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#6

時間になり、応接室に向かった。


ディルクとエドガーが並んで座り、その正面にお父様とお母様が座る。カストとハンネスはその後ろに立つ。ヘレンはエドガーに近い場所に座っている。


そうだった。私の婚約者を決めるだけなのにローズ家ではない無関係のヘレンまでいたんだ。


確認しておきたいのよね。愛されてるのは自分だけだと。私がエドガーを選んでも、エドガーの寵愛は自分だけのものだと。


いいのよそれで。私はこんな男にも家族にも愛されたいとは思わない。


そして……誰にも愛して欲しいとは願わない。


いきなり本題に入るわけにもいかず、他愛もない世間話で時間が過ぎる。


二回目となる会話はつまらない。内容も同じだし、やっぱりここは過去なのね。


誰の声にも耳を傾けず、ただ一人だけを見つめた。


銀色と金色。相反する色は、不覚にも綺麗だと思ってしまった。


髪の色は人間性に左右されるわけではないから、どんなに醜い人間でも美しい色を持って生まれる。


世間話が終わるとお父様は私に言葉を投げかけた。


「お前はどちらを選ぶのか」と。


こんなときでさえ名前を呼んでくれない。


いいんだけどね。わかりきってたことだし。


重たい空気の中、全員の視線が私に突き刺さる。ただ、ディルクだけは柔らかに私を見ていて、重大な決断を強制しない。


「ディルク殿下。私の婚約者となって下さい」

「喜んで」


陛下は息子が誰と結婚しようが興味がない。だからこそ本人が選んだ女性との婚約をそのまま推し進める。


世間的に私はエドガーを選ぶと思われている。


その理由は私達がよく会う友達だから。


エドガーは何度も家に来ては一緒にお茶をする仲。同い年だし話も合う。何より王子の肩書きを持っていたから邪険にする理由がなかった。


他人をステータスでしか判断出来なくなったのはこの家のせい。そして自分自身のせい。


過去をやり直し未来が変わるのなら、私も変わらなければならない。


価値の見極め方を。真に誰と向き合い付き合っていくかを。


「殿下を前に冗談がすぎるぞ」


エドガーを選ばなかっただけで焦ってる。


婚約者にならなければ私がエドガーを暗殺する理由がなくなる。証拠はでっち上げられない。


「侯爵はアリアナ嬢が私を冗談で選んだと本気で言っているのですか?聡明な令嬢が王族を侮辱するとお思いで?」

「滅相もございません!ですが娘とディルク殿下は面識がございませんので」

「そのことなら何も心配いりません。アリアナ様の好きなものは把握しておりますので」

「兄上がそうでもアリアナは違います!」

「だから?自分のほうが相応しいと、そう言いたいのか?」


少し低くなった声。そんな目も出来るんだ。


意外と男らしいのね。


ディルクのギャップに驚いているのは私だけじゃない。


「ご心配には及びません。ディルク殿下のことはこれから知っていけばいいのですから」


利益だけを追求してきた私にフラれるなんて思っていなかったエドガーは怒りを見せないように上辺だけの張り付いた笑顔を崩さない。


未来の国王陛下にはディルクがなるべきだ。そのためにローズ家の後ろ盾は必要だし、私も協力を惜しまない。


お父様達は全力で邪魔をしてくるだろうから対策を練らないと。


「アリアナ嬢。僕のことはディーとお呼び下さい」

「では私のことはアリーと」


普通の恋人みたいなやり取り。なんだか照れるわ。エドガーのときには愛称で呼ぶなんてなかったから。


ポーカーフェイスが上手いディルクは照れると視線を斜め下に落とすのが癖らしい。


大切な用事を終えた二人は陛下に報告すると帰ってしまった。


さて…。ここからが面倒な時間。


怒り狂うお父様をどう鎮めてたらいいのか。


「なぜエドガー殿下を選ばない!?所詮は側室の子だ!未来などない!!」

「これは貴女のためを言ってるのよ。側室なんて聞こえはいいけど要は愛人。貴女が笑われる人生なんて耐えられないわ」


よくまぁ思ってもないことをスラスラと言えたものだ。


私のため、ね。恩着せがましい言い方。


私の幸せなんて、これっぽちも考えてないくせに。


もしその言葉が本当なら、私を殺しはしなかった。極刑にも値する後ろめたい真実を打ち明けてくれていた。


結局のところ、自分達が得をしたいだけ。


しかも私のためと聞こえはいいけど、ディーを貶すことばかり言っている。


それが立派な侮辱罪であることに気付いてないのだから、ある意味すごい。


涙を流すお母様をヘレンが慰める。お兄様達は喋らないものの不機嫌さを表す。


ディルクはのらりくらりして威厳はない。目覚しい功績もあまりない。アカデミーでも目立つ存在ではなくいつも本を読んでいる。


人付き合いは良好で悪目立ちをする存在でもない。


人を惹きつけるカリスマ性はエドガーのほうが勝っているかも。


これらは私の目で見た真実ではなく、多少違う点があるかもしれない。


知っていこう。私が選んだ、彼のことを。


「私はエドガー殿下よりディルク殿下が未来の王に相応しいと思ったからこそ選んだまでです。それともエドガー殿下を選ばなかったことで不都合でもおありですか?」


ここで感情に任せてボロを出す性格はしていない。


奥歯を噛み締め顔を歪ませた。


最高に気分が良い。裏切るのは。


お父様は私を追い出した。今後どうするか家族会議でもするのかな。


未来への分岐点を変えてしまったことで、これから起こる未来も変わる。


油断はしない。愚かに殺されるのはあの一回で充分。

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