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憧れのアリアナ様

「アリアナ様。よければご一緒してもよろしいですか?」


 アカデミーに通う彼女達とはすれ違う程度で話したことはない。


 断る理由もないから誘いを受けた。


 人数が増えてテーブルを囲めなくなり、会場に配置された騎士の方々にテーブルを運んでもらう。


 やっぱりみんなディーとの婚約が気になるのね。


 逆の立場でも私も気にしてパーティーに招待していたかも。


 人目の多い場所では誰が聞き耳を立ててるかもわからない。その点、自分の家なら使用人を下がらせておけば外部に会話の内容が漏れることは一切ない。


 聞かれてもいないことを答えるのも気が引ける。もしかしたら彼女達も別の話がしたいかもしれないし。


 ディーとカルは女の子だけのほうが盛り上がるだろうと外してくれる。


 王族専用の席につくと数人の当主に取り囲まれていた。


 いつまでも中立派でいるのは難しい。貴族社会で生き残るならどちらかの王子につく必要がある。


 これを機に見極めるのね。ディーがこの国を背負って立つに相応しいかどうか。


 彼らは別にエドガーが嫌いなわけではない。人の上に立つべきかどうかだけで判断した場合、エドガーは器ではないだけ。逆に言えば、エドガーが成長し王の器になったとき、彼らは臣下として忠誠を誓う。


 ディーの振る舞いや言動は、今後の支持率を左右する。頑張ってディー。私も私に出来ることを精一杯やるから。


「あ、あの。アリアナ様はどうしてディルク殿下をお選びに?」

「深い意味はないんですよ。エドガー殿下と仲が良いイメージでしたので」


 彼女達は互いに目配せしながら、誰が聞くのか探りあっている。


 それでも誰かが口を開けば、その話題に触れていいのだと、暗黙の空気が流れた。


 正直にエドガーなんかを王にしたくないと言うのはダメよね。


 選んだ理由は用意しておくべきだった。


 私が考える間、彼女達から眩しい視線が向けられている。


 シャロンは面白そうに小さく笑ってる。


 これは下手なことを言えない雰囲気。ありきたりなこともガッカリされてしまう。


 彼女達が私にどんな期待をしてるかまではわからないけど、王族との結婚は女性の夢であり憧れ。


 ディーと一緒にいて、嬉しかったことを思い出してみた。


「理由は色々とあるけど強いて言うなら、ディーに名前を呼ばれるのが好きなの」


 言って、恥ずかしくなった。


 優しい声で名前を呼ばれると胸が温かくなるのは事実。


 これではまるで本当に好きだと言ってるようなもの。


 そんなはずはない。


 私が誰かを好きになることは、一生ないんだ。


 人を好きになったところで辛く苦しい目に遭うだけ。


 愛することは……愚かだ。


「怖い顔しすぎよ。みんな憧れのアリーと話しがしたいだけなんだから」

「憧れ?誰に?」

「だからアリーによ」


 シャロン曰く、私は女子生徒の間で()()()人気らしく、ファンクラブというものが存在しているとか。私なんかに厚意を抱く同性がいるとは。


 情報通のシャロンの言葉。嘘ではない。


 もしかして、私を見ながらコソコソと話していたのは悪口とかではなくて、そういうことだったのかしら?


 たまに目が合うと足早に逃げる女子生徒が何人かいたけど、あれは怯えたわけじゃなかったと自惚れたい。


 ダメよ。自惚れは視野を狭めるだけじゃなく、正確な状況判断が出来なくなる。


 物事を都合の良いようにしか見れなくなったら終わり。


 参考までに私のとこがいいのか聞いてみた。


 そんなことを聞かれるとは思っていなかった彼女達は不自然に目を合わせて小さく咳払いをした。



 容姿端麗。成績優秀。侯爵令嬢としての振る舞い。誰にでも平等な接し方。



 アリアナ・ローズという存在が尊く完璧だと力説された。


 前半はともかく最後のはどうなのだろう。


 自分で思う私と第三者から見る私は異なる。


 平等ではないと否定したかったけど、彼女達の目に私がそう映っているのならそれでもいいと思った。


 今の私はやり直すためにいる。


 それなら利益ではなく友情のために仲良くしたら、もっと未来は変わる。


 私やディーを取り巻く人間関係だって。


 この考えが既に打算で利用しようとしているのは充分承知している。


 本音は……私が仲良くなりたいんだ。


 自分のために、自分の人生を生きたい。


 前世のように家柄や能力で判断するのではなく、その人と向き合い少しずつ知っていく。


 悔しいけどヘレンはそれが出来ている。今はまだ孤立しているけど来年には周りに人が集まるようになった。


 無邪気で明るくて、貴族という枠に囚われないヘレンの言葉はいつしか、影響力を持つようになった。


 貴族ではなく人間として、王妃としてエドガーの隣に立つために準備をしてたのね。


 それなのに私はヘレンの成長を喜んでいたな。


 劇的、とまでは言えないけど努力は認められていた。


 お父様に作られた“私”がいなくなるのも一種の復讐。


 彼らは夢にも思っていない。


 ローズ家の犯した大罪も隠し通さなければならない秘密も、証拠と共に私が知っていることを。


 膿を綺麗に取り除いて、美しく平和な国に戻す。


 史上最悪の悪女と呼ばれたこの私が、一人残らず地獄の底に引きずり込んであげる。


 貴方達が蔑み嘲笑った“ハズレ令嬢”に負ける様を特等席で見せてね。

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