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消えない約束

 陛下主催のパーティーは軽食を食べながら各々が話す簡単なもの。


 ディーはずっと囲まれていたし、私は私でイヤリングのことを聞かれたので店のオーナーであることを明かした。


 口の軽い侯爵達に言った時点で、早いうちから広まる。だったら私から話したほうがいい。


 皆からは好感触で、販売するならすぐにでも買いたいからと予約をしたいと言ってくれた。


 このダイヤは数に限りがあり限定販売になると伝えたところ、自分達だけが先を越して予約するのはズルになるからと販売するまで待ってくれるそうだ。

 作るのにも時間はかかるし、来週から予約を開始するつもりではある。


 先着順になってしまうけど、値段がそこそこする高価な者だからそんなすぐに売り切れはしない。


 たった一時間だったとはいえ、これまでに会うことのなかった人と顔を会わせ言葉を交わせたのは良かった。


 まさに有意義な時間。


「アリアナ嬢。これから予定は?」


 ほとんどの貴族が先に帰り、私達だけが会場に残っているとアルファン公爵に声をかけられた。


「ありませんけど」

「それなら、このまま屋敷に招待しても構わないな」

「はい?」

「君には聞きたいことがある」


 テオを巻き込んでいる件だろうか?


 それはそうよね。大切な息子が何かしらの事件に首を突っ込んでいるのなら、父親として状況の把握に務めるのは至極当然のこと。


「もし来てもらえないのであれば、殿下を支持するのはやめるだけだ」


 今朝の記事が嘘であると暴露されることより、支持をしなくなるほうがダメージは大きい。

 無能の烙印を押されることになるのだから。

 どんな功績を挙げようとも国民の信頼は得られない。


 アルファン公爵は自分の影響力をよく理解しているからこそ、これが脅しでないこともわかってしまう。


「それなら僕も」

「アリアナ嬢だけで構いません」


 ──私だけ?


 引っかかるのはそこだけだった。


 この件にはディーも深く関わっているのに。


「公爵様。私も同席させて下さい」

「ボニート令嬢。親友が心配なのはわかるが、話をするだけだ。そこまで警戒する必要はない」


 だけって感じがしないのよね。


 アルファン公爵直々に招かれることはほとんどない。名誉なことではあるけど、心細さはありシャロンが一緒なら安心する。


「ふぅ。ボニート伯爵には私こら連絡しておこう」


 私の不安は表情や態度に出たわけではないのに、簡単に見抜かれてしまった。

 嫌がる素振りはなく馬車に乗るためエスコートをしてくれる。


「アリアナ!!どこへ行く!!」


 パーティーとお茶会は同時刻に終わる。


 私に会うためにわざわざ汗だくになって走ってくるなんて。


 よっほ悔しいようね。私だけがこの場にいることが。


 隣にいるシャロンにはもっと納得がいかないというような目をするも、すぐに好青年を演じる。


「また会えて嬉しいよ。ボニート令嬢」


 シャロンを利用して噂を掻き消すことをまだ諦めてないのね。

 こんな男のどこに聡明さがあるのか。


「小侯爵様。ヘレンはどうしたのですか?エスコートなさっていたでしょう?」


 貴方如きがシャロンを盾にするなんて許さない。


 家族でもない問題のある令嬢をエスコートするのは少なからず好意を寄せているから。

 多少の欠点には目を瞑るという表れでもある。


「アリアナ。少し黙れ」


 シャロンに気がある素振りを見せつつ、別の女性にもアプローチをする軟派な小侯爵への印象は最悪。

 もっと真面目な人間であったはずなのに。


 いいえ。元からこういう人間だったのよね。

 私が本性を見ようとしていなかっただけで。


「エスコートを買って出たのに置き去りにしてきたんですか?」

「黙れと言っているだろう!!」


 振り上げられた手はアルファン公爵に掴まれ、捻り上げられる。


 力の差は歴然。勝負するまでもない。


 なぜならアルファン公爵は。お母様と剣術大会でご確認渡り合える実力の持ち主。

 弱いわけがないのだ。


「妹に手を上げようとするとは、地に落ちたものだな。ローズ家の騎士道とやらは」


 軽く突き飛ばせば、よろけながらも無様に倒れることはない。


 最初から私を招待するつもりだったのか、馬車はもう一台用意されていた。


 情けない小侯爵を一瞥することもなく馬車に乗り込む。

 その場から動くことなく私を見送るのは、アルファン公爵の圧に負けてのこと。


 顔が良すぎるため睨むと迫力がすごい。


 馬車は一定のスピードを保ちながら進む。


「どうしたの。険しい顔をして」

「どうして公爵はディーの同席を断ったのかしら」

「確かに不可解ではあるけど。そうね。説明するのに二人もいらないか、とか?」

「やっぱりそうよね」


 むしろ、それしか考えられなかった。


 ではなぜ私は、こんなにも今すぐに馬車を降りたいなどと思うのか。


 妙な胸騒ぎがするのは気のせいであって欲しい。


 アルファン家が私の敵にならないことはテオが証明してくれた。

 私はそれを信じたいのではなく、信じている。


「大丈夫よアリー。何があっても私が傍にいるから」

「ぁ……」


 小さく声が漏れた。


 誰も……。きっとボニート夫妻でさえ見たことがないであろうシャロンの微笑み。


 窓から差し込む陽の光に照らされた髪は濃いグレーへと変わる。


 私だけが知る、その微笑みの意味。


 約束を……覚えていてくれた。


 とっくに忘れていてもおかしくない、幼き日の口約束を。


 泣きたくなった。どうしようもなく。


 前世の私は約束を忘れていた。いや……忘れていたわけではない。

 頭の片隅に置いたままにしていたのだ。


 尊く大切な約束よりも、愛されることを優先したから。


 なんて愚かだったのだろう。大切なものはいつだって、こんなにすぐ近くに在ったというのに。


「シャロン……」


 勇気が欲しい。この先、何者にも恐怖しないための。


 シャロンを抱きしめた。強く、優しく。


「あら。そんなに私が好きなの?」

「ええ、好きよ。大好き」

「私もよ、アリー」


 背中に回る手は私に「大丈夫」をくれた。

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