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神喰らい  作者: 新殿 翔
22/99

人と神の舞台



 踊る。


 私の爪翼から放たれた、鋼の塊すら紙切れより簡単に切り裂く十条の水の刃を、天の魔剣が打ち払った。



 笑う。


 闘技場の内側を、巻き込んだ全てを残骸に変える凶暴の水流が駆け抜け、それは光と闇の濁流に相殺された。



 求む。


 肉薄して爪翼の打撃を放つと、小娘の身体が吹き飛び、眼下の泉に水柱を立てて沈んだ。



 さあ、もっとだ。


 私を、楽しませてくれ。人間の子。



 踊る。


 泉の底で身体に絡まる水を無視して天の魔剣を振るうと、圧倒的な天属性の斬撃により泉の水が全て蒸発した。



 笑う。


 再び空へと舞い上がり、ウィヌスに一瞬にして十三の斬撃を叩きこむ。が、ウィヌスはそれを爪のような翼によって全て防いでしまった。



 求む。


 一際強い突きを放つが、それも爪翼によって受け止められ……天の魔剣から巨大な雷撃が放たれた。雷撃によって爪翼に穴があき、そこに天の魔剣を叩きこんだ。



 さあ、どうだ。


 わたしを、満足させてくれ。水の神。



「無茶苦茶だ」



 思わず、呟いていた。


 爪翼を貫いてウィヌスに迫る天の魔剣を、ウィヌスは避けなかった。


 避ける必要がなかったのだ。


 天の魔剣が爪翼に穴を開けた次の瞬間、ウィヌスの身体が水になって崩れた。


 そして、いつの間にかその姿はイリアの後ろにあって、そのままイリアを背中から吹き飛ばしてしまう。


 どうやら、水によって自分の人形を作っていたらしい。いつの間にだったのかは、俺にも分からない。



「な、なあライスケ。身体、大丈夫か?」



 ヘイが本気で心配した顔で尋ねてきた。


 俺が水の結界を張れなくなることが恐ろしくてしょうがないのだろう。俺自身、それはひどく恐ろしい。


 何故かと言えば、俺が水の結界を維持できなくなったら、その瞬間にあの二人の戦いの余波で百単位の死者が出るからに他ならない。


 多分、そうしたらその死者は、俺が喰うことになるのだろう。もともとウィヌスとイリアの戦いを止めておけば本来絶対に出ることのない死者だし。


 そうでなくても俺は人の死なんて、見たくない。


 だから、本当に俺が我慢できなくなったら……一瞬でウィヌスとイリアの戦いを止めさせる。



「ああ、まあ、もう少しは大丈夫だ」



 それも、もって……数分。


 さて


 それまでに決着をつけてくれよ……。


 見上げれば、二人の戦いは激化の一途をたどっている。


 既に闘技場の内側には多種多様な属性の攻撃が展開されまくっていた。



 ウィヌスが、イリアの攻撃をかいくぐって彼女の首に手を伸ばした。



「甘い!」



 その手を、天の魔剣が切り落とし……ウィヌスの身体が水になって崩れる。


 また、水の分身だ。



「甘いのはどちらだろうな」



 イリアの背後に現れたウィヌスの爪翼が、イリアの肩口から脇腹まで、一気に引き裂いた。


 間違いなく、命を奪うつもりで放たれた攻撃だ。


 が……、



「さあ?」



 イリアの身体が、黒い煙になって消えた、


 これも、分身。


 突如あらぬ方向から現れたイリアが、ウィヌスに天の魔剣を振るう。


 身を捻って、それをウィヌスはどうにか回避した。しかし、爪翼が片方、根元から切断されてしまう。



「っ、ち……!」



 爪翼は即座に再生したが、ウィヌスの表情はひどく悔しげだ。



「――いいだろう。貴様の力に、私の全力をもって応えてやる」



 ぎちり、と。


 ウィヌスの身体が、軋んだ。


 そして……、



「これをやるのは、あまり好きではないのだがな」



 ウィヌスの纏う黒衣の隙間から、巨大なものが飛び出した。


 それは……翼と、尾。


 まずウィヌスの背中の翼が、左右四枚ずつ八枚に増えた。そして腰の後ろからはウィヌスの身長の十倍はあろうかという尻尾が一本生えている。


 ウィヌスから放たれる威圧感が、一気に密度を増した。


 その姿に、ウィヌスが神なのだと再認識する。


 一歩間違えれば悪魔か化物にでも見えそうな……しかし奇跡的なバランスで神聖さを見る者に覚えさせるその姿は、まさしく神だった。



「……それが本気、か」

「気を付けろ? 私の攻撃は貴様の剣ほど強くはないが――、」



 次の瞬間、ウィヌスの腕が、八枚の翼が、尾が一斉に振るわれる。目にもとまらない速度で。


 瞬く間もなく、合わせて十一の強大な水の刃が放たれる。



「倍以上の手数と、絶対的速さがある」



 それらが、イリアの身体を襲った。



「っ……」



 それも、一度や二度ではない。


 二度、三度、四度、腕が、翼が、尾が振るわれ、その度にイリアの身体に水の刃が叩きこまれる。


 それらを余裕のない表情で防ぎながら、イリアの身体が徐々に後ろに押されていく。


 無理もない。


 あの水の刃一つ一つに攻城砲を遥かに上回る威力が込められているのだから。


 余裕など見せていられるものじゃない。



「っ、舐め、るなっ!」



 イリアが、鬼気迫る様子天の魔剣を振るった。


 馬鹿馬鹿しくなるほどの魔力が込められた斬撃は水の刃を全て撃ち砕き、さらにはウィヌスの身まで届く。


 その斬撃を、ウィヌスの尾が払った。



「やるものだ……しかし、」



 腕を組むウィヌスの視線の先で――イリアの身体が崩れた。


 なんで……?


 イリアには、これといった外傷もないのに……。



「魔力切れ、か」



 ……そうか。


 イリアは人間だ。ウィヌスと違って、魔力が無限にあるわけじゃない。


 あれだけ大量の魔術を行使したんだ。今魔力が切れたのは、何の不思議でもない。



「人間の限界だな。なに、恥じることはない。お前はよくやったよ、小娘」



 空中に浮遊しつづけられなくなったイリアの身体が、地面に落ちた。


 その目の前にウィヌスが立つ。



「っ、ぅ……」



 イリアの目は、未だにウィヌスを射抜いている。


 その視線に、ウィヌスの目が細められた。



「未だに戦意は消えぬか……いい目だ。いいだろう、ならば私にも考えがある」



 ウィヌスの手が、イリアに向けられた。


 あいつ、まさか止めを……!?


 そう思って止めに入ろうとした、刹那。


 ウィヌスの手から仄かな光が出る。


 あれは……加護?


 どういうつもりなのだろう。



「私相手にここまでやったのだ。世界の許可をとるのは、そう難しい事ではなかった」



 にぃ、と。


 神の口元に鋭い笑み。



「加護――魔力の加護をくれてやる」



 イリアの顔が、驚きに染まった。



「元の三倍から四倍の魔力量にはなっているだろう?」

「……なんの、つもりだ?」



 ゆっくりと立ち上がり、イリアはウィヌスを見た。



「なに。正当な報酬というやつさ。私をここまで楽しませてくれた、な」



 ウィヌスの翼が、大きく広げられた。



「そして……もっと楽しませてもらいたい」

「……」



 イリアの目が丸くなる。


 つまり、なんだ。


 ウィヌスは……自分が楽しみたいから、イリアに魔力の加護を与えたのか?


 ……なんていう職権乱用だ。



「……は。ならば、期待にはこたえなくてはいけないな?」

「そうしてくれ。だが……どうやらそろそろライスケも限界らしい」



 ウィヌスがちらりと俺を見る。


 分かってくれて嬉しいよ。冗談抜きで、そろそろ倒れそうだ。



「次の一撃。それで決めよう」

「いいだろう」



 イリアの身体が、空に浮かび上がった。


 と――、


 空が、歪む。


 闘技場の上に広がっていた青空に暗雲が立ち込め、その中で雷が咆哮した。まるで台風の日であるかのような激しい雨が突風とともに降り注ぎ、そんな天候なのに暗雲の隙間からは一条の光が差し込んでいる。


 闇、雷、水、風、光……天属性を構築する特性だ。


 とんでもないな……魔術ってのはこんなことまで出来るのか。


 一方のウィヌスも、全力の魔術を発動させていた。


 ウィヌスの翼が通常の五倍ほどの大きさをもち、尾も同じように巨大化する。その蒼銀の髪の毛の一本一本からは水が滴り、その水滴は地面に落ちた瞬間に爆発するようにその体積を増加させて辺りを泉に変化させる。


 泉は激しき渦巻き、その中心にウィヌスが立つ形だ。



「準備はいいか、人間」

「覚悟は決めたか、神」



 二人の口元が歪む。


 そして、俺は水の結界に残った魔力全てを注ぎ込んだ。


 次の瞬間。





 ――世界が真っ白に染まった。





 何が起きたのかすら、見えない。


 ただ真っ白な世界の中……、




なんかウィヌスの新形態が……。

すみません、ノリでやりました。


決着は次回発表。



……そういえば、新しい連載始めてみました、不定期更新で。ああ、すみません、怒らないでください。

新しいのは不定期更新なんで、こっちの更新速度にはあんまり支障はださないと思います。なのでご容赦ください。

そういうことで、ちょっとした宣伝でした。

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