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純粋な下心?

 完全に言い負けたヘレンの立場はない。


 これでしばらくは大人しくしてくれるといいんだけど。


 悔しそうに睨んでくる目は私にどうにかしろと訴えかけてくる。


 自分で蒔いた種は自分で刈り取らなくてはならない。


「責任」の言葉の意味を知っているのだから、責任を持って自分でどうにかするべきだ。


 ヘレンを助けても私には何の利もない。


 シャロンの背中に手を添えて、教室に向かい始める。


 諦めの悪いエドガーもクラウス様がいると近づいてこない。


 あの二人は仲が悪く王宮でもあまり顔を合わせないと聞く。エドガーにも苦手な人がいるんだ。それともクラウス様が私生児だから?


 王族の立派な血筋でありながら中身は残念。他人をとやかく言える資格はない。


 惨めに残されるヘレンを慰めるために、エドガーの足は止まったまま。


 前までならあの光景を羨ましく思っていた。


 私もヘレンのようにか弱い女の子なら、エドガーに心配してもらえると。


 今となってはそんな望み、必要ないとわかる。


 だってディーは、こんな私をいつでも心配してくれている。朝の騒動だって知らせを受けてすぐに駆け付けてくれた。


 上辺だけしか見ずに綺麗な言葉だけを並べるエドガーより、心から私を想ってくれるディーと比べると、優しさに明確な違いがある。


 それはそうと。なぜか小公爵がやたらと話しかけてくる。


 私達に面識はない。アルファン公爵が家に訪ねて来たことは一〜二回あったけど、小公爵はいなかった。


 ローズ家の勢力拡大のために結婚の話でもあったのだろうか。


 ないわね。


 仮にあったとしたら私が小公爵と顔合わせしていないことがおかしい。


 シャロンは事情を知ってるっぽい。


 記憶力には自信はあるけど、ディーのときのように被り物をした状態で会っていたのかも。


 いくら記憶を探ってみても鎧さ鎧の騎士様(ディー)以外に特殊な出会いをした人はいない。


 私と繋がりがなくても公爵家は充分すぎるほど栄えている。


 ディーもわかりやすく嫉妬していた。私達の間に割って入るも小公爵はお構いなしに話しかけてくる。


 華麗なスルースキルにディーが透明人間のように存在感が消えていく。


 入学前に未成年の貴族は集められた。ディーのお披露目パーティーに参加したはず。


 公爵家となれば絶対参加。ディーの顔を知らないはずもなく痺れを切らせたカルが問い詰めた。


 不敬罪とまではいかなくても常識は問われる。


「大変失礼致しました。殿下を無視したわけではなく、どうしてもアリアナ様と仲良くなりたくて」


 ディーの笑顔が崩壊した。


 敵意剥き出しで私を引き離す。


 男らしい行動を賞賛していると視界の端に笑いを堪えるシャロンを捉えた。


 こんな人の多い場所で秘密をバラせないから沈黙を選ばざるを得ないんだろうけど、それならそれで仲裁をしてくれてもよくないかな。


 廊下のど真ん中で私を取り合う第一王子と小公爵。


 クラウス様も面倒事に巻き込まれる前に一人でSクラスに行ってしまった。


 シャロンは一歩引いて高みの見物。


「アリアナ様が殿下の婚約者とわかった上での発言ですか」


 鋭い目付きと共に声はいつもより低い。


 言葉選びの失敗をしたことに気付きすぐさま弁解した。


「そうではなくて……!!下心がないと言えば嘘になります。ですが私は純粋にアリアナ様と友人になりたいのです」


 小公爵の言う下心とは多分、恋愛要素ではない。ましてや権力が欲しいというわけでもない。


 私が持っているもので小公爵が気に入るものなんてあったかしら。


 宝石やドレスの類いは興味ないだろうし、残るはディーから貰った本。定番のものから珍しいものまで、読むのが楽しみになるぐらい沢山の本が贈られた。


 本棚には置ききれなくて、余ってる部屋を私専用の書庫として使っている。


 ウォン卿とラード卿が来てくれるようになってから不安の種が一つだけ取り除かれた。前までは荒らすまではいかなくても勝手に部屋に入ろうとする使用人が何人もいた。


 全員の行動に目を配れるほど、私は暇ではない。


 書庫は私の部屋の近くだから、廊下で待機してくれているウォン卿はそちらにも気を配ってくれている。


 それでも恐れを知らず隙を見ては忍び込もうとする輩がいるため二重の鍵をかけた。本の趣味をエドガーに報告する魂胆が見え見えなのよ。


 作られた運命に振り回されたくはない。


 私の思い出をこれ以上、汚されたくない。


 小公爵は発言を撤回するつもりはなく、本当に面倒事になりつつある。


 目的をハッキリさせるためにも誘いは乗っておく。二大公爵と繋がりがあるのとないのでは大きな差が生まれる。


 私も充分、下心を持って接している。


「純粋にね。へぇー、アリーと?」


 怒りを含んだ笑顔。


 ディーのライバル認定された小公爵は私から距離を取らされる。


 カルの瞳も心做しか影が落ちている。小公爵を敵とみなすまであと少し。


 一通り見物を終えたシャロンはいつの間にかいなくなっていた。


 ──行くなら声かけてよ。私も逃がして欲しかった。


 ディーと小公爵の戦いはまだ続きそうで、今日のところは遅刻しないように急ぐことを提案するとすんなり受け入れてくれた。


 拗ねたディーには一発で機嫌が治る必殺アイテムをあげよう。

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