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暗部を従えているのは【シャロン】

 王宮に着くと、事前に通達があったのか馬車は止まることなく門を超えた。


 側近ではなく陛下自らが出迎えてくれる。数人の騎士に、馬車が見つからないようこの辺りの警備にあたってもらう。


 王妃は陛下のことなら何でも知っておきたい面倒タイプ。客人が訪れようものなら呼んでもいないのに勝手に来ては居座る。


 だからこそ、私達が王宮に呼ばれたことは極秘扱いで、誰にも悟られてはいけない。


 肝心の王妃はお茶会を楽しんでいるのだとか。


 こっちとしては面倒に巻き込まれないだけで良い。


 しれっとついてこようとした御者に、ここで待つよう命令した。


 どうせ一時間もかからずに要件は済む。人数が多いとそれだけ移動が目立つ。


 口には出さないけど不服そうな顔。


 まるで私を守れるのは自分だけだと言いたそうね。


 私が守ってもらわなければいけないほど、弱くないことは知ってるくせに、そんな態度を取られると心底腹が立つ。


「騎士の方々のご迷惑にならないよう、ちゃんと、ここで、大人しく待ってなさい」

「………………かしこまりました、お嬢様」


 ──まだ嫌そう。


 これ以上は相手をしていられない。


 最後にもう一度だけ、ついてくるなと命令すれば大人しく引き下がる。


 これでも従わないようなら、色々と手は考えたけど実行せずに済んだのは良かった。


 こんな男のために私の時間を削るなんて絶対に嫌。


 人目を気にしながら、声が漏れない防音魔法がかけられた部屋に通された。


 陛下ともあろうお方が細心の注意を払うってことは暗部絡みの案件。


「伯爵。先日、王宮で事件が起きたことは耳にしているな」


 公にはされていない、恐らくは第一王子襲撃の件。


「私の息子を襲った犯人を見つけてはくれないか」


 やっぱり。


 事件そのものが隠されているのに派手に動けない。そこで隠密機動を得意とする暗部の出番。


 陛下は自分と同じ金色の髪を継いだ第二王子にばかり構うような人だけど、ちゃんと第一王子のことも心配しているんだ。それが少し意外だった。


「他ならぬ陛下の頼み。なぜ断れましょう」

「それでは……」

「お引き受けしたいのは山々ですが、暗部を動かす権限を私は持ち合わせておりません。どうかご容赦ください」

「待て。では誰が」

「そもそも暗部とは、“シャロンがリーダーを助けた”からこそ我々に従っているにすぎません。そして彼らに命令を下せるのは娘のシャロンです」


 これこそが私も同行の理由。


 伯爵としての父さんに用があるだけなら私が早退することもなかった。


 私は暗部を率いてるつもりはないけど結果としてそうなっているだけ。


 普段から父さんや母さんにも従ってはいるけど、重大な案件に関しては必ず私を通す。


 アリーにもいつかは話さなくてはいけない。タイミングが合えばと思いながらも、今じゃない、今じゃない、と逃げ続けている。


 暗部の存在を知りつつ受け入れてくれているアリーからしてみれば、どうってことない小さな秘密。

 口を噤んでしまうのは私が弱いから。


 私の命令一つでどんな人間の過去も暴いてしまう。アリーに邪な気持ちはなく私を利用するはずがないとわかっていても怖いんだ。


 貴族とは実に面倒で、単純で、自分に利益をもたらす相手にはとことん擦り寄り甘い蜜を吸う。


 打算的な関係でも私は構わないのだけれど、私の機嫌を伺うように下手に出られるのだけは嫌だ。


 私にとってアリアナ・ローズとは気高くて憧れの的。他の貴族みたいに汚れて欲しくない。


 美しいままでいて欲しいと願うのは私のワガママ。


「陛下が誤解しないように申し上げておきますが、ボニート家はどちらかの王子を支持しているわけではありません。アリアナ・ローズの味方です」

「それはつまり犯人は探さないと?」

「襲われたのが第二王子でしたら、ですけど」

「やってくれるのか!ボニート令嬢」


 希望を見出したかのように、笑顔が眩しい。


 自分達では動けないため、秘密裏に真相を暴く人間がいてくれると心強く感じる。


「その前に確認ですが、襲った犯人を見つけるのですか?それとも襲わせた犯人ですか」


 流れが変わった。


 黒幕には目を瞑り、実行犯のみを罰することで今回の件を終わらせようとしている。


 第一王子の意見なんて求めず陛下だけで決めた。事を荒立てないのが当人のためだと?


 見当違いも甚だしい。


 陛下のしていることは現実から目を背けているだけ。


 自分を見ているようでイライラする。


「私達はこれで失礼します。調査は三日程で完了しますので。報告書は父さ……父に渡しておきます」

「手間を取らせてすまなかった」

「いえ……」


 アリーの復讐を完成させるには陛下の協力は必須。最終判断を下すのは陛下。


 非道な道に進もうとも息子は息子。目の前で命が終わる瞬間を見たくないかもしれない。


 味方に引き込むにしても私の持つ証拠だけでは動かせない。


 陛下は国のトップに立つに相応しいのに、臆病だ。一番大事なことを決められない。その曖昧な態度が彼らをここまで付け上がらせた。


 玉座に座る者は決断し、全てを受け入れなければならない。


 どんな現実が襲ってきたとしても。


「これは単なる独り言ですが、アリーなら陛下の求める答えを示してくれるかもしれません。……お話は以上ですか?彼らにすぐに指示を出さなくてはいけませんので、これで失礼致します」

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