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特別な日にはプレゼントを

「恐れながらセツナ様。私達はセツナ様のお誕生日を祝うために集まったのです。いくらセツナ様のお願いでも他の人は祝えません」


 てっきりディーに牽制でもするかと思いきや、まさかのセツナちゃんにだった。


 心做しかディーが安心している。


 ずっと隠していた私への恋文の存在を、他ならぬ私に暴露されてしまったのだから警戒もしたくなるわね。


 幼すぎるセツナちゃんをドロドロの汚い人間関係に巻き込みたくはない。


 一同の心の声を代弁してくれたシャロンを崇め讃えたい。


 仮に祝うことになっても誰もヘレンにプレゼントなんて用意していないし。


 騙しているわけじゃないのに悲しいのを我慢して笑うセツナちゃんに胸が痛くなる。


 ヘレンが祝ってもらえないこともそうだけど、誕生日にプレゼントを貰えないことがセツナちゃんの中では辛いこと。


 一年に一度。自分だけが主役になれる日。それが誕生日。


 度が過ぎるワガママだって、家庭によっては許される。


 まぁ、ヘレンは一年中毎日、自分が主役だと思い込んでいるから誕生日は特別な日でも何でもない。


 強いて言うならプレゼントを貰える日ってこと。


 身分が子爵令嬢でも侯爵家で暮らしているヘレンに、粗末な物はあげられない。


 心の底から嫌でも、きちんとした物を用意しなければ恥をかくのはあげた側。


 心がこもっていなくても、あげてしまえば終わり。


 解放感さえある。


 私が主催したパーティーなら彼女達は来る以外の選択肢はなく、前世の私は彼女達に非道なことをしていたのだと反省した。


 私だって参加したくないパーティーはある。


 王妃主催のパーティーなんて地獄。王妃の機嫌を損ねないように常に気を配り、陛下が王妃を愛していると言わなければならない。


 過去に、空気の読めない若い令嬢の何気ない一言に激怒した王妃は、まるで見せしめるかのようにその一族を他国に追放した。


 その国の財政はとうに破綻していて、生きていくには不向きだったと聞く。確か今はもうなくなって、近隣の国が国民を受け入れてくれたはず。


 目に見える形で恐怖を与えられた貴族は、自分だけでなく一族を守るために王妃の求める言葉を口にする。


 第三者に言われることで王妃はプライドを保つ。


 自分こそが陛下に最も愛されているのだと。


 この国に生まれた貴族は皆、思ってもいない薄っぺらい言葉を王妃のためにかけてあげなくてはならない。


 それでも王妃としての役割を果たしているから、めんどくさい。


 せめて何も出来ないお飾りの王妃なら楽だったのに。


「大丈夫ですよ。セツナ様」


 しょんぼりするセツナちゃんの肩に手を置いたシャロンの笑顔は輝いていた。


 あの顔は何かを企んでいる顔だ。


「ジーナ令嬢は愛しいエドガー殿下からプレゼントをいーーっぱい貰えますから」


 確かに。


 全て一流の物を用意するに違いない。


 身の程を弁えないヘレンは、身の丈に合わない一流品だけを好む。


 それで目が養われたら良かったけど、ヘレンにそれを期待するだけ無駄。


 物の価値をわかろうともしない。


 ヘレンにとって大事なのは、自分のために高価な物を贈る。それだけ。


 偽物を贈ったところで、今のローズ家には私しか本物を見抜ける目を持っていない。


 私が本物だと言えば、巧妙に作られた贋作でも本物になる。


「ボニート令嬢!!憶測で言うのはやめて下さい!!エドとは友達なんですから」

「へぇ。ジーナ令嬢は友達を愛称で呼ぶのね」

「それはエドがいいと言ってくれたから」


 その許可を出したのは貴女にだけなのよ。知ってた?


 当然、知ってるわよね。


 だって貴女が愛称で呼びたいと甘い声で強請ったんだから。


 そんなヘレンの願いを叶えるために、ヘレンだけに許可を出した。


 私が彼を「エド」と呼ぶことを心底嫌っていた。


 一度だけ「エド」と呼んでみると、嫌悪感と強い拒絶を隠すことのない表情で睨まれた。


 あのときはわからなかったけど「エド」呼びはヘレンだけのもの。私に呼ぶなと怒鳴り付けたいのを我慢した結果があの表情。


 すぐにハッとしたエドガーはすぐに謝って、そこで終わった。


 私はエドガーを愛称で呼ぶことは許されないのだと、少しだけ寂しい気持ちになったのを今でも覚えている。


「そうだったの。疑ってごめんなさいね」


 シャロンの突然の謝罪にヘレンは困惑していた。ずっと待ち望んていたことなのに素直に喜べないでいる。


「お二人は友達だから外野がとやかく言うのは間違っていたわ。本当にごめんなさい。ジーナ令嬢」

「い、いえ。わかってもらえたならいいんです」


 大袈裟すぎる上に芝居がかってる。


 セツナちゃんの特別な日にわざわざ険悪ムードにするわけにもいかないから、シャロンが折れてあげたのかしら。


 状況に応じて一歩引くのはヘレンでは無理だ。


 自らの過ちを認めない傲慢な性格なのだから。


 仲直りの握手ってわけではないだろうけど、ヘレンの両手を包み込んだシャロンは周りには聞こえないように何かを言っていた。


「ちなみにだけど。証拠があったらとやかく言ってもいいんだよね?例えば……そうね。二人の密会の証拠とか」

「なっ……!!」

「例えばよ。そんなに驚かないで。友達なんだもん。出掛けることはあるよね。二人きりでも」

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