないし。姫様は突発的に暇潰しとかでちょっかいかけてくるだろ」



 正に触らぬ神に祟りなり、ってやつだな。



「前々から気になってたんだけど、お前ってウィヌスのことさん付けで呼ぶんだな」

「あー、そりゃまあ、あれだしな」



 あれ、というのはつまり神だからということだろう。



「そんなこと気にする必要ないと思うけど」

「いやいやー、俺はほら、ライスケや姫様みたいな大物じゃないから。呼び捨てとか無理無理」



 俺のどこが大物か。



「まあヘイが小物であることに反論はないな」

「おお、言ってくれんなちくしょう!」



 ヘイが俺の首に腕を回してきた。


 締め付けるつもりなのだろうが、少しも痛くない。まあ……普通の人間の力じゃな。


 ……むしろ、こう言う時は逆に痛みとか感じた方が嬉しいんだけど。


 まるでヘイと俺の間に、何かの壁があるみたいで、嫌になる。



「何でそんな平然な顔するかねえ」

「痛くないしな」

「ちくしょう、俺の細腕の馬鹿! 貧弱!」



 いやいや。細剣とはいえ、それを両手に持って振り回せるんだからヘイの腕力はかなりのものだろう。


 よく朝方、イリアの鍛錬に付き合わされるヘイの姿を見かけるが、そこから判断してもヘイの身体能力は普通に高い。



「さて、と。何かないかな……」



 自分の腕を叩いているヘイは置いておいて、俺は辺りの露店を覗いた。


 せっかくだし、メルになにか買って行ってやりたいな。


 そう思っていると、珍しいものを見つけた。


 飴、だろうか。


 こっちの世界に来てから飴なんてもの、初めて見た。


 ……これ買ってくか。自分の分も。



「「すみませ――ん?」」



 露店の店主に声をかけようとして……誰かと肩がぶつかった。


 その人の顔を見て、ふと違和感を覚える。


 あれ。この人、どこかで見たことあるような……。


 …………。


 えっと……。


 んー?


 …………あ。



「「ああっ!?」」



 ほぼ同時に、お互いを指さす。



「あんた……!」

「き、貴様は!」



 思い出した!


 この人……ソフィアの近衛騎士!



「……あん?」



 ヘイがいきなりお互いを指さし合った俺達に不思議そうな顔をした。




まさかの近衛騎士。

さあ、どうすればいいのかなっ!?


そしてソフィアどうする!


皇帝? そんな人物の登場はありません!


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