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限られた時間

 誰かのために何かをするのが楽しいと感じるのは、いつぶりか。


 私なりにまとめたノートを何度も見直して、おかしな箇所がないかを確認する。


「よし。大丈夫」


 忘れていまわないように鞄にしまう。


 終わったのが昼過ぎだったので、そのまま食事を摂る。


 あの子と夫人がショックで寝込んでしまったと使用人が噂していたけど、次々と商人が大荷物を持って出入りしていると証言も取れているんだけど?


 新しいドレスを嬉々として買っているのに、寝込んでいる、ねぇ。

 彼女達の目はそんなにも悪いのかしら。


 どんな医者も治せないほどの重症。


 呼ばれた商人は上級貴族に相応しい品を取り扱っておらず、滞在時間は非常に短い。


 当然だ。これまで贔屓にしてくれていた商会は、もうここには来ない。


 国で一番の商会はロベリア家とアルファン家と深い交流があり両家から、私以外には売らないようにと圧をかけられているとか。


 商売をする側として客を選ぶような真似をすることに対して、特に何も思っていないらしい。


 むしろ、私を陥れようとするあの子には、布一枚も売りたくないそうだ。


 大商会が手を引いた客に他の商会が物を売れるわけもない。

 ほとんどの店はローズから手を引き、客を選んでいる場合ではない小さな商会のみが足を運ぶ。


 そうなると必然的に商品の質は落ちる。それでも。下級貴族の持ち物としては高価。


 私は商人を呼び付けて商品を買うことはないので、彼らも騙されて来ることはない。

 新商品のカタログを持って来るくらいね。


 お金があるのに好きな物を買えない苛立ちから、使用人に当たる始末。


 ただ、圧がかかっているのは訪問販売だけで、店に直接、買いに行くのであれば売っても構わない。


 まぁ、店で買うという発想があるかどうか。


 商人が貴族のために足を運ぶのは当たり前だと思っているからね。


 侯爵家の品格を落としていると気付きもしないのだ。


 貴族は与えられることが全てではないのに。


「時間もあることだし、本でも読もうかしら」


 時間はある。外に出られないのだから、好きなことに時間を使いたい。


 ストレスが溜まり、そろそろだろうと思い窓の外を見た。


 相変わらず、メイドの恰好で出ていくあの子。


 休校の意味を理解していない生徒が一人。もう一人は理解しているのに、愛してやまない彼女とベットで過ごすために命を軽視する。


 集中して本の世界に没頭する寸前、ノックが聴こえた。

 声をかけられるわけではく、不思議に思っていると扉の前下から手紙が差し込まれる。


 内容は……ラジットからの謝罪。


 ディーに嘘をついたこと。

 嘘をつく際に私の名前を使ってしまったこと。

 計画を知っていることを、口を滑らせてしまったと。


 一つ目に関しては私に謝る必要ない。


 ──誠実さはよく伝わってくるけど。


「ラジット。そのまま聞いて」


 扉越しに声をかけると、了解の合図に風が窓を叩く。


「休校中、あの子がメイドの恰好をして出掛けて行くのを見て、不審に思い私に尋ねたことにしましょう」


 真実と嘘を混ぜることで信ぴょう性は増す。


 いつか……全てが終わったときに暗部のことも話せたらいいな。


 ディーに隠し事をしたままでいるのは、胸の奥に棘が刺さったように小さな違和感を覚える。


「教えたのはラジットにだけ。他の団員には他言無用と、お願いしたのよ」


 王宮騎士の絶対なる主君は私でもディーてもない。陛下。

 あの方が命令して問いただせば、嘘をつくことは出来ない。


 だからこそ、団長であるラジットだけなんだ。知っていていいのは。


「仲間が増えるやは良いことだし、落ち込んだり責任を感じたりしないでね」


 顔なんて見えていないのに、ラジットが失態を犯したと落ち込んでいるのがよくわかる。


 ラジットは最初から知っていた側だし、ついうぅか。口が滑っても仕方がない。


 むしろ今回のことは。私の配慮が足りなかったのが責任。

 誰かが悪いわけではない。


「ラジット。貴方は指示待ち人間ではないわ」


 驚いたのか、何かが扉にぶつかる音がした。

 痛がる声も聞こえたので、振り向こうとした勢いのまま肘でも打ったのかしら?


「団長!大丈夫ですか!?」


 今度はルア卿の心配する声が響く。


 扉を開けて様子を見てみると、肘を抑えてしゃがみ込むラジットと目が合う。

 若干、涙目。


「大丈夫?」

「や、あ……はい」


 大丈夫ではなさそう。そうよね。いくら鍛え抜かれた騎士とはいえ、痛いものは痛い。


「私のことはお気になさらず、どうぞお部屋にお戻り下さい」


 痛みのピークが引き、立ち上がった。


 大袈裟に騒ぐほどの怪我ではないので部屋に戻る。


「指示を待つだけの人は、自分から謝ったりしないものよ」


 扉が閉まりきる前に私の言葉は届いた。


「ありがとうございます」


 小さくお礼を言っては、任務を真っ当すべく、気を引き締めた。


 本を読む前にディーに手紙を書かなくては。


 ラジットに話したことを、話していなかったことへの謝罪。

 回帰していることは伏せていると念を押して。


「充実した一週間になりそうね」


 この先、こんなにも長い間、自由があるわけでもない。


 今のうちに読めるだけの本を読む。


 新しく買った二冊も気になっていたところ。

 何だかんだ読めていなかったのよね。


 かなり分厚くて、気合いを入れて読まないと。


 あの子達は買い物に忙しく熱中しているから、私の邪魔をする暇もない。

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