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憎むべき兄

 二人が来るまで小一時間。早く支度をしないと。


 部屋に戻る途中、憎むべき存在が現れた。


 カスト・ローズ。ローズ家の長兄にして私を捕まえ聴取した男。


 忘れはしない。この男が……この男のせいで私の死刑が確定した。


 喉が潰れ声が枯れるほど私はこの男に無実だと叫んだ。


 罪人にも食事は与えられる。カビの生えたカチカチのパンと泥水のように濁った水が二日に一度用意される。


 いずれ無実が証明されると信じて、とても人が食べるようなものでないパンにかぶりついた。


 お腹が満たされることも、喉が潤されることもなかったけど、生きて無実を証明するためには生きるしかなかった。


 途中から力なく泣いては、信じて欲しいと懇願した。そんな私を冷たく見下ろしながらその口から出た言葉は「知っている」だった。


 目の前が真っ暗になった。


 なぜ私の無実を知っていながら牢屋に閉じ込める?


 なぜ私が死ぬように話を進める?


 極めつけが、証拠はでっち上げたと。


 暗殺に使われた毒の小瓶と計画書を私の部屋に隠したと、変わらぬ口調で告げた。


 言葉は通じてるはずなのに話は通じず、私の言葉は全て自分達の都合の良いように書き換えられた。


 死刑執行の前日。私は罪を認めたことになっていた。


 聞かずにはいられなかった。なぜそんなことをしたのか。


 理由はとても幼稚で、でも私には理解出来なかった。




 ヘレンを正式にローズ家の養女に迎えたから。

 



 何を言っていたのか。養女にしたからと言って私が殺される理由はない。


 この男は冥土の土産に全ての計画を話した。


 全ての始まりはヘレンがエドガーと結婚したいと言ったのが始まり。


 可愛い娘のため、可愛い妹のため、“家族”は一丸となりその夢を叶えるため計画を企てた。


 エドガーの協力なしに行えるものではなく、エドガーとローズ家。双方が私を殺した。


 「全て事実なのよね」


 私の呟きでさえ聞こえてすらいない。私の声など、聞くに値しないということ。


 婚約者と親友の恋仲を疑った私は、あろうことか婚約者に殺意を抱いた。

 どんな理由があれ、王族への暗殺未遂の先に待つものは死刑のみ。


 愚かな我が子を失った侯爵には、親友の娘を養女として迎え新たな侯爵令嬢が誕生した。


 「ヘレンが私の代わり……」


 私が持っていた物、欲しかった物でさえ簡単に手に入れた親友。


 婚約者に裏切られ殺されそうになった王子様は、献身的に慰めてくれていた婚約者の親友に心を奪われる。


 ──まるで物語のようね。


 何食わぬ顔で私に優しくしてくれていたエドガーとヘレンは、本当は裏で私を裏切ったのだ。


 その顔を見ていると怒りが込み上げてくる。目の奥が熱いのがわかる。


 殺したい。殺したい。殺したい。


 私を殺すように誘導したこの男を……!!


 震える手に、我に返った。冷静になれた。


 私は何も知らない。気付いてすらいない。


 今まで通りの私を演じなければ。


「兄貴。そろそろ準備しないと」

「すぐ行く」


 ハンネス・ローズ。ローズ家の次男。


 ニコラを惨殺させた男。


 無防備に背を向け歩き出す。割った窓ガラスの破片で確実に喉元を掻っ切れば絶命させられる。


 実行に移すのは簡単だけど、この二人だけを殺して牢屋に入れられたら意味がない。


 他の三人をのうのうと生かしておきたくもなかった。


 今は我慢だ。確実に破滅させなければ。


 この家もエドガーも。私が受けた苦しみを返してあげるわ。

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