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お茶会当日は

 ここまで話してしまったのだ。

 他の隠し事……魅了香のことも話した。付けたら最後、意志とは関係なくあの子に服従すると。


 一般的には普通の香水と同じため、魅了香を見たことのない人では見抜けない。


 アルファン家の傘下の家門がやたらとあの子を贔屓にする理由が判明したテオは、呆れ返っていた。

 婚約者のいる身でありながら女性から香水を受け取っただけでなく、付けてしまったのだ。

 同情の余地はなく、アルファン家からの信頼を一瞬にして失った。


「バカのか」と本音が漏れたことに関しては聞こえないふりをする。


「なるほど。今年のお茶会が例年よりも早く開催される理由は、令嬢達に魅了香を使うため」

「今の時点では、ジーナ令嬢が王妃になっても大半の貴族は認めないでしょうね」


 理解が早くて助かる。


 忠誠心の高いアルファン家は毎年、陛下から招待状が届くも参加したことはなかった。

 本人が忙しいからとお詫びの手紙を出しているため、無理やりに出席させることは出来ない。

 今年は……どうするんだろう。


「アリアナ様は王妃から届いてないんですか?招待状」

「ええ。我が家ではあの子だけよ」


 一斉にポカンとした。


 アカデミーでの態度を思い出しているに違いない。

 お世辞にも王妃主催のパーティーに招待されるだけのマナーを身に付けているわけでもなく。

 醜態を晒す未来が目に浮かぶ。


 なりふり構っていられないのだと、同情されていた。


 ──あの子を招待したら自らの評価が下がるとは思わないのかしら?


 王妃はアカデミーに行くわけではない。あの男からの情報を頼りにしているのであれば、あの子は立派な淑女だと言われて信じているのかも。


 国母を務める自分の息子が虚偽の報告をするはずがないと。


 私には関係のないこと故、どうでもいい。


「安心して。私はその日、マリアンヌ様のお茶会に招待されているから」


 念の為に早めに招待状を出してもらって良かった。


 彼女達は王妃を蔑ろにしているわけではない。先に招待状を受け取ったから、出席する旨を伝えただけ。


 日付けではなく、王妃殿下が開くお茶会の日にと書いたのが功を奏した。

 予定が早まってしまったとはいえ、これなら全員が出席出来る。


 あの子に届かなかったのは初対面で平民呼ばわりした挙句、不遜な態度を謝らなかったから。トラブルメーカーを呼んで、お茶会をめちゃくちゃにされたくない気持ちはよくわかる。


「テオはどうするの。陛下のパーティー」

「さぁ?決めるのは父上だからね」

 

 陛下主催のパーティーには当主と、時期当主のみが参加。

 招待された家門の夫人もまた順にお茶会を開き、今年はアルファン家の番。

 変わらない顔ぶれとはいえ、楽しみにしている日でもあり、気合いを入れて準備をしていると聞く。


「ディーとカルはどうするの」

「二人で剣の稽古でもするさ」

「剣術は教わらないの?」

「今の師はセシオン団長だからね」


 第一騎士団長が……。なんて贅沢な。

 同じ騎士団の中でも特訓を受けられる騎士はほとんどいないのだ。


 当日は団長らと共に警備にあたるため、ディーは剣術は習えない。


 何もないと信じてはいるものの、警備体制は万全にしておきたいらしく、各団長と副団長は招集がかけられた。


 ラジットとルア卿も呼ばれているので、ウォン卿もあたるため三人が一日だけ留守にする。

 代わりの団員は第一騎士団から出してくれると言質を取っているらしい。

 第四騎士団では平民と決め付けて、容赦なく見下してくる人が多いため。


 第一騎士団と第四騎士団が陛下、第二騎士団と第三騎士団が王妃の会場を警備し、守る。


 そこまで広くないとはいえ、たった四人で事足りるのだから実力は本物。


「セシオン団長ってね、本当に強いんだ」


 団長クラスでも特に強さを誇るセシオン卿からは、まだたった一本しか取れてないと肩を落とす。

 その一本を取れることが、どれだけすごいことなのか自覚していない。


 復讐心(きもち)が昂っていたとはいえ、国王と王妃を討ったのだ。眠っている剣の才能があっても不思議ではない。


 才能が開花する瞬間は人それぞれ。ディーにとってのキッカケは私の死。


「えっと……。そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど」


 たまらず、そっぽを向いても顔が真っ赤になったことは隠せない。

 耳に触れれば熱くて、体温はかなり上昇していた。


「伝えたいことは伝えたし、もうお開きにしよっか」

「そ、そうだね!!」


 誰よりも早く反応したのはディー。


 帰りたいというより、私の視線から逃げたいのだろう。


 ──そんなに見つめたつもりはないんだけどな。


 王子様をからかう素敵な性格の持ち主はここにはいないため、解散の空気が流れる。


 見送りに来た執事の視線は相変わらずカルに向けられていた。


「じゃあね、シャロン。また明日」

「ええ。また明日」


 何気ない日常のやり取りに気持ちは安心する。


 やっぱり私にとってシャロンは特別。何者にも代えられない、大切な存在。


 大丈夫。私は選択を間違えていない。


 ディーが屋敷まで送ってくれるため、カルは一足先に王宮に戻る。


 背を向けた瞬間、テオの表情が険しくなったことを私達は誰も知らない。


「ねぇ、アリー。ハンネス・ローズの首は誰が斬るの?」

「問題はそこなのよね」


 次兄は指示を受けて動いただけだし、主体となっていたのは長兄。

 それでも罪がないわけではない。

 ありもしない噂を流しては、悪女としての私を民衆に植え付けた。

 早く首を斬り落とすよう先導したのを、私は忘れていない。


 次兄への執行は叶うならフォール家にお願いしたいと思っている。

 本性を知らずに婚約して、未だに公表されていない。

 手紙のやり取りや(私が選んだ)プレゼントも定期的にあげている。


 理想なのだろう。婚約者てしては。


 でも……。見えていなかったものが見えたら、幻滅し突き放す。


 私と違って直接、危害を加えられたわけではないから、執行人として処刑台に立つのは難しいか。


 ブランシュ辺境伯には息子もいる。お母様の兄で、私には伯父にあたる人物。こちらも会ったことはない。


 スクロス・ブランシュ。

 アカデミーを卒業後、武者修行と称して様々な国を渡り歩いている。

 大柄な人で大刀が目印。

 よく盗賊を討伐していて、かなりの有名人。


 伯父様なら悩むことなくお願いを聞いてくれるかもしれないけど、どこにいるかわからないからな。連絡の取りようがない。


 一つの国に長く留まることをしないため、居場所がわかったところで手紙を出しても本人には届かないかもしれないけど。


 「考え事?僕に手伝えることある?」

 「ブランシュ辺境伯の息子、スクロス様を捜せないかしら」

 「彼に頼むの?」

 「ええ。ブランシュ辺境伯は確か、フォール家とも多少なりとも交友があったはずだから。代わりを頼もうかと」

 「クラウスが人捜しの魔法を使えないか聞いてみるよ」

 「ありがとう」


 話をしながらだとあっという間に着いてしまい、ディーとはもうお別れ。


 陽だまりのように優しく微笑んでくれるディーに、愛しい気持ちが湧きながらもすぐに蓋をした。

 感じるこの幸せはシャロンに対するものは別物。


 私の感情(なか)に深く根付いてしまわないように、すぐさま刈り取る。


 あってはならないのだ。私にとって不要な感情は。


 「また明日」

 「ええ、また明日。今日はありがとう。隣にいてくれて心強かったわ」


 ディーは私が屋敷内に入るまで見守っていてくれる。


 本当、私には甘いのよね。自分のことは後回しにして、いつだって優先してくれるのは私。

 それが当たり前であるかのように。


 嬉しく思いつつも、もっと自分のことを気にかけて欲しいと思う。

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