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返却されたプレゼント【ディルク】

「と、いうことで返品された品々は処分しますか?」

「え?ちょ…待って……え?」


 帰ってきたカルはすぐさま報告してくれた。


 第一騎士団の副団長と団員を送ったことに戸惑いは見られたものの、あの二人はすぐ順応して護衛に付いてくれた。


 何の相談もなく送ったことはやりすぎだったかもと反省して、お詫びの品をカルに持って行ってもらって。


 本当は僕が直接行けたら良かったんだけど、時間が取れなかったんだよね。


 王宮騎士団をアリーの屋敷に配属する許可を陛下に取らなくてはいけなかったし、お詫びの品は僕の目で見て選びたかったから許可を得てすぐ買いに出掛けた。


 一応は僕も王子なわけで、自由に使えるお金は用意してくれている。


 今までは使う機会がなかったら貯めていたけど、今回の買い物でほとんどなくなった。


 でも、いいんだ。だってアリーのために使うお金は無駄じゃないから。


 その後はロベリア公爵の屋敷にお邪魔した。


 アリーの専属侍女の名前を聞いたときから、ずっと引っかかってたんだ。


 勘違いかもしれないから、違っていたら余計な詮索をしたことを謝ればいい。


 貴族社会に疎い僕は、公爵が何よりも家族を大切にしていることを知らなくて、ローズ家で理不尽な目に合っているかもとバカ正直に口にしてしまった。


 公爵が激しく動揺する隣で夫人は、理不尽なこととはどういうことか具体的な詳細を求められ、理不尽なことを行った(おこなった)者の名前を聞かれた。


 間違いなく侍女のニコラは、ロベリア公爵の娘。


 カマをかけて騙したみたいで胃の辺りがキリキリした。


 子を心配する親に対して嘘をつくのは良くない。


 詳しいことは僕にもわからず、現状はアリー一人で守っている。でも、アカデミーにいる間、屋敷に残していくのが心配だから王宮騎士団員を護衛に付けること。


 それらを偽りなく話せば、会ったこともない婚約者の侍女のために、なぜそこまでするのか疑問をぶつけられた。


 その質問の答えは一つ。決まっている。


 アリーの大切にしたい人は僕も大切にしたい。

 それだけ。


 単純でわかりやすい男なんだ。僕は。


 ニコラ…………ニコラ嬢への態度を変えさせる方法はある。身分を明かせばいい。


 公爵と夫人は二人して難色を示した。


 公女であることが広まってしまえば、アカデミーへの入学は余儀なくされる。


 娘の夢を潰すぐらいなら、今のままのほうがいいとアッサリ僕の提案を断った。


 アカデミーに通うのは貴族の義務ではあるけど、絶対に三年間、通う必要はない。


 確認をしてみないことには断言出来ないけど、ニコラ嬢は特例ケースに該当する。


 貴族令嬢として充分な教育を受け、既に侍女として働いてる。それも侯爵令嬢、未来の王妃の下で。


 実際、過去に特例でアカデミーに通っていない貴族はいた。記録にも残っている。


 特例になるには王族のサイン入り許可証がいるけど、それは僕が用意するし、僕のサインで問題はない。


 ニコラ嬢の身分を明かす交渉はこれしかない。


 大前提として、明かしたくないと言われたら、それまで。


 公爵は身を乗り出して僕の手を強く握っては「よろしくお願いします」と言った。


 素性を明かす絶好の舞台が近々用意されると伝えれば、僕の思いを察してくれた夫人は最高のドレスを新調しなければと、それはそれはもう、素敵な笑顔だった。


 外での用事が終わると、教師に出された大量の課題を終わらせなくてはならない。


 肩書きだけは立派なもので、無様な成績を取るわけにはいかず勉強は特に頑張った。


 努力して結果が出なければ笑い者にされるから、結果が出るように努力してきたんだ。


 その甲斐もあって学年一位の座は未だ奪われていない。


「ねぇカル。僕は全部受け取るよう伝えてと頼んだよね?」

「食い気味にいらないと言われたので」


 何が気に入らなかったんだ。アリーは読書家でもあるから栞と本棚も買った。もちろん空の本棚を埋める本も。


 装飾品は派手すぎず無難に付けられる物を。ドレスは華やかで人気の物と僕個人がアリーに似合うと思った青いドレス。


 どうしても青色を選択してしまう自分がいる。


 他の色でも充分すぎるほど似合うけど、僕にとってアリーは青色のイメージが強い。


 何が嫌だったのかさえわかっていれば次回からそれを外せばいいんだ。


 僕はまだアリーの好みを完璧に把握してるわけじゃない。形や色、もしかしたら買った店がダメだったのかもしれないな。


 アリーは裕福な家庭で育ってきたから、専用の店があるのかも。


 独りよがりのプレゼントなんて嫌がられて当然だ。


 返品されたプレゼントを見に行くと箱が開けられた形跡さえない。


「カル!!誰の指示で荷台に詰んだ」

「殿下?」

「これは僕が贈った物じゃない」


 アリーに頼まれたときは深く考えずに「いいよ」と言ったが、まさかこうなることを見越して?


 中身は指輪やペンダントにブローチ。


 どれも高価すぎる。これらは全てエドガーが持っている物と対だ。


 もしアリーが知らずに身に付けたら二人の関係が広まっていた。エドガーがそれに気付かないわけがない。


 わざとこんなことを?


 そんなにアリーのことを好きだったなんて知らなかったな。


 目立たぬように息を潜めて生きてきた僕が突然、お金を使うとなると調べられるのは覚悟の上だったが、こんな姑息な真似をするとは。


「これをエドガーに返してきてくれるかな」

「エドガー殿下なんですか!?これの贈り主。なぜわかるんですか」

「ん?うん。ちょっとね」


 僕から贈り物をする際に赤いリボンで包んでくれと言われていた。アリーはあまり赤色を好んでいないから普段はそれ以外の色で包装している。


 赤は血の色だから意識してしまうらしい。詳しくは語らなかったけど過去にあった出来事のせい。


 表には出さないけど今でも赤色を見ると動揺するらしく、専属侍女だけがアリーに気を配って赤色が目に入らないようにしていた。


 エドガーもリボンの色までには気が回らず気付いて赤を用いることはないだろうけど、万が一のためにリボンにはもう一つの細工をしてある。


 交流を築くために一ヵ月ほど前から滞在している隣国の王太子に魔法をかけてもらった。


 光にかざすと赤色が白色に変わる。


 プレゼントの一つに手紙を入れてるから、アリーも僕からの贈り物かどうか確かめるだろう。


 クラウスは私生児で王宮ではひどい扱いを受けていたが、魔法の才能が特化していたため今の地位まで上り詰めた。


 似たような境遇からクラウスは僕を支持してくれる。逆にエドガーに対しては敵意をあらわにしていた。


 必ずしも相性が合うわけでもなく、出会う人間全員に好かれる人もいない。


 エドガーの社交性は僕も見習う点があるのも事実。


 魔法を使える隣国とは仲良くしておきたい陛下はエドガーとクラウスがなるべく会わないように配慮している。


「待ってカル。やっぱり僕が持って行く。カルはもう休んでくれ。今日は色々と無理を言って悪かったね」

「いいえ。貴方様のお言葉に従うのが私の役目ですから」


 左胸に手を当てスっと片膝を付いた。


 カルのように僕に敬意を表してくれる人はいない。


 求めてもいなければ期待もしてない。僕は、僕が信頼出来る人が傍にいてくれたらそれでいい。


 高望みはしない。


 エドガーとは一度ちゃんと話し合う必要がある。アリーを好きな気持ちがあるなら、なぜ困らせることをしたのか。


 優しいアリーなら許すかもしれないが婚約者としては見過ごせない。


 エドガーが暮らすフロアには多くの使用人がいて、僕が暮らしている部屋とは大違いで汚れ一つ落ちてない。


 これが僕とエドガーの差。


 僕は全く気にしてないけど。エドガーは王妃の息子なんだから特別扱いされて当たり前。


 正面から歩いてくるメイド数人を避けるように端に寄る。


 エドガーが使っている部屋の扉には王族の紋章が彫られている。


 興味なかったから見たいとは思わなかったけど、こんな感じなんだ。


 王冠の後ろに鷲がいて、鷲の羽が王冠を包むように描かれている。


 ノックをしたあとに声をかけると気持ち悪いぐらい上機嫌なエドガーが出てきた。


 いつもは僕と顔を会わせるだけでもあまりいい顔はしないのに、部屋に尋ねてきた僕を笑顔で出迎えるなんて怪しすぎる。


 僕からのプレゼントに紛れ込ませた高価なアクセサリーを身に付けるアリーでも想像してるのかな。


「どうしたんですか兄上。俺の部屋に来るなんて珍しいですね」

「これはどういうことだ」


 返されたプレゼントを突き出すとエドガーの顔が引きつった。予想外の出来事に、自分がやったと表情で白状していた。


「アリーに贈った中に紛れていた」

「でしたら兄上の物では?」

「エドガー!!もしもアリーを想うなら軽率な行動は取るな」


 第一王子に生まれながらも母上にしか祝福されなかった僕は、いつも誰かの顔色を伺う生活ばかりしていた。


 血の繋がった父親と腹違いの弟も例外ではない。


 信じられるのは母上とカルだけ。人間不信にも近かった僕の心を溶かしてくれたのは他でもないアリー。


 そんな僕に反発されると思っていなかったエドガーは拳を握りしめたまま睨み付けてくる。


 まさかバレるなんて夢にも思わなかっただろう。


 買った物は荷馬車に積んで、そのままカルにお願いしてアリーに渡しに行ってもらったから数個、僕が買った物以外が紛れていても絶対にわかるはずがなかった。


 アリーの提案(おねがい)がなければ、僕もクラウスに頼んでリボンに魔法をかけてもらわなかっただろうから、本当に何も気付けないまま最悪の状況を作る所だった。


 僕がエドガーと対になるプレゼントを贈ったとなれば、遠回しに婚約を破棄したいと言っているようなもの。


 下手をすれば二人の恋を応援してるように捉えられてとおかしくない。


「許すのは今回だけだ。肝に銘じろ」

「はい」


 扉が閉まっていくなかで“誰か”のために用意されたピアスが見えた。少なくともアリーにじゃない。女性用みたいだしプレゼントでまず間違いないだろう。


 交友関係の広いエドガーが特定の誰かに上げるのは珍しい。


 そういえば……ジーナ令嬢は耳に穴を開けていたな。


 元々、三人は友人だったんだっけ。


 今度アリーに聞いてみよう。ジーナ令嬢とどこで出会ったのか。

次回は王族主催のお茶会です


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