身分は価値であっても
昼休み、どこも騒々しくて静かに話し合いが出来る場所がない。
一般生徒立ち入り禁止の会議室の使用許可をディーが取ってくれていて、そこでご飯を食べながら今後について話し合う。
他の生徒は誘っても遠慮してしまうからいつもと変わらない顔ぶれ。今回に限ってはそのほうがいい。
「今回の件は不可解なことが多すぎます!」
カルがドン!とテーブルを叩いた。
あからさまにシャロンの失脚を狙っている素振り。冤罪であることは明白なのに、それを証明する術がない。
テオも誤った噂が広がらないように手を回してくれると言ってくれたけど、あまり期待はしないでくれとのこと。
証拠が揃いすぎているのと、シャロンをよく思っていない男子生徒が多すぎる。
「アリーは私がやったと思ってる?」
「絶対にないと信じてるわ」
「うん……。アリーが信じてくれてるなら、私はそれでいいの」
「おや。私達の信用は不要ですか?」
テオが肩をすくめた。それが妙に演技っぽくてガッカリしてるようには見えない。
場を和ませてくれているんだ。
「これなら…」とシャロンは自分が犯人でない理由を淡々と述べた。
まず、シャロンは人目のつくアカデミーで襲ったりしない。どこに人の目があるかわからないから。
次に、刺すにしても正面からじゃなくて背後から。傷をつけるだけが目的なら、顔を見られたら一巻の終わり。
最後に、刺した理由が先日にも挙げられた“シャロンの嫉妬”なら腕ではなく顔を切り刻んでいる。それも見るに堪えない程に。
これらを聞くと、最初から冤罪だとわかっていても絶対にシャロンではないのだと改めて思ってしまう。
テオも似たような理由から、断言をしていた。
手っ取り早く無実を証明するにはアリバイがあればいい。
シャロンは犯行時間にどこにいたかを語るつもりがない。
裁判が開かれたら証拠を捏造してまでもシャロン排除に動く。もちろん裁判で無罪が立証されれば、シャロンを陥れようとした罪であの子が裁かれる。
その場合、証言をした女子生徒にも非があると責められ、あの男と王妃が真実を有耶無耶にして女子生徒一人に罪を着せるかもしれない。
重要なのは目撃者の彼女が向こう側の手先じゃなく、どちらかと言えば中立な立場が、より不利な要因となる。
あの子のために嘘をつく理由はなく、ましてや庇ったりして敵を増やすのも望まない。
逃げる女子生徒のシルバーブロンドが、濃いグレーに見えたのなら髪を染めて成りすましの可能性が一気に低くなる。
シャロンはいつも私を助けてくれるのに、私は何もしてあげられない。それがとても歯がゆかった。
身分は価値だと誰かが言っていたのに今の私は置き物、お飾り侯爵令嬢。
あの二人が何かを企んでも、あの子と一緒に暮らしている私なら気付き、阻止出来たかもしれない。
関わりを避けたくて目を背けてきた結果がこの始末。
──こんなんだから前世でも利用され殺されるのよ!
悔しい。私のせいで大切な人を危険に晒すなんて。
私の好きな物ばかり詰められたお弁当も喉が通らない。
どうにか……どうにかシャロンを助ける手立てはないの。
「私は大丈夫だからそんな心配しないで。皆さんもあまり私を庇うような発言は控えて下さい」
「それでは連中の思うツボです!!」
真っ直ぐ正義感溢れるカルからしてみればあの二人は異常。
私達の計画は話していないから、そもそも私を利用して王の座を手に入れようとしている、という答えには辿り着けない。
テオは力ある公爵家で、巻き込まれたときのことを考えて、全部ではないけど話した。
過去から戻ってきたなんて、アリアナ・ローズという人間を信用してくれてる人にしか打ち明けられない。
わかっている。テオは信頼のおける人物。
どんなに頭で理解していても、この秘密は誰彼構わず打ち明けられるものではない。
ここまで露骨にシャロンが狙われるのが、私に余計なことを吹き込んでいるのがシャロンだと疑っている。
いくら仲の良い友達と言っても婚約者を選んだ当日に家に伺うのはおかしい。
大事なこと故に手紙で伝えるには失礼。だからと言ってわざわざ当日に行く必要もない。
言い訳もせずに、ましてや謝ることもなく、家族以外に関心を示した私はシャロンに洗脳されている、というのが彼らの導き出した結論。
私の考え方が変わり、意志を持ったとは絶対に思わない。
彼らにとって私は動いて喋るだけの人形。
そうでなくてはならないから、変わるなんてことがないと信じたいのかもしれない。