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愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜  作者: あいみ
第二章

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誰のために【ディルク】

「今、何と仰いましたか?」


 夜だけでなく、朝も昼も時間が合うなり、食事に招待してくる陛下にうんざりしていたところに、聞き逃せないことを言い出した。


「貴方には関係の無いことよ。口を挟まないで」


 口元をナプキンで隠しながら、僕を会話に入れようとしない王妃を陛下が睨む。


 ──僕を蚊帳の外にしたいのであれば、呼ばなければいいんだ。


 王妃に選ばれるくらいなのだから、賢いのだろう?


 卑しい平民混じり一人、食堂に呼ばせはい策を講じて欲しいものだ。

 僕だってある意味、被害者なのだから。


「いつも創立記念日にやるパーティーを、今年は早めることになった」


 だから。それの意味がわからない。

 わざわざ早めてどうするんだ。


 何十年と続く伝統行事なら、日程こそ守るべきじゃないのか。


 休校の一週間で既に各家に招待状は送られている。


「兄上。予定が早まると不都合でもあるんですか?」


 人徳者とは思えない笑み。


「はぁ……。体調が優れないので、これで失礼します」

「待ちなさい!せっかく陛下が招待して下さったのに、料理を一口も食べないとは何事ですか!!?」


 一度でも毒を盛られたんだ。食べない理由としとは充分。


 今では毒味係を陛下が付けてくれたけど、僕はその毒味係でさえ信用していない。


 カルが役目を買って出てくれたけど、そんな危険な真似をさせたくないから断った。


 ──自分で作ったほうが安心で安全なのに。


 アリーの元にいる料理人はすぐに来られないため、今はまだ陛下が雇った料理人が調理をする。

 彼らが来てくれたら毒味役は必要ない。


 早く彼らが来てくれたらと思う。人を待つのは嫌いではないし、今はただ……待っているだけの時間が楽しくて仕方ない。

「王妃!体調が悪い者に無理に食べさせてどうする。ディルク、部屋でゆっくり休むといい」


 本当に悪いわけじゃない。陛下もわかった上で庇ってくれた。


 …………なぜ?


 父親らしく在ろうとされても、僕は歩み寄るつもりはない。

 先に親の責任を放棄したのは向こう。


 僕は望み通りに息子をやめた。


 今更……。


 本来なら喜ばしいことだとしても、僕からしたら苦痛。


 だって陛下は父親ではない。王国に君臨する王が、国民にとっての父だと言うのなら話は別。


 リンデロンの名を持ってはいるが、僕の親は母上だけ。父親を欲したことは一度としてない。


 カルと共に食堂を後にした。陛下の目がひどく悲しげだったけど、僕には関係のないこと。


「ふぅ……」

「大丈夫ですか?」

「全然」

「パーティーを早めるとは大胆ですね。エドガー殿下の指示でしょうか」

「恐らくそうだろうね」


 アカデミー創立記念日は僕の誕生日でもある。


 その日にアリーが正式に婚約者となり、僕が王太子に選ばれるのだ。


 エドガーと王妃はどんな手を使っても僕の邪魔をしてくる。そう、どんな手を使っても。


 招待した令嬢に例の、魅了香とやらを使うつもりなのだろう。


 強制的に相手を従わさせる禁じられた香。

 製造が中止になっただけで、裏で生きる魔法使いは作り、売って、金儲けをしている。


「早いお帰りだな」


 クラウスの部屋を訪ねると、多くの書類に囲まれて嫌気がさしていた。


「気分が悪くなっただけだよ。あ、カル。すまないがクラウスと二人にしてくれる?」

「かしこまりました」


 食事を摂っていないため、手短に終わらせなければ。

 この状況を見るにクラウスもだろう。


「クラウスは人を探知する魔法使えたっけ?」

「いいや。どうした」

「じゃあさ。もしもこの王宮に、誰かが匿われていたとしたら、やっぱり気付かないもの?」

「相手によるな。魔法使いなら魔力で気付ける。例外はあるがな」


 クラウス曰く、魔力が平均に満たない魔法使いは接近しても、一般人と見分けがつかないらしい。

 巨大な魔力を持つ王族や上級貴族は特に。


「で?それがどうしたんだ」

「実はね。エドガーがさ。未来の視える占い師を王宮に連れ込んでみたいなんだ」

「ディルク……。なぜそれを、もっと早くに言わない!!?敵の情報は私にも共有しろ!!」


 予想通り、普通に怒られた。


「ごめんって。未来が視えると言ってもエドガーの作戦は全部、失敗してるし、いいかなぁって」

「良くないだろ」


 グッと近づけてくる顔は完全に怒っていて、思わず目を逸らす。


「はぁ……。たく。まぁ、未来なんてものは未来にいた人間にしか、わかりえないことだからな。その占い師は観察眼に優れていただけだろう」


 相手の言動を注意深く観察し、会話の流れから真実を見抜くのに長けている。


 占い師なんて大体はそんなもの。


「やっぱりそうだよね」


 僕の考えはクラウスと一致した。アリーもそう考えているだろうから、後で報告しておこう。


 未来なんて誰にも視えるはずがない。そんな能力があるなら、僕が欲しいくらいだ。

 それさえあれば、アリーの力になれる。もっと……役に立てるはずなんだ。


 あれ?待って。だとしたらボニート令嬢はどうやって、王宮に占い師がいることを知った?


 彼女の情報収集能力は、情報屋よりも遥かに優れている。


 ジーナ令嬢の名を語り、僕に香水を送ったときも。あんなの人間業ではない。


「彼女も回帰者……?」

「も、とはどう言う意味だ?その彼女は、誰を指している」

「あ、いや。実はね」


 カラスのことを話した。


 誰も知り得ることのない、アリー亡き後の世界。


 何者なのか。敵か味方か、定かではない。


 クラウスは額に手を当て盛大なため息をついた。


「それこそ私に言うべきことだろう」

「でもね。可愛いんだ、愛嬌があって」

「ならお前は。動物の姿をしていれば敵だろうと懐に入れるのか?」

「それはない。ただ……」


 あのカラスからは嫌な感じがしなかった。


 口はちょっと悪かったかもしれないけど、何だろう。

 ガラス玉のような瞳に色や熱はなく、感情が欠落しているようにも見えた。


 羽ばたいていくその羽を掴んで、君は誰だと問いたい気持ちがあったのも事実。


 それをしなかったのは……その質問にカラスは答えてくれるような気がして。


 聞くのが怖かった。ただ純粋に。


 もう一人の僕の魂が強く拒絶する。


「他に隠していることはないだろうな」

「強いて言えば、毎年恒例のパーティーが早まったくらいだよ」

「困るのか?」

「うん。まぁ……」


 陛下は毎年、決まった家門だけに招待状を出すからいいけど、問題は王妃。

 王妃は家門にではなく個別に出す。


 そのお茶会で令嬢達に魅了香を使われたら終わり。


 ボニート令嬢の言いなりになって、僕の汚点を作るために襲ってくる可能性しかない。


 今回は派閥ではない、アリーと親しい令嬢を狙っているはず。

 アリーならともかく、他の令嬢が王妃からのお茶会は断れない。


「そのことなんだが。マリアンヌから連絡があった」


 その内容は驚くべきもの。


 王妃のお茶会当日、マリアンヌ様もお茶会を開く。招待状は既に出していて、全員から出席の返事が届いているため王妃の誘いは断れる。


 新たな犠牲者が増えないことに安堵した。


 魅了香は一度でも付けてしまったら、助ける術はない。無関係な彼女達が操り人形になることだけは避けなくては。


「提案したのはアリアナ嬢らしい」

「そっか。アリーが」

「嬉しそうだな。顔が綻んでいるぞ」

「う、うるさい!」


 指摘されたことにより、急激な熱を帯び始める。


 面白がるようにニヤニヤするクラウスの肩を叩く。

 大袈裟に痛がってみせるクラウスに「治癒魔法で治せ」と言葉を投げた。


「ディルク。些細なことでも情報は共有しろ。知らなければ手の打ちようがもない」


 開いた自分の手を見つめるクラウスは言った。


「私に二度も、お前の愛した女性を殺させないでくれ」


 切実な願いだった。


 アリーに聞いたそうだ。殺されるとき、クラウスは助けてくれなかったのかと。


 その答えはとっくに出ている。


 処刑を止めるだけの証拠がなくとも、クラウスの力があれば逃がすことなど造作もない。


「違うよ。見殺しにさせたのは僕だ」


 僕が頼むはずがない。エドガーを心底嫌っていたクラウスに、アリーを助けてくれなんて。


 そこまで図々しく無神経な性格だったら、もっと好き勝手に生きていただろう。


「今度はちゃんと助けを求めるから。助けて欲しい」

「あぁ。当然だ」

「ありがとう。カルを呼んでくるよ。夕食まだなんだ」

「催促されたか?さりげなく」

「そんなわけないだろ」


 魔法で料理を出せるのはすごいけど、複雑な料理は無理だと本人も言っていた。

 軽食が凝ったもの、のジャンルになるらしい。


「僕が適当に作ってくるから待ってて」

「悪いな」

「これくらいしか恩返し出来ないから」

「恩を感じる必要はない。我が国で作られた魅了香が悪用された時点で、私も関係者だ」


 この若さで王の座を継ぐなんて前代未聞。


 若き王を騙して国を乗っ取ろうとする輩は少なくない。

 年が明けたらすぐに継承するため、今からやることが山積み。帰国することなく留まってくれている。


 人の優しさに感動している場合ではない。


 エドガーが何をしてもいいように、僕自身がもっと強くならなくては。




 食事を終えて、ほとんどの人が部屋に篭る頃。僕は騎士団の訓練場にいた。


 剣術を習うために。


 ウォン副団長とラード団員がアリーの護衛に戻った今、教えてくれるのはセシオン団長。


 静かな訓練場に木刀がぶつかり合う音が響く。


 騎士団長(そのざ)に就く人から簡単に一本を取れるはずもなく、攻撃は防がれてばかり。


「殿下。もっと深く踏み込んで下さい。私を殺すつもりで」


 これは指導。練習で出来ないことは本番でも上手くいくはずがない。


 頭では理解しているつもりだったのに、一歩を踏み込むことを拒んでいた。


 連続で打ちながらも、乱れた呼吸は次第に整っていく。


 とっくに疲れている体は素早く動いてくれる。

 頭で思い描いた通りに。


 セシオン団長の木刀を弾き飛ばし、喉元に突き刺す……寸前でピタリと止まる。


 ──殺すつもりで、やらなきゃダメなんだ。


「ありがとうございます、セシオン団長。今日はもう上がります。明日からアカデミーも再開しますので」

「ディルク殿下。貴方は今、私と誰を重ねたのですか?」


 確信を持った質問。僕は答えることなく微笑むだけ。


 薄らと勘づいているのに、わざわざ答え合わせをしたくなかった。


「では、これだけはお答え下さい。貴方は誰のために強くなろうとしているのですか?」

「決まっているだろう?アリーのためだよ」

「ぁ……っ」

「アリーのためなら何でもするし、誰だろうと殺す。アリーが望めば、僕は喜んでこの命を捧げるよ。幸せに、笑顔でいてくれることが僕にとっての幸せなんだ」


 そして、願わくば……。愛されたいなんて、叶わない願いを捨てられずにいる。


 君のいない世界で僕は生きていけない。


 太陽なんだよ。アリアナ・ローズは。

 出会ったあの日から。僕の人生を照らしてくれる。


 名前を呼ばれることも、笑いかけてくれることも全部。嬉しくて、愛しさに変わっていく。


 あまり夜更かしをするわけにもいかず、一礼して背を向けた。


 今日のこの感覚を忘れずに、次は連続して一本取ろう。

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― 新着の感想 ―
復活ありがとうございます!! 面白い話でしたのでお待ちしておりましたー頑張ってください!
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