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神喰らい  作者: 新殿 翔
17/99

二組の同類

 まず問おう。




 ――なんで俺、また剣向けられてるの?




「ああ、いや。すまん。反射的に、」



 反射的に人に剣を向けんじゃねえよ。



「会いたがってる人がいる?」

「そうなんだよ」



 ナンパを撃退した後に食い歩きにウィヌスが満足し、宿に帰ってくると、部屋の前で俺の事を待っているヘイを見つけた。


 また野宿でも強要されたか。


 そう思ったが、どうやら違うらしい。


 ヘイを部屋に招き入れて、俺は詳しい話を聞いた。


 要約すれば、ヘイの連れが俺達に興味を示していて、会わせろとヘイに要求したのだという。


 ……まあ、それはいい。


 会いたいっていうなら別に会ってもいいけれど……、



「でも、普通そういうのって自分から出向かないか?」

「そうだよなあ」



 ヘイがうんうんと頷く。


 どうやら先方は、俺達がそちらの部屋に出向くのが当然と考えているらしい。


 話には聞いていたが、よほど唯我独尊な性格ようだ。



「まあ、そこは諦めてもらうしかないんだけど」

「そうなのか……」



 ひどく自然に諦観を口にするヘイが哀れに見えた。


 つまりこいつは、そうやって反抗も諦めるだけ、その人に何度も同じような経験をさせられていると言うことで……。


 ヘイの肩を軽くたたく。



「頑張れよ」

「ああ……お前もな」

「まったくだ」



 苦笑する。


 諦観は俺も同じようなものだ。


 ウィヌスの性格もなあ……大分アレだし。


 思えば思うほど、ヘイに親近感を感じてしまう。



「ま、お互い大変ってことか」

「だな。いやあ、女ってのはつくづく手におえん」

「そりゃ俺やお前の連れが例外なだけだろ」



 いくらなんでも世界中の女があんなんだったら……とりあえず世界が終わるだろ。



「違いない。少なくとも、世の男の八割は首をくくるな」

「まったくだ」



 ちなみにウィヌスの場合で言えば、首を吊るよりまでもなく、ウィヌスが首を撥ねてくださるのだろうが。


 ……冗談にもならないな。



「んじゃあ、そういうことで。教えた部屋に来てくれ。なるべく早く、な。じゃないと俺が困る。具体的に、首を撥ねられる」



 やっぱりヘイの連れはウィヌスの同類なんだな……。


 前言撤回しよう。


 会いたくなくなった。


 だって明らか、普通の人間には思えないし。


 会っても不利益と不快感と迷惑しか被らない気がする。


 ……しかし、一度は了承してしまったんだし、仕方ないか。これでヘイが責められるのも少し可哀そうだし。


 というか、他人事に思えない。



「けど、俺の方の連れが断ったら、俺一人しか行けないことは伝えておけよ」

「ああ。じゃ、俺は嬢さんのとこ一足先に戻るわ」



 言って、ヘイは部屋を出ていった。


 ――さて。


 それじゃ、俺もウィヌスのところに行くか。


 どうやら向こうは俺とウィヌスが目的らしい。メルは……まあ、ついてくるというなら、連れて行って構わないだろう。


 考えながら、部屋の扉に手を賭ける。


 相手はどんな人格破綻者なのか……それを考えると、若干の寒気すら覚えた。


 せめてウィヌスほど理不尽じゃなければいいんだが。



 で、現状がこれだ。


 もう少し捕捉するとすれば……そうだな。


 ウィヌスは俺が事情を説明すると「なんだか面白そうなにおいがする」とか、俺にとっては不吉極まりないことを言いながら承諾し、メルもそれについてくることになった。


 そして俺達三人はヘイに教えられた部屋にやってきたのだが……まあ、なんだ。


 その部屋の中でソファーに腰を下ろしていた少女に見覚えがあったわけだ。


 それも、決していい覚えではない。むしろその逆、悪いものだ。


 なにせ出会い頭に物騒な剣――もとい、魔術を向けられたのだから。それで印象が悪くならないわけがない。俺がそんなものじゃ傷つかないと言えどもだ。


 そしてなんというか……現状、あの時と同じ状況が俺の身に起きていた。


 俺達がノックをして「構わん、入ってこい」というなんとも男勝りで綺麗な声のままに部屋に入ると……そこで視線のかちあった彼女が、ソファーから弾丸のように俺に飛び出し、そして一瞬で作りあげた魔術の剣を突き付けてきたわけだ、喉元に。


 メルも、ヘイも、この場にいる普通の人間であればおおよそ到底反応できないような速度。


 それに対して俺が感じたのは、驚きでも、恐れでも、怒りでもない。


 呆れ、だ。


 なんというか、もうこういう意味不明な状況に慣れてきた俺がいる。


 あれだ。


 これもまた、諦観だ。



「なんで俺、また剣向けられてるの?」

「ああ、いや。すまん。反射的に、」



 とりあえずの問いに帰ってきたのは、なかなかにふざけた答えだった。


 反射的に人にこんな物騒なものを向ける輩は普通に精神を病んでいるとしか思えない。



「俺はてっきり、これが挨拶代わりなのかと思った。二度目だし、どっちも出会い頭だったし」

「一度目は、あんな状況でいきなり現れてあんなことをすれば、誰だって警戒はする。今回は、その経験を踏まえたせいでの、戦人としての性だ」



 警戒で剣向けられるのか……あと、なんだ戦人としての性って。どこの軍人だよ。



「とりあえず、この剣はどけろ」



 いつかのように、剣をつまんでどける。


 彼女の背後でヘイが「お前が大魔神だったのか……」と呆然としているが、なんだ大魔神って?


 剣はそのまま、霧散してしまった。



「あ、あの……ライスケさん?」



 恐る恐るとメルが声をかけてきた。



「そちらの方は、お知り合いですか?」

「……まあ、一応は、そうかな。ほら、少し前に魔物に襲われた町に俺が向かった時あったろう? あの時に会ったんだよ」

「ということは、彼女が天属性の魔術師、ということね」



 ウィヌスが口を挟んできた。



「ほう、わたしが天と見破ったか……」



 感心したように少女が言う。



「見破るもなにも……貴方、去り際のライスケに自分から名乗ったんでしょ?」

「……ああ。そういえば、そうだったな。もっとも、彼は最後まで聞かずに去ったわけだが」



 聞く必要もなかったからな。



「自分に敵意を見せた相手と一秒でも長く一緒にいたくなかったんだよ」

「勘違いするな。わたしはそちらに敵意など一分も向けたことがない」

「おいヘイ俺はもう帰っていいのか?」



 なんだろう。


 もう一刻も早くこの会話を終わらせたい。


 なんだかそっちの方が俺の精神衛生上よろしい気がする。


 どこの世界に敵意を持たない相手に剣を向ける馬鹿がいるのだろう。


 ……会ってよく分かった。


 問答無用だ。問答無用で、これはウィヌスの同類だ。


 ウィヌスみたいのが二人?


 無理だな。俺にはそんなのに対処する自信はない。


 なにか問題が起きる前に退散するのが一番賢いやり方だろう。


 ――というのに、



「まあ、待ちなさい。ライスケ」



 何故こいつは今にも部屋を出て行こうとする俺を止めるのだろう。



「せめて最後まで話を聞いてあげましょう」



 ウィヌスの目は明らかにこの状況を楽しんでいた。


 天属性の魔術師とやらに出会えてさぞ嬉しいのか……それとも俺が逃げようとして逃げられない様がお気に入りなのか……どっちもか。


 こいつ、悪神だしなあ。



「とりあえずわたしも、弁明くらいはしておく。まず第一。最初に貴様に剣を向けた時のことだが……素手で魔物を潰す人間相手に油断など出来なかった。警戒するにしても、せめてそっちの行動力は奪っておきたかったからな。天の魔剣を突き付けた次第だ。それも結果的には無駄だったわけだが」

「まあライスケはいろいろと規格外だから、それなら同じものを百本は用意すべきだったわね」

「まるで化物だな」



 ……む。


 そこは否定できないところだった。


 俺が何も言えないでいると、隣のメルが口を開いた。



「ライスケさんは化物なんかじゃありません」



 その語気の強い物怖じしない態度は、普段のメルからは想像できないものだった。


 だが……不思議と驚きはない。


 なんとなく、もともとメルはこういう芯のある人間だというのは分かっていたから。



「ふむ……愛されているな。嫁か?」

「よ、よめ……っ!?」



 が、その態度は彼女の茶化すような言葉で崩れてしまった。



「からかうな。メルが迷惑する」

「……そうか?」



 小首を傾げながら、彼女はメルを見た。


 彼女は顔を俯かせてしまっている。


 ……俺の嫁なんて勘違いされたことに落ちこんでいるのだろうか。



「まあ、貴様の鈍さはどうでもいいのだが……、」

「鈍いってなんだ」

「そこが分からないから鈍い。恐らく貴様以外は全員理解している」



 メルは相変わらず俯いたままなので、俺はウィヌスとヘイを見た。


 ウィヌスは飄々とした笑みを浮かべていて、ヘイは肩を竦めている。


 ……なんだっていうんだ。


 ついでにメルの肩の王馬達を見ると……なんでお前らまで呆れたような視線を俺に向ける。その「おいおい本気かよ?」「あらまあ奥さん、最近の若い子は……」みたいな目はやめろ。



「それは追い追い、自分で考えるがいい。今はわたしだ」



 再びソファーに腰をおろして、彼女は不敵な表情で俺を見た。



「初見では、わたしに非礼があった。そこは素直に詫びよう。まあ悪かったな」



 そんな軽く謝られても……本気で悪かったと思ってるのか?



「先程のことと、あとついでに化物呼ばわりについても、まあわたしに出会った自分の運が悪かったと諦めてくれ」



 しかも開き直ったぞ。



「さて、これで過去のいさかいは水に流すとしよう」

「本気かよ……」

「これが本気なんだなあ」



 愕然気味に俺が呟くと、ヘイが俺の肩を叩いた。



「諦めろ。この人に反省とか改心とか求めるだけ無駄だ。分かるだろう」



 ……そうだよな。ウィヌスと同類だもんな。



「ヘイ。とりあえず貴様はあとで吊るすので覚えておけ」

「んじゃ、俺ちょっと散歩いって来るな!」

「逃げるなよ」



 ヘイの肩を掴む。


 ウィヌスとこの少女がそうであるように、俺とヘイは同類だ。


 なら、俺だけここに残るなんて理不尽だ。


 ヘイも巻き込んでやる。



「俺を残して先に行け、的な展開をライスケには期待しているんだぜ……?」



 それ死亡フラグじゃねえか。



「とりあえずお前は座っとけ。逃げだそうとしたら…………まあ死にはしないだろう」



 力づくでソファーに座らせる。ヘイはそれに抵抗しようとするが、普通の人間の抵抗なんてどうってことない。



「え、なに!? 何をする気なの!?」

「気にするな」

「気にするわ!」



 ヘイ相手だとなんだか口が回るな……やっぱり身近に感じてるからだろうか。



「とりあえずヘイは黙って座っていろ。話が先にすすまん。なんなら首を裂いて無理矢理喋れないようにしてやろうか」

「あら、いい案ね。どうせなら裂くのではなく、落としてしまった方が楽だと思うけれど」



 少女とウィヌスが笑うと、ヘイは即座に口を噤んだ。気持ちはよく分かる。


 こいつら、ふざけているようで本気の目をしてたぞ。


 メルもいつの間にか俺の後ろに隠れて小刻みに震えてるし。


 ……この世界に来て俺の最大の過ちはこいつらを会わせてしまったことかもしれない。



「さて。では謝罪がすんだところで、改めて自己紹介させてもらおう。わたしの名はイザベリア=ベルファスト=エリア=ソングストリース…………あ、間違えた。今の忘れてくれ。やり直す」



 ――……は?


 気のせいだろうか。今……王族の名前っぽいのを聞いたぞ?



ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


……三日更新できませんでした。

言い訳としては……前回投稿したのが二十四日だと思ってました。

今、投稿しようとして「え……なんか前話投稿日が二十三なんですけど」と思ったしだいです。

どうしようもない間抜けです。すみません。


次回からはこういうことがないように気をつけます。

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