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第四騎士団の秘密

「ほう。これはこれは」


 咲き誇る花々を見て感心したように呟いた。


 内緒話には見晴らしのいい庭が一番。


 隠れる場所もなく、色鮮やかな花が並ぶ。


「随分と見るに堪えない庭園ですね」


 そうかしら。綺麗に咲いていると思うけど。


 ソール卿……いえ、ラジットの曇りなき笑顔は、本心からそう言っていた。


 花に興味のない男性でさえ目を見開くものがある、立派に育てられた花。それを見るに堪えないなどと最上級の侮辱をするのは後にも先にも彼だけ。


 詳しいことはまだ話してくれていないけど、第四騎士団団長ソール卿の本名はラジット。


 千里眼と静聴魔法の特殊魔法を持つ魔法使い。魔法属性は風。


 二人のときはソール卿ではなくラジットと呼んで欲しいとお願いされた。主であるシャロンの親友の私に敬意を払ってもらえるような立場ではないからと。


 誰かが近づいてきたら足音でわかるからと無理やり説得させられた。


 花壇に向かって人差し指をクルクルと回すと、小さなつむじ風が一輪の花を宙へ飛ばし、刃物で切られたかのように細切れになった。


「アリアナ様は青い花がお好きだと聞いておりますが、ここにはないんですね」

「ここには、じゃなくて、どこにもないのよ。この屋敷の至る所はあの子の好みに改装された」


 私のプライベート空間までには及んではいない。


 少しずつ、本当に少しずつ侵食されていく。


 いっその事、全てを灰にしてしまえば気が楽になる。そんなことをすれば不正の証拠はなくなり、言い逃れるチャンスを与えることとなってしまう。


「踏み荒らしましょうか?これ」

「いいえ。このままで結構です」


 本物ではなくても、本物以上に価値のある枯れない花を貰った。


 それだけで充分。


 それに、花に罪はない。こんなにも美しく咲いたのに、育てた人のせいで短い生涯を無理やり終わらせるなんて非道。


「ローズ家にも暗部はいるんですよね」

「はい」

「誰かしら」

「お答えし兼ねます。申し訳ありません」


 自分の正体は明かしたのに?


 仲間の情報は売りたくないってことではなさそう。


 それぞれに事情はあるみたいだし、力を貸してもらう身としては強くは追求出来ない。


 魔法と特殊魔法の違いぐらいは教えてくれるかしら。


 耳にしたことのない言葉。魔法とは、両親のどちらかの属性を持って生まれる故に、そんな特別感満載の魔法があるなんてにわかに信じられない。


 ラジットの生い立ちを少しだけ聞いた。


 親に捨てられ、教会ではいじめと虐待の日々。


 自害をさせないようにかけられたまじないにより、生き地獄から逃げる(すべ)はなかった。


 隣国も貴族制度だ。身分が高ければ高いほど、魔力は高く扱える魔法も強い。


 ただ貴族でありながら、生まれながらに魔力を少なく生まれた子供は将来、“欠落者”となることが多く、長くて七年間は隠され育てられる。


 魔法の適性がなかったとき、最初からいなかったようにするために。


 上級貴族のほとんどがそうして家門のプライドを守り続けているらしい。屋敷の外に出ることは許されず、小さな部屋に閉じ込められる。


 他の家門に付け入る隙を与えないための苦渋の選択だと言い訳ばかり並べる汚い大人達。


 理不尽な理屈に反論しないのは、力のない子供は劣等感を抱き、力ある子供は弱者を切り捨てることが正しいと洗脳に近い教育を受けてきたせい。


 ラジットは男爵家の長兄として生まれ、小石よりも更に小さい魔力しかなかったことから期待はされなかった。


 魔法の適性よりも早くに特殊魔法を出現させたラジットは家の中で気味悪がられ孤独と隣り合わせの日々。


 メイドから向けられる冷たい目は特に酷かった。


 千里眼、透視とも呼ばれるその魔法は遮蔽物を無視して見たいものを見られる。女性からしたら気が気ではない。


 簡単に言ってしまえば四六時中、服の下を見られていると恐ろしい気持ちになる。


 いつも俯いて歩く子供を汚物を見るような目で見て、貴族子息に対して無礼な振る舞いも日常茶飯事。メイド達がそうやって調子に乗ってしまった一番の理由が、家族が見放していたこと。


 二人目の男児は魔力も高く母親の水魔法を受け継ぎ、自警団部隊にスカウトされるほど力の強い力を持った弟だけを可愛がっていた。


 それこそがラジットをぞんざいに扱っていいと思わせたのだ。


 苦しかったはずの日々を、淡々お語る表情にトラウマなんてなく、過去のこと、終わったこと。そんな風に見受けられる。


「アリアナ様は私が気味悪くないのですか?もしかしたらその……覗いているのかもしれないんですよ」

「見てるんですか?私の体」


 冗談っぽく聞くと「まさか」と首を横に振った。


 だったら邪険にすることはない。


 私としては顔合わせからずっと気になっているのが左目。


 もし幼少期のいじめや虐待のせいで傷を負っているのならクラウス様に頼んで治してもらえるだろうか。


 治癒魔法で古傷が治るなんて聞いたことはないけど、規格外のクラウス様なら可能だと思わせる。


「気になりますか」


 眼帯をトントンと叩いた。気分を害したわけでもなさそうで、眼帯を外した。


 その目は斬り付けられた痕があり、完全に塞がっている。眼帯をしていたのは傷を隠すためと、どうせ見えないなら閉ざしてしまおうってことなのかしら。


 第四騎士団とはいえ平民が団長になったことへの腹いせで?


「左目は生まれつき視力があまりないのでお気になさらず」


 眼帯を付け直したラジットは空を見上げては大きく息をついた。


「第二王子なんですよ。これをやったの」


 懐かしむように語った。


 ラジットが傷つけられた理由はシンプルだった。


 ディーと同じ剣術が出来なくて、当時はまだ平民騎士のラジットに当たっただけ。


「目障りだ、平民風情が」と悪態をつきながら短剣を投げ付けた。


 王宮騎士団は所属関係なく王族を守ってきた。その苦労がわからず身勝手な怒りをぶつけた現場を目撃したその日から、どの騎士団もあの男の専属騎士となることを受け入れない。


 気に入らない度に故意に怪我をさせるあの男を、主君と思い忠誠は誓えないと。


 だからカストが専属騎士に任命されたんだ。


 納得した。実力と実績があるとはいえ、第一騎士団そっちのけでカストが選ばれたから不思議だったのよね。


 王族の不名誉な不祥事は陛下の名のもとに箝口令が敷かれた。


 第四騎士団はラジットへの口止めと謝罪のために作られた団。騎士団長の職を与える代わりに口を噤んで欲しい。給料も他の団長より多い。


 元々、実力自体はあったわけで、本来なら警備専門の第二騎士団の副団長に抜擢されるほど。


 故にお情けで与えられた団長と見下す人は一人もいなかった。


「陛下は王妃を刺激しないように第二王子を贔屓して第一王子を無視してきました。それが愛した側室を守る唯一の方法だと信じて疑わず」


 今更陛下にガッカリしたりはしない。


 私だって無視をしていた一人だから。


「これだけは教えてくれるかしら。陛下はなぜウォン卿とラード卿を呼び戻したの」

「話があるとか言っていましたね。二〜三日でまた交代すると思いますので、それまでは私で我慢して下さいませ」


 我慢だなんてそんな。


 実力で団長職まで上り詰めた騎士が守ってくれるのだ。


 何を嫌がることがあるだろう。

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