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神喰らい  作者: 新殿 翔
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闘技大会出場表明


「闘技大会だあ?」



 思わずオウム返しをする。


 宿に戻っていた俺とメルは、俺の部屋で祭りのことについてなどの雑談をしていた。


 すると、俺達から遅れること十数分、遅れて帰ってきたウィヌスが俺の部屋にくるなり、いきなりそんなことをのたまった。


 余談だが、ウィヌスとメルはやはり別に一部屋とっている。



「無理、そんなの出ない」

「大丈夫、戦うのは私だから。ライスケは人数埋めで立っているだけでいいわ」

「それでも無理」

「なんでよ……」



 いや、なんでって、言うまでもないだろ。



「お前、出たら百パーセント殺すだろ?」

「貴方は一体私をどんなふうに見ているの?」



 今言ったままだが?


 基本、人は殺せば問題解決、みたいな思考してるんじゃないのか?



「……殺したら失格だから、ちゃんと生かすわよ」

「でも腕や脚は切り落とすだろ?」



 眼を逸らしやがった。


 やっぱりやる気だったのか……。


 こいつのことだ、それが一番手っ取り早いと思ってたんだろう。



「分かったわよ、なら、指にして――」

「お前は俺がなんで無理って言うのか根本から理解していないんだな」



 腕も指も駄目だっての。



「そういう、身体の一部を切り落とすとか、そういう考えをやめろ、って言ってるんだよ」

「別にいいじゃない。闘技大会に出るような人間なら腕の一本失う覚悟があって然りよ」

「それでもだ」



 大体、極論すぎるぞ。


 もっと優しさとか持てよ。相手は生きてる人間だから。



「……分かったわよ。なら後遺症の残る類の怪我はさせない。それでいいの?」



 不承不承とウィヌスが言う。



「まあ……それなら構わないけれど」



 俺だって金貨三十枚の賞金には心惹かれるものがある。


 それだけあれば、生活には困らないしな。



「でもいいのか? 神が闘技大会なんてものに出て」

「ま、神が出てるなんて知れたら軽く騒動が起きるでしょうけど、要はバレなきゃいいのよ、バレなきゃ」



 バレなきゃ罪じゃない、を素で進むやつだな……。



「それで、その大会ってのはいつやるんだ?」

「明後日のクルーミュ祭開催式の直後に予選。その翌日に本戦が始まって、準決勝と決勝だけはさらにその翌日の、祭りの最終日に締めとして開かれるみたいよ」

「そんなに長いのか……」



 それじゃ、下手したら普通に祭りを見回ることは出来ないかもしれないな。


 でも、そうなるとメルが……。



「ウィヌスさんとライスケさんが出るなら、きっと優勝できますね」



 メルはにこやかに笑っていた。



「……メルはいいのか? 俺達二人とも大会につきっきりなるかもしれないぞ?」

「大丈夫です。お二人の活躍を見るのは楽しみですし、祭りを回りたいのなら一人でも回れますから」

「だが……」



 メルは可愛いからな……街中を一人であるいていたら変な奴にからまれても変じゃない。


 そうなったら非力なメルには抵抗する力なんてないだろう。


 ……やっぱりメルを一人にするのは心配だな。


 俺の気持ちを読み取ったかのように、ウィヌスが呆れ切った苦笑を浮かべた。



「過保護な父親みたいよ、ライスケ」

「む……」



 年齢的に兄と言って欲し――いや、そうじゃなくて。


 過保護かもしれないが、心配なんだから仕方ないだろうが。



「まったく、その辺りは平気よ」



 ウィヌスが立ち上がって、いきなり部屋を出て行った。



「……どうしたんだ?」

「さあ……?」



 メルと二人で首を傾げる。


 相変わらずウィヌスの行動は理解し難いところがある。


 一分ほどして、ウィヌスが戻ってきた。



「はい」



 帰ってくるなりウィヌスがメルに差し出したのは……なんだあれ。


 二つの小さな馬の人形……か?


 あれ。でもあの馬、どこかで見覚えのあるような……。



「フィルちゃんにコルちゃん、ですか?」



 信じられないという目でメルがウィヌスと人形の間で視線を交互にさせた。


 フィルちゃん、コルちゃん?


 ――あー、そういえばメルが王馬達に名前をつけたって言ってた気がする。もしかしてそれのことか?


 いやいや、でも「ちゃん」づけはないだろ。


 ってか……なんでここで王馬達の名前が?


 馬の人形をよく見てみる。確かに、鱗があったり、王馬達の魔物の姿によく似ているが……。


 俺が見つめていると、馬の人形の首が曲がり、その二つの黒い目がこちらに向いた。


 …………正直、よく腰を抜かさなかったものだと自分を褒めてやりたい。


 だって人形が動くんだぞ?


 どこのホラーだそれは。



「な、なんだそれ?」

「王馬達に決まってるじゃない」



 事もなげにウィヌスが言う。


 ……よし、落ち着け、俺。


 目の前には小さな馬の人形が二つ。


 これが王馬達……?



「意味がわからん」



 俺は思考を放棄した。



「鈍いわねえ。つまり、王馬達に小さく変化させたのよ」



 鈍いって、普通はこんなの理解できるわけない。


 それに小さく変化させたって……そのまんまかよ。



「そんなこと出来るのか?」

「出来るからこうしてここにいるんでしょ?」



 ごもっとも。


 王馬達にそんなことまで出来るなんてな。


 ミニ王馬達はメルの掌の上で飛び跳ねている。



「凄いんですね、二匹とも……」



 メルに褒められて満更でもなさそうなのが、微妙に愛嬌がある。


 初めて会った時こそいきなり火を飛ばしてきたりしたが、慣れてしまえばなかなかに愛くるしさを感じなくもない。



「とりあえず、あんた達」



 ところが、ウィヌスに話しかけられた途端にその身体が硬直した。


 ……可哀そうに。トラウマか。



「これから祭りの期間中、メルに髪の毛一筋程の傷でもつけさせたら、殺すから」



 こくこく、と王馬二匹が高速で首を上下させる。


 なるほど……王馬達がボディガードになるなら、メル一人でも心配ないか。


 王馬達は魔物のなかでも高位らしいからな。普通の人間じゃ、まず手出しはできない。



「メル、この二匹を肌身離さず連れておきなさい。肩にでも乗せておけばいいわ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「別に貴方の為じゃないわ。こうでもしないと、メルが心配で大会にでたくないなんて言いだしそうなやつがいるからね」



 ちろり、と。


 愉快そうなウィヌスの視線が俺を見る。



「これで問題はないわよね」

「……分かってるよ。ちゃんと大会には出る」



 頷いて、俺は溜息を吐いた。



「でも、本当に相手に大きな怪我はさせるなよ?」

「安心しなさい。一度約束したからには、そこはきちんと守るわよ」



 ならいいんだがね。


 しかし……闘技大会か。


 俺とウィヌスに指一本でも触れられるような人間がいるとは思えないが……それでも願ってしまう。


 波乱なんて、ありませんように……と。



「悪いな、ヘイ!」



 にやり、と笑いながらヘイの肩をたたく。


 場所はそこそこ高級そうな宿。


 ま、わたしの部屋ほどではないが、それなりに手入れはされているようでなによりだな。


 もっともわたしの部屋はこの間の魔物の襲撃で滅茶苦茶だが。



「……なんで謝ってるんですか。すげえ嫌な予感がするんですけど」

「闘技大会、出場登録してしまった」



 てへ、と舌を少し出しながら告白する。こうすると男はいちころと、城のメイドが言っていたのだ。



「なにやってんですかあんた!?」



 ……メイドの嘘吐きめ。



「人探しにきたんでしょう!? 闘技大会には出ないって言ったじゃないですか!」

「悪い。チラシを見たら、つい」

「つい、じゃねえ! ってか一緒に行動してたのにいつ登録した!?」



 順調に貴様、わたしへの敬語が抜けてるぞ。


 気分はわたしと同格か? 大したご身分ではないか。


 ……まあ、そこはわたしの寛容さで許してやろう。


 今回はわたしにも砂一粒程の非があるしな。



「お前の目を盗んで登録を済ませるなどわたしにとっては朝飯前だ」



 胸を張る。



「そんな無い胸張っても――」

「コロすぞ?」



 一瞬で天の魔剣を作り出してヘイの首筋にあてた。



「すみませんでしたぁっ! 姫様の胸は大変に美しいと思います!」

「それはセクハラ発言だろ貴様」



 っていうか、わたしの胸はそんな小さくない。


 適度な美乳だ。


 貴様一体どれほどの巨乳好きだ。男はデカければいいのか?


 天の魔剣を消す。



「まったく。わたしの探してる男はこの剣をつまんでどけた上に、手刀で砕いたぞ」

「だからその大魔神は誰なんですか!?」

「分かっていたら苦労はしない」



 あれほどの腕だ。名が知れ渡っていても不思議はないのだが……黒髪であれほどの技量を持つ者など聞いたことがない。


 そもそもあの男がどんな技をもっているのかすら不明なのだ。


 町の魔物に降り注いだ水属性魔術の槍の雨。おそらく、それもあの男の仕業だろう。


 だとすれば、高位の魔術師?


 いや。


 わたしの部屋で、腕一本振るった衝撃のみで魔物をミンチにしたあの力には、魔力の流れは感じられなかった。


 つまり――馬鹿馬鹿しいことだが、彼は素手であんな常識から外れた力を行使したことになる。


 強力な魔術と、桁違いの力。


 ……本当に、あれは何者なのだ。



「とりあえず姫様、闘技大会は駄目です。街が吹き飛ぶので」

「ふん。その点はちゃんとわたしに考えがあるぞ」

「……今日一番の嫌な予感がするんですけど」



 貴様、勘だけは鋭いな。


 にやり、と笑ってみせる。



「つまるところ、あれだ。貴様としてはわたしが戦って、力の加減を間違えて街を吹き飛ばすのではと危惧しているわけだ」

「まあ、そうですけど……」

「ならば、わたしではなくお前が戦って勝ち進めばいいだけではないか」

「はぁ!?」



 ひっくり返ったヘイの声。


 なんだその変な声は、わたしを笑わせたいのか?



「馬鹿ですかあんた! 大会は二人一組なんですよ!? 俺に戦えって……一対二で勝ち進めと!?」

「うむ。というか姫に馬鹿とか貴様本当に度胸だけは英雄レベルだな」



 いっそ感心してきたぞわたしは。



「まあ、あれだ。頑張れよ?」

「無理です!」

「優勝したら大会賞金は全額貴様にくれてやるから」

「やります!」



 ……本当に金に忠実なやつだなあ。



「そうと決まれば姫様! 武器を買いに行ってもいいですか? 城からはなんも持ってきてないんで」

「さっきまでのやる気のない態度が夢のようだぞ。いいぞ、行って来い」

「は!」



 勢いよくヘイが部屋を飛び出した……かと思うと、すぐに戻ってきた。



「そういえば参加資格にギルドでランクAの依頼を達成っていうのありませんでしたっけ? 俺、そんなのやったことないんですけど」

「金の権力は時に事実すら歪めるものだ」

「……万事了解しました」



 物わかりがよくて結構。


 ヘイは納得したようで、再び部屋を飛び出していった。


 ちなみにヘイはともかく、わたしはランクSSSの依頼を達成したこともある。


 その時はあれだったな……竜の巣の殲滅。


 さすがに密閉空間で竜五十匹と戦った時は危機感をほんの少し覚えた。


 いつかまた、あんな仕事をしてみたいものだ。



 トイレにでも行くか。


 そう思って部屋を出たところで、真横からの衝撃に襲われた。



「ぐぉ!」

「ん……?」



 俺が簡単に吹っ飛ぶわけもなく、ぶつかってきた方が逆に弾かれる。


 見ると、なにやら一人の男が地面に尻をつけていた。



「……大丈夫か?」

「あ、ああ。悪いな、ぶつかっちまって」

「いや、それはいいけど」



 痛くもかゆくもなかったし。



「気を付けろよ、俺じゃなかったら怪我の一つくらいはしてたかもしれない」

「そうだな……っていうか、あんた凄いな。俺が思いっきりぶつかってもよろめきもしないなんて」



 ぶつかられたとき、とっさに足の指が地面をつかんでいたのだ。


 ちょっと足をずらしてみると、木の床にくっきりと俺の足の指が食い込んだ跡が残っている。靴ごしだったのに……。



「足の指で地面をつかんだんだよ」



 床の跡を指差して言うと、相手の男が驚いたように目を丸めた。



「うわ、すげえ……もしかして、闘技大会とか出ちゃうクチ?」

「……ああ」



 苦々しく頷く。



「うわ、あんたみたいのも出るのかよ」

「まあ、俺は人数埋めのために巻き込まれたみたいなもんだし、戦うのは連れだけどな」

「あんたもか……」



 あんたも?


 ……なんだろう。


 なんか、この男を見ていると、鏡を見ているような不思議な気分になってくる。



「俺は、逆に巻き込まれた上に、俺だけ戦わさせられるんだ……」



 これが――シンパシーってやつか?


 気付けば、俺と男は握手を交わしていた。



「頑張れよ」

「あんたもな」



 そうして俺達は、誰も知らないところで友情を芽生えさせた。



ヘイ君のステータスをどうするか迷ってる。

……うーむ。


ヘイ君もいいキャラになってきたし、裏設定考えるか。

でもそうすると先がどんどん長くなるんだよなあ……まあ、いっか。

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