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神喰らい  作者: 新殿 翔
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終わりの始まり


「なんだ、帰ってきたのか。メル」

「はい。お久しぶりです、ワルズさん」



 牧場についた俺達を迎えたのは厳つい顔をした、がたいのいい男性だった。


 牧場主で、ワルズさんというらしい。



「ふん……リグ、リナはさっさと仕事をしてこい」

「はいよ」

「うん。またね、お姉ちゃん」



 二人はこの牧場で働いているので、今日の分の仕事を済ませる為に牧場の小屋の方にかけて行った。



「それと、メル」



 ワルズさんがメルに何かを放った。



「え……?」



 慌ててそれをメルが受け止める。


 あれは……ブラシ?



「帰って来たのならさっさと仕事をしろ。馬の身体にブラシをかけておけ。どうにも、お前意外がブラシをしようとしても馬どもが喜ばん」



 そのままワルズさんが背中を向けてしまう。


 メルは少しの間ブラシとワルズさんを交互に見て……微笑んで大きく頷いた。



「はいっ。それじゃあ、やってきますね」



 折角帰ってきたばかりなのに仕事なんてやってていいのか、なんて言葉は出なかった。


 なんだか嬉しそうなメルの横顔を見ると水なんて差せないし、これがワルズさんの迎え方なのだろう。



「それじゃあ、言ってきますね、皆さん。ルリのこと、よろしくお願いします」



 そのまま小走りでメルは牧場にいる馬の方に行ってしまう。


 俺は隣にいるルリを見た。


 よろしくと言われても……なにをすればいいんだ?



「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんって、付き合ってるの?」

「……それはもういいから」



 後ろから含み笑いが三つほど聞こえたが無視。



「ふん、どうしたヘイ。遅い、遅すぎるぞ?」

「遅いよー!」

「うぉおおおおおおおおおお!」



 イリアとルリの言葉に、ヘイが自棄になったように叫ぶ。



「ルリ。覚えておけ。ああいう男のことを世では駄目人間と言うのだと」

「駄目人間?」

「ああ」

「子供に変なことを教え込まないでっ!?」

「駄目人間」



 ヘイのことを指さしてルリが言う。


 どうやら覚えてしまったらしい。



「ついに子供にまで馬鹿にされ始めた俺可哀そう!」



 ついに自分のことを憐れみだしたヘイは確かに可哀そうだ。



「……っていうかさ、あれ……王馬達だよな?」



 イリアとルリが一頭の馬に、ヘイがもう一頭の馬にまたがって牧場内を疾走するのを見て、俺はふとそんなことをウィヌスに尋ねた。



「ええ。そうみたいね」



 そうみたいね、って……いいのか、子供をそんなものに乗せて。一応魔物だろ。



「王馬がイリアに勝てると思う?」

「いや、全く」

「なら平気よ」



 ……そういう問題か?



「あははっ。駄目人間さん遅いよ?」



 まあ、ルリが楽しそうだからいいか。


 ただ……変な言葉を覚えさせるのはもう止めた方がいいんじゃないだろうか。



「私は暇だから寝るわ」



 言って、ウィヌスが草の上に水のクッションを作って、そこに寝転がる。



「起こしたら殺すから。ルリとか」

「なんだか、その台詞久しぶりに聞いたかもな」



 出会った頃は結構似たような言葉を何度も口にしていたのに。



「そう? そんなことはないと思うけれど……ま、そんなのどうでもいいわ。それじゃあ、おやすみ」



 言って、ウィヌスは目を閉じた。



「ああ、おやすみ」



 その寝顔を見て、なんとなく思う。


 もうこいつと出会って、大分経つ。


 その間に、いろいろなことがあった。


 始まりこそ最悪ではあったけれど、それでもここまでの旅路はそれなりに、いいものだったんじゃないかと思う。


 そう。俺なんかにはもったいないくらいに上等な仲間だっている。


 もしも神様ってやつが――もちろんウィヌスのことではなく――いるなら、俺はそれをどう思うだろうか。


 憎むだろうか。俺にこんな力をよこしたことを。


 感謝するだろうか。俺にこんな出会いをくれたことを。


 ……どちらも、だな。


 矛盾してるけど、俺はそれを憎み感謝している。


 そして出来ることなら……今の時間が、ずっと続けばいいのにとも思う。


 本当に……そうなれば、どれだけ幸せなことか。


 ――でも、俺がそんな幸せを手にするなんて、赦されるのだろうか。



「……あれ?」



 そんな不安が心をよぎった、その時。


 風が吹いた。


 その風の中に、なんだか、俺を呼ばれたような……。


 あっちの方、か……?


 森になっている方向に視線を向けて、俺は感覚を澄ませてみた。


 森からは、それらしい気配は何も感じられない。


 ……気のせいか?


 でも、それにしては何故だろう。


 なんだか……ひどく引かれるような気分。身体中に糸にからまり、その糸が森へと続いている。そんな感じ。


 行って、みるか……。


 決めて、俺は歩き出した。



 呼ばれている。


 誰かに、呼ばれている。


 ああ、会いに行こう。


 私を呼ぶ誰かは、どこ?



 森に入ってしばらくしても、やっぱり人影の一つもない。


 ……気のせいだったんだな。


 そう思い、戻ろうと思った、その瞬間。



「不思議な雰囲気」



 純真な子供の声が、聞こえた。


 途端、全身から汗が噴き出す。


 なんだ――これ。


 振り返れば、そこにその姿はあった。


 黒いぼろ布で身体を隠し、黒い髪を方の辺りまで伸ばした、黒い瞳の女の子。


 一瞬前までそこに何もいなかったのに、気配だってなかったのに……彼女は、そこに笑顔で立っていた。



「ねえ、貴方は誰?」

「……」



 口が、動かない。



「この雰囲気は、なにかな? 似てるよね。うん、似ているよ?」



 似ている……?



「ねえ、貴方はさ、もしかして――私達の、同胞?」

「同胞、だって?」

「うん、そう」



 こくり、と。まるで小動物の可愛らしい仕草のそれで、少女は頷いた。


 ただ、どうしてだろう。


 その笑顔、動作、声の全てに、俺はどうしてここまで吐き気を覚えるのだろう。


 まるで、自分の内にあるもの自覚する、その刹那のような眩暈。



「時を、世界を越えて五つの欠片を受け取った、同胞」

「なにを、言っている……?」

「分からないってことは、やっぱり違うのかな?」



 困ったように女の子が首を傾げる。



「あ、そうだ。なら、こう言えば分かる?」



 しかし不意に、なにか閃いたかのように手を合わせて満面の笑みを浮かべた。


 一際強い怖気が、俺の臓腑に染みわたる。


 ……それは、その言葉は、聞いてはいけない。


 聞けば全てが終わりだと、俺の内で何かが囁く。


 そして。


 聞けば終わりが始まるのだと、俺の内で何かが囁く。


 俺の意思なんてお構いなしに、女の子は口を開く。





「貴方も、自分の世界を喰らったよね?」





 次の瞬間。


 俺は、女の子の顔面に拳を叩きこんでいた。


 全身全霊。


 この身の内にある全てをかけて。


 ただひたすら。


 目の前の存在を破壊するために。


 破壊し、破壊し、破壊しつくす為に。


 世界一つ分の重みの全てを、その小さな身体へと振り下ろした。



古代の悪魔、登場。

やっとこさ、ここまでたどりつけた。


反骨野郎の幸運ゲージが下がるときが、ついにやってきた!

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