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騎士の忠誠【sideなし】

 謁見の間ではなく、防音魔法がかかった部屋にウォンとラードは呼び出されていた


 陛下はまず二人の苦労を労る。


 そしてすぐ本題に入った。


 ローズ家の中でアリアナと最も親しくしているのは誰かと。


 陛下は暗部の正体を探っている。最大限のタブーであり、シャロンにバレたら暗殺されるか秘密を暴露されるか。あるいは両方。


 そんな危険を犯してまでも調べようとする陛下を、シャロンは見守ることに決めた。


 なぜならこの二人が優先しているのがアリアナとニコラの護衛であるから。護衛そっちのけで探っていたのなら、どうなっていたことか。


 まさに知らぬが仏。


「専属侍女と執事長だけです。あとは……」


 一応、カストとハンネス、ヘレンも命令に背かない程度に近づいてはくる。だが、あれは親しいとは言い難い。常に怒りの捌け口としてしいる。


 ローズ家は貴族としての役割を果たし、子供達のおかけで信頼や実績を積んできた。


 現当主の人徳のなさや、あまり好かれていない事実などに目を瞑れるほどに。


 実際に内情を見てきた二人からしてみれば、アリアナが気の毒でならなかった。


 家族だけでなく使用人からも冷遇される。あまつさえ!悪いことの原因の全てをアリアナ一人に押し付ける。


 侯爵だけならともかく、同じ騎士であり、しかも団長職に務めるカストまでもがだ。


 気の迷いなんてものではない。明確な悪意と敵意、殺意を持っている。


 いくら信用のおける騎士団にも暗部のことだけは口を滑らせるわけにもいかず、詳しいことは話せないことを謝り、本件の報告は終了した。


 退室しない二人に他にも何かあるのかと聞く。


「ローズ家は何かを隠しているように思います」

「何か、とは?」

「わかりません」


 陛下は顎を触りながら考えた。


 ローズ家は力が強い。アルファン公爵家に引けをとらない。


 加えて息子、ディルクの婚約者もいる。


 敵に回すのは損でしかない。


 騎士団の中には侯爵を良く思っていない者も多く。王族の婚約者の立場を利用して好き放題している。らしい。


 噂は間違ってはいない。


 気に食わない貴族(ボニート伯爵家)への売買を禁止するよう圧をかけた。


 従わなければ近い将来、王族に逆らった罪で処刑してやると脅しまで。


 結婚した暁にアリアナには、あの家との縁を切って欲しいと切に願う。


「その秘密とやらは調べられそうか?」


 意外だった。


 これまでの陛下なら波風を立てないよう傍観するか、エドガーの友人の家だからと手を引かせるかのどちらか。


 それを調べられるかと聞いた。


 一体陛下にどんな心境の変化があったのだろうか。


「いいえ。恐らく不可能です」


 隠し事の内容さえわかっていれば証拠を探すだけでいいが、隠し事そのものを見つけるのは至難の業。


 屋敷の中には使用人の目が光る。アリアナやニコラと関係のない部屋に入ろうものなら侯爵の耳に入り、第一騎士団がコソ泥の真似をしていたと陛下に抗議する。


 そして二人を派遣したディルクにそれ相応の処罰、すなわち王位継承権の剥奪を申し出るだろう。


 断然、エドガー派のローズ家はどうにかディルクを失脚させたい。そのチャンスをよりにもよって第一騎士団員が作るわけにはいかなかった。


 もう二人にはわかっている。エドガーは王の器ではない。自分勝手で自分都合。相手の気持ちを顧みない。


 先日の一件がまさにそう。体調を崩したアリアナの部屋の扉を叩き続けた。幸いなことにアリアナは回復はしていたが、今後も似たようなことを繰り返すはず。


 王族に忠義を立てた二人がこんなにもアリアナの身を心配するとは思ってもいなかった陛下は内心驚いていた。


 やはり彼女には王妃たる素質がある。


 このまま無事にディルクとの婚姻が上手くいって欲しいと願うも、そうはいかない。


 王妃が邪魔をする。エドガーが邪魔をする。


 下手をすればディルクは……殺される。


 カルロだけでは荷が重い。


 暗部なら秘密裏にディルクを守ってくれる実力は兼ね備えているがシャロンは許可を出してくれないかもしれない。


 恐れ多くもシャロンは断言した。アリアナ・ローズの味方だと。


 私的にも、王命にも従わず、アリアナのためだけに元暗殺集団を使う。


 彼女の親友への思いは底知れぬものがある。


「確認だが、その秘密には侯爵夫人が関わっている、あるいは巻き込まれている可能性はあるか。知っての通り彼女はあのブランシュ辺境伯の愛娘だ」


 国中の騎士を総動員してもブランシュ辺境伯には勝てない。数の有利など、もろともしないのが実力武闘派ブランシュ辺境伯一家。


 もう六十代とはいえ、未だ衰えることのない辺境伯。隠居生活を謳歌していた。


 権力には興味はなくパトリシアの幸せを願っていたが、交流のあった先代ローズ侯爵に頭を下げられた。


 それはそれはもう嫌そうな顔をして声に出さない代わりに「寝言は寝て言え。まだボケる歳じゃないだろう!!」と、目は口ほどに物を言うとは、まさにこのことだった。


 当の本人であるパトリシアは縁談に乗り気で今の侯爵と結婚。


 この結婚はブランシュ家には何の利益はない。


 地位も財産もあり、ついでに人望もある。ローズ家とは友人関係のままで充分。


 ローズ侯爵の考えは違っていた。とにかく息子を支えてくれる強くて逞しい女性を婚約者に望んでいた。それを実現出来たのが、国中を隅から隅まで探してもパトリシアだけ。


 結婚式当日も渋っていたが、侯爵と結婚すれば国のためにもなるからとパトリシアは笑っていた。


 だから……だからこそ!!辺境伯はパトリシアと孫のアリアナを大切に想う。


 侯爵の血を濃く継いだカストとハンネスを可愛がる素振りも見せない。


 パトリシアは一度だけアリアナと実家に帰ったことがあった。そのときは緊張と、人を殺めてきた過去が鎖となり姿を見せることはなかったが辺境伯も夫人も、パトリシアと同じぐらいアリアナを愛している。


 そんな辺境伯の怒りを買ったら国はどうなるか。答えは滅亡。


 暗部がシャロンを失ったとき同様に。


 この国には危険な起爆剤が二人も存在している。


 なぜ前世では、それほどまで愛しているアリアナの死に怒りを爆発させなかったのか。


 辺境の地にいたことから知らせが届くのが遅かったのと、そもそも王都で起こる事件にさして興味のない辺境伯は連絡手段を絶っていた。


 もしも処刑が執行される前に辺境伯の耳に届いていたならアリアナは死なずに済んだのかもしれない。


 ディルクと協力して冤罪を晴らし、逆にエドガーとヘレンを処刑台に登らせただろう。


 彼らのアリアナを想う愛は、それほどまでに大きい。


「今日は話が聞けて良かった」


 陛下は現実から目を逸らさないと決めたとは言え、起こるかどうかもわからない未来に頭を悩ませるのはやめた。


 そうならないように事を慎重に進めればいいだけのこと。


 二人は昨夜アリアナに、裏切らない忠誠を誓ったと告げた。陛下はさほど驚きはしなかった。


 これまでの話を聞いていたらアリアナに忠義を立てたことは予想がつく。


 同情心ではなくアリアナの人柄に惚れて。


「二人共。本当にご苦労だった。しばらくは休暇を取って体を休めてくれ」


 一刻も早く屋敷に戻りたい二人は何とも微妙な顔をしていた。


 今のは命令ではないものの、陛下の言葉を断れるわけもない。


 休暇中に護衛に戻るわけにもいかず、頭が混乱してきた。


 そして絞り出したのが


「しばらくとは、正確にはどのぐらいでしょうか」

「ん?あぁ、一週間でどうだ。もっと必要なら一ヵ月でもいいぞ」

「いいえ!一週間だけお願いします!!」


 陛下に悪気はない。疲れが溜まっているのではと心配しているだけ。どんな超人にも休息は必要だ。


 王宮騎士団に長期の休みはない。一身上の都合があれば別ではある。


 普段なら大いに喜べた。


 ただ今回は陛下が二人の想いを汲み取れなかっただけ。


 さて、問題である。一週間は、すぐ、なのか。


 報告と休養。遅くとも二日後に戻る算段をつけていた二人からすれば大誤算。


 ソール卿とルア卿がヘマをするわけはないが、アリアナのことは自分の手で守りたいなどと思ってしまった。

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