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無駄な努力

 家に帰ると制服のままベッドに倒れ込んだ。


 怒ろうとしていたニコラは私の疲弊に気付いて、そっとしてくれる。


 今日はいつもの倍は疲れた。


 休憩時間になる度にヘレンが会いに来た。無視すれば評判が悪くなり後々に影響が出る。


 話し相手になったことにより調子に乗って、私とディーを遠ざけようとしてきて。


 私の対面を気にしてくれたディーはヘレンの無礼な振る舞いを許してくれて、カルと授業の予習をしていた。


 シャロンは目に見えて不機嫌になっていたけどヘレンは何も感じていなかった。自分に都合の悪いことに鈍感なヘレンらしい。


 ヘレンとエドガーが男女の仲であるのを知っているのは私だけで、まだ証拠はない。


 きっとローズ家が手を回している。そうでなければ私が何も気付けなかったなんておかしい。


 ──全力で二人の恋愛を成就させたいのね。


 それならば大手を振って応援してあげればいいじゃない。私を巻き込むだけでは飽き足らず殺した。


 外面が良いだけのエドガーのどこに惹かれる要素があるのか。王子としての能力はそこそこ高いけども。


『優良物件』というやつではあるけど、それはあくまでも本性を知らない場合に限る。


 お父様はヘレンのためにエドガーを王にしたかった。親友の娘とはいえ、養女にした挙句にエドガーと婚約させてしまえば隠し続けた真実が暴かれてしまう。


 破滅を恐れたからこそ、ギリギリまでヘレン・ジーナとして育てた。


 殺された私には、ヘレンが養女になったのかまではわからない。


 子爵令嬢でも王族と結婚出来ないわけじゃないけど後ろ盾はない。簡単に引きずり下ろされてしまう王妃では意味がなかったのだろう。


 だからこそ正式に養女に迎え入れるしか方法はなかった。


 中身はともかく外見は愛らしい天使。大袈裟に泣き崩れては、親友だった私の代わりにローズ家の娘としてエドガーと共に国を支えていく、と言えば国民は納得する。


 心優しい天使が悪女の尻拭いをするなんて、誰もが感動する美談。


 事実、私の公開処刑では多くの国民が集まり私に罵詈雑言を浴びせられた。


 思い出すだけで首を斬られた一瞬の痛みが体中を走る。


 シャロンに頼めばありとあらゆる証拠は集まる。見たくもない行為の写真付きで。


 調査書を陛下に提出したところで愛し合う二人が結婚して終わり。復讐にもならない。


 せめて国外追放か身分剥奪で平民に落としてくれれば、その手段もアリなんどけど残念ながらそうはならない。


 真に愛し合う二人ならば幸せになって欲しいと心の底から本気で願っているからだ。


 王子として育てられたエドガーが使用人のいない、日々のお金を稼ぐために働かなければならない平民になれば幸せになれない。


 優しく寛大な心を持つのが陛下の良いところではあるけど、言い方を変えれば家族に甘いだけ。


 ずっとこうしてると制服がシワになる。ニコラに手伝ってもらい着替えを済ませた。


 夕食までまだ時間はある。今のうちに出来ることはやっておかないと。


 復讐内容はもう決めてある。準備に移る前にどうしても確認しておくことがある。


 ロイ・コゼット副団長を含めた騎士団員。お兄様の悪事に加担したのかどうか。それによって計画は大幅に狂う。


 ニコラには自室で休んでるようにお願いした。


 主従関係とはいえ、ニコラに命令する気にはなれない。それは今世だけでなく前世でも。


「おいアリアナ。なぜヘレンに冷たくする?」


 気分転換に第二の部屋に向かう途中、後ろから不機嫌そうな声が飛んできた。


 聞こえなかったふりをして行きたいけど、子供じみた真似をするつもりはない。


「何のことでしょう。ハンネスお兄様」


 感情的になりやすいハンネスとは三歩分ほど距離を取ったほうが安全。


「シラを切るつもりか?親友のヘレンがあんなにも泣きそうな顔をしていたんだぞ」

「それはつまり。ヘレンを私と同じSクラスに入れろと?どうやってですか?」


 アカデミーが成績順のクラス分けをすることぐらい知っているはず。というか卒業生なのだから知らないとは言わせない。


 しかもヘレンの頭の悪さも承知の上で無理難題を押し付ける。


 変よね。愛しいヘレンのためなら人を殺すことも厭わないのに、勉強を教えることはしない。


 ヘレンが十年努力したところでSクラスに上がることは絶対に不可能。それでもお願いを聞いてあげるふりをするのは、出来なかった責任を私に擦り付けるため。


 彼らにとって私は(てい)のいいストレスの捌け口でもあった。


 従順だった私に口答えされて、苛立ちと怒りに体が震えている。


 私だって意地悪で無理だと断言してるわけじゃないのよ。過去に何度も教えたのに成績は伸びなかった。


 夜中まで勉強するのが嫌だとか、たまには息抜きしたいだとか、とにかく勉強をしたがらない。


 ヘレンにもわかりやすく説明するにはどうしたらいいか、むしろ私が夜中まで起きて考えていた。


 既に結果が見えているのに努力するなんて時間の無駄。ヘレンのために私の貴重な時間を削る理由がない。


 本気で成績を上げたいなら家庭教師でも雇えばいい。根気強くヘレナに勉強を教えられる優しい人がいれば、だけど。


「それと。一つ訂正させてもらいますけどヘレンは私の親友ではありません」

「何だと!?」

「お父様の親友の娘がなぜ私の親友になるのですか?」

「お前はヘレンが可哀想だとは思わないのか」

「そんなにヘレンを想うならお兄様が親友になって差し上げたらよろしいのでは?」

「アリアナ!!」


 殴りかかってきそうな勢い。この距離じゃ心もとない。


 さりげなく一歩下がると誰かにぶつかった。


 このタイミングの悪さはカスト?


 振り向いてその姿を確認すると、意外すぎる人物が立っていた。

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