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#142

無事に帰り着き、今度はシャロンが帰る番。ラジットは快く引き受けてくれた。

ラジットが抜ける間はヨゼフが代わりを務めてくれる。私だけの執事となってくれたことで、より怖いもの知らずになった。

私としてはとても心強い。

ヨゼフと一緒にいるときにあの子達が近づいてこようとしても、睨み一つで遠ざけてしまう。目で制す、とはこのこと。

騎士団長の長兄でさえ怯む。

屋敷の中は険悪な空気が漂っている。

聞かなくてもわかる。侯爵が暴れて誰も手がつけられない状態。

夫人や長兄が宥められない一家の主の暴走を、私如きが止められるわけもなく、気にしないことにした。


「お嬢様。何か良いことでもありました?」

「ええ。あ、ねぇニコラ。ニコラは『灰色少女と騎士の恋物語』って絵本知ってる?」


絵本はこの国ではあまり需要がない。

絵本は文字を覚えるのに最適ではあるけど、貴族には家庭教師がつくし、平民は商売をする人達以外は文字を書けなくても生きていける。

それでも絵本が作られるのは平民の子供達が大人になったとき、少しでも助けになればいいなという思いから正体が明かされていないミミという絵本作家が今も尚、作り続けている。

数に限りはあるけど、無料で配布されていればどんな物かと手に取り、面白ければそのまま持ち帰る。

ミミは東の国の言葉で『秘密』という意味。

だからミミは東の国からやってきたと私は思ってる。

ミミのおかけで今の平民の多くは子供から大人まで字の読み書きが出来るようになった。


「灰色の髪をした男嫌いの女の子が自分を助けてくれた騎士様に片想いする話ですよ」

「読んだことあるの?」

「ロベリア家の使用人から聞いただけですが」

「その少女はどうして男が嫌いになったの」

「父親が不倫したからですよ!それから母親に男は信用するなと言い聞かされて育ったみたいです」


大人も読むとはいえ、絵本は子供向けの本。そんな生々しい理由はやめておいたほうがよかったのでは。

貴族の世界では不倫……愛人を迎える人もいる。家族が受け入れるかどうかは別として。

平民の世界ではありえない日常であるため、少女が男嫌いになった理由としては納得してもらえるらしい。

常識が違えば価値観も違ってくる。


「お嬢様から絵本の話題が出るとは思いませんでした」

「シャロンが買ってたのよ。読ませてくれそうにもなかったから」

「それはそれで意外ですね。シャロン様と絵本……」


想像がつかないのか首を傾げた。何とも珍しい組み合わせ。

絵本ではなく、騎士という文字に惹かれて興味を示した、ということもなくはない。

あれこれ詮索しても私には暗部のような隠密機動はいない。シャロンのことは探れない。

いたとしても暗部に消されるのが関の山。

今日手に入れた本は今度の休みの日に部屋にこもって読もう。ヨゼフには怒られそうだけど。誰とは言わないけど邪魔をされずにのんびりと読書を楽しみたい。

私達が出掛けていた間にアカデミーから伝達があり、調査のため更に一週間の休校が決まった。

次の登校は一週間後、週明けか。

その後、戻ってきたラジットからの報告によると調査には第四騎士団の調査が行われることとなった。

教師はあの男の推薦でアカデミーの教員になれたわけだし第四騎士団が介入するのは当たり前。

罪を悔いての自殺に騎士団が調査をすることに、あの男は不快を示すかと思ったけど下手に騒ぎ立て殺したとバレたら終わり。

騙されていたあの男は被害者で、王族として、一国民でもあり聖職者である教師を信じていたからこそ素行調査をしなかった。

取り調べでそう答えるようにと占い師から念を押されていた。

死人に口なし。

あの男がどれだけ嘘をつこうと確かめる術はない。例え疑わしさが満載だとしても。

ドン引きするような気持ち悪い、ラブレターと呼ぶにもおぞましい手紙を送りつけられていた女子生徒にはラジットが、私に相談していたと言質を取れるように、さりげなく誘導してくれるだろう。

賢い女子生徒なら察してくれると信じている。

名前が上がった以上、私への聴取もある。

事件に関わっているわけではないので尋問ではなく形式的な質問をして記録するだけ。

そのために明日は王宮に出向くことになってしまった。

独りよがりで自己満足のおぞましい手紙を送りつけられていた女子生徒の特定をさせないために、一学年全員の貴族令嬢の家に団員が訪ねた。

そこで証拠となる手紙は押収した。

王宮へはクラウス様が瞬間移動で迎えに行ってくれることになった。

留学に来てくれている隣国の王太子にそんな雑用させていいのかな。とんでもなく失礼なお願いをしている気が。

王宮に住まわせてもらっているお礼だと言われると断る理由がない。

情報が漏れないよう取り調べは団長であるラジットとルア卿。

音消しの結界を張れることを隠しておきたいのか、クラウス様は魔道具を貸してくれた。

高レベルな魔法が使えることを自国にも内緒にしているのだから、交友が深いとはいえ他国で易々と使えるわけがない。

また王宮に行かなければならないことが憂鬱だったけど、罪のない女子生徒のために弱音は吐いていられない。

通常であれば第四騎士団長でもあるラジットが私を迎えに来るはずだったけど、私の護衛としてここにいる。

代役として第一騎士団長のセシオン卿が迎えに来ることになった。

ラジットはひと足先に王宮に戻るから一緒に向かうのは無理だと聞かされていたけど、よりにもよってなぜ第一騎士団長が?


第四騎士団の団員でも良かったのでは?


道中、何もないと信じてはいるものの、騎士団の中でもトップの実力を持つセシオン卿ならば何かあったときに素早く対処してくれると絶大な信頼を得ている。

裏を返せば陛下は何かあると危惧しているとも取れる。

最初はクラウス様が女子生徒同様に瞬間移動で迎えに来てくれると言ってくれてはいたものの、そこはディーが全力で断った。

前回私が王宮に呼ばれたときに会えなかったから、今回は一番に会いたいからと。

それを聞いたクラウス様は「子供じみた嫉妬だ」と大爆笑したと、手紙には綴られていた。

ディーの恋心を汲んでクラウス様は女子生徒だけを迎えに行くことになった。

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