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事情聴取

 翌日。セシオン団長護衛の元、王宮に着いてしまった。


 何かが起きるわけではなく、平穏無事に。


 馬車の中に誰が乗っていようと、第一騎士団長が護衛している人物に手を出そうとする者は早々いない。


 後先を考えないあの男なら、何かしてくるかもと身構えていたのも事実。


 門の前にはディーが立っていて、馬車の扉が開くと照れた笑顔で手を差し出してくれた。


 周りの目は驚きに満ちている。ディーがこんなにも感情を出すのを初めて見たかのような。


 セシオン団長は驚きながらもすぐに騎士の顔に戻る。今は職務中であることを忘れていない。


 門兵も慌てて姿勢を正す。


 味方のいない王宮で弱点を晒さないようにするには感情を殺すこと。


 幸せを漂わせるディーのほんわかした感情に当てられたのか、緊張が解れている。


 王宮内に入ると、なぜか王妃が出迎えてくれた。今回の事件に関わってもいないのに。


 それとも遠回しに犯人は息子ですと告白してくれているのかな?


 自白は本人から聞くほうがいい。証拠提供してくれるだけでも助かるけど、王妃がそんな心優しいはずもなく。


 私に用事でもあるのだとして、よりにもよって毛嫌いをしているディーの前に現れたのか。


 王妃が口を開いて言葉を発しようとした瞬間、ラジットが来た。


「お待ちしておりましたアリアナ様。お忙しい中、御足労頂き誠にありがとうございます」


 平民であるラジットに邪魔をされたのが気に食わなかったのか、キッと睨むもラジットの目には私とディーしか映ってない。


 故意に目を潰した王子の母親に敵対心を抱くのは当然。それが王妃であったとしても、息子と同じように他者を傷つけるかもしれないのなら尚更。


 話をするだけとはいえ、一応は取り調べなわけだし離宮でするかと思っていた。向こうなら野次馬はいないだろうに。


 むしろ、人目が多い王宮のほうが安全だとディーが直前に提案したらしい。


 騎士団の力を疑っているわけではないが、念には念を入れて。


 国民を第一に考えることこそ、王族の義務であると。


 元を正せば王族の、あの男の失態が原因で事件は起きてしまった。


 女子生徒は被害者なのに素性が明かされてしまえば、今後の未来にどう影響を及ぼすか分からない。


 ディーからの信頼を得たい陛下は離宮ではなく王宮の一室でやるようにと命じた。


 必死になって家族としての絆を取り戻そうと足掻くも、ディーがその手を掴む日がくるのかどうか……。


 私としては家族の関係が修復されればと願う。ディーは私と違って愛されている。正真正銘の愛を受けているのだ。


 生まれたことも、生きることも、祝福してくれる親の愛は本物。


 王妃を無視するわけにもいかず形式的な挨拶だけして、面倒なことだから早く終わらせようと部屋に案内される。


 何となくだけど王妃が私を出迎えた理由はわかる気がする。以前やらかした失敗の便宜を図って欲しい。


 ──耐えられないのよね。愛している人に嫌われるのが。


 知らなかったとはいえ陛下と会う私に頭からお茶をかけた。ドレスだけだったら故意ではなく事故としての言い訳が成り立つ。


 せめて誰に会いに来たのか聞けば教えてあげたのに。


 取り調べがあるからと、足早にその場を立ち去った。


 遠ざかる私に声をかけないのはプライドのせいだ。たかが侯爵家の小娘と見下している私に国母でもある王妃からお願いをするなんて、ありえない。


 仮にも次期王妃が自分都合で動くことを嫌悪しているけど、貴女のそれも自分都合では?


 私にして欲しいことがあるなら人として、きちんとお願いをするべきだ。


 私が役に立たないとわかると怒りに振るえながら踵を返す。


 少し歩くと「ここです」と立ち止まる。


 数ある部屋の一室。


 部屋にディーは入れないから外で待っててもらう。


 帰るときに一人出歩いててあの男と遭遇しても嫌だし。ディーが隣にいてくれたら、みっともない姿を見せたくなくて冷静でいられる。


 中に誰もおらず、部屋には私とラジットの二人きり。


 女性への取り調べには女性騎士がいるのが原則のはず。


 音消しの魔道具が発動しているのを確認して、ルア卿の所在を聞くと、女子生徒と別室で待機している。誰が来ても決して扉を開けてはいけないとラジットに命じられて、その役目を務めているところ。


 後々、ルールに則っていないと抗議を受けても、女子生徒の名誉を守るためだと言い訳が立つ。


 第四騎士団に所属する女性騎士はルア卿だけ。他の団には数人所属しているとはいえ、団が違えばそれこそ、ルールに則っていないことになる。


 私の取り調べが先じゃないと聴取が取れないらしく、記録用の魔道具も発動した。


 これは取り調べで不正がなかったと証明するため、相手側の許可を取り書面にサインしたときにだけ使う。


 滅多に使うことのない魔道具ではあるけど、第四騎士団は日々手入れを怠らない。


 誰も見ていない所でサボらないから信頼を得ることが出来る。


「以上になります、アリアナ様。本日はご協力頂き、ありがとうございました」


 本当に簡単な質問だけで終わった。時間にしてみれば十分もかかっていない。


 逆に不安になる。これでいいのかと。

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