#3
継承争いはほとんどエドガーの勝利が近かった。というのも、エドガーは王妃の息子だから。
それでも第二王子なのは陛下が一時、側室に夢中になり全然相手にされなかった。
陛下の寵愛を最も受けた側室が死ねば疑われるのは王妃。惨めになりながらも再び自らが愛されることを信じ待ち続けたとか。
ローズ家の後ろ盾を得ることが王となる最前の道。他の家門を寄せ付けない圧倒的力。
王家とローズ家が手を組めば他の貴族も自然と後ろをついてくる。
お父様にとって結婚は利益があるかないか。
第一王子だろうが側室の子供では利用価値があまりないと考える。側室のために王妃を失脚させるほど陛下もバカではない。
だからエドガーだった。王として足りない部分は私が補えばいい。
「アリー。おはよう」
「ヘレン。おはよう」
子爵令嬢であるヘレンは幼い頃に両親を事故で亡くし、親友とされていたお父様が引き取った。
妹のようで親友だったヘレン。その無邪気に笑う顔がとても……気持ちが悪い。
その笑顔の下は私を見下している。
私の腕にしがみついたヘレンは愛らしくて、愛らしくて……。
「お父様に呼ばれているから行くわ」
触られた箇所に鳥肌が立つ。
不快だ。気持ち悪い。
ねぇヘレン。貴女は何を考えているの?何を思っているの?
触らないでとその手を振り払いたいけど、今はまだ我慢しないと。
お父様を理由に、さりげなく手を退けた。
これ見よがしに付けられていたネックレス。あれは私が殺されたときにも付けていた。エドガーからの贈り物なのね。
このときには既に仲良しだったのか。
私に愛を囁きながらも、本命はこんなすぐ隣にいたなんて。偽物の愛情に目を奪われすぎていた。
堂々と愛せない罪悪感からなのか、私の目につくようなプレゼントをあげるなんて。
「失礼しますお父様。遅くなってしまい申し訳ございません」
「無駄話はいい。お前が今日することはわかっているな?」
無駄…。
そう。お父様にとって私の存在は無駄。顔を合わせたくないのか、適当な書類を見るフリをして顔を上げることもしない。
薄々勘づいてはいたけど認めるのが怖かった。
ローズ家の娘は私ではなくヘレン。血の繋がりとかではなく、家族という意味でだ。
私がどれだけ努力をし結果を出そうともお父様が私の名前を呼んでくれたことなど一度もなかった。
ヘレンには名前を呼んで好きな物を与えた。努力なんて強要しなかった。
「聞いているのか」
「はい。もちろんです。未来の国王陛下を婚約者に選びます」
「それでいい。それだけがお前の価値なのだから」
昔はそんな言葉で喜んだ。お父様の役に立っていると思ったから。
必要とされていて、私にしか出来ないことなのだと。
けど違うと知った。家族の中で唯一私だけが、どうなってもいい捨て駒。