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愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜  作者: あいみ
第一章

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二人の約束

 き……気まずい。


 中庭に着いたはいいけどシャロンとカルは昼食を買いに行ったきり戻ってこない。


 食堂で作られる料理は手軽に食べられる物も多く、外で食べたい人達にとっては有難い。


 味も申し分なく、お弁当を持ってこない生徒は多い。


 気を遣って二人きりにしてくれたのね。嬉しいんだけど何も食べないと午後の授業でお腹が鳴ってしまいそう。


 そんなことになったら恥ずかしさの余りアカデミーを辞めてしまいたくなる。


 二人が戻ってくる気配はない。ずっと座ってるわけにもいかず、食堂に誘おうと決めた。


 どんなに忙しくても食事は一日三食、欠かさず食べていた。何をするにしても健康でなければ困るのは私自身。


 それなのにエドガーは私が食事を摂ることが気に食わないのか、器の小さい男のように嫌味を言ってきた。


 自分はこれだけ頑張って食欲さえないのに羨ましいとか。王妃教育をサボっているんじゃないかとか。


 あの頃の私は反論することなく理不尽な謝罪をしていた。


 それにエドガーの言葉は、彼なりの励ましなのだと思い込んでいたのだ。


 私ならもっとやれる。ここを乗り越えたら明るい未来が待っている、と。


 目先の欲に捕らわれすぎてた。バカだな私。


 歩く足を止めて一歩下がれば、真実が見えたはずなのに。


 何をそんなに浮かれていたのか。


 王妃になれること?エドガーと結婚出来ること?家族に期待されていたこと?


 多分……全部だ。


 今にして思えばエドガーのほうがサボってたんだよね。王宮には招かれざるヘレンもいたし。


 二人きりで何をしてたんだか。


 王妃や王宮に勤める使用人が二人の関係に気が付かなかったとは考えにくい。となると、最初からエドガーの隣に立つのは私ではなくヘレンであると、全員が知っていたことになる。


「あのアリー。これを……。お口に合うかわかりませんが僕が作ったんです」


 遠慮がちの声にディーを見ると、僅かに視線を落とした。


「ディーが?」


 ずっと手提げを持って中身が気になっていたけど、まさか料理をするなんて。意外だ。


 王宮の厨房に王子が立つなんてちょっと面白い。


 すぐに言ってくれなかったのは使用人がいるのに主自ら厨房に立つことが恥ずべき行いの一つであるから。


 王族や貴族は人を使う。決して使用人の真似事をしてはならない。


 古く悪しき習慣は強く根付いている。


 すぐにでも言い出せなかったのは私が嫌悪感を示すかもと、臆病風に吹かれていた。


 料理が出来ることを意外と驚くことはあっても、バカにして笑うことはないんだけどな。


 作ってくれたお弁当は素人が作ったとは思えないほど完成度が高い。味も…美味しい。


 ディーにこんな才能があったなんて。私もディーを見習って料理の一つでも覚えようかしら。


 クッキーぐらいなら作れるかもだけど味の保証はしない。


 料理人に教えてもらいながらなら失敗することはないはず。


「食事はいつも自分で作るんです。母上はあまり歓迎されていなく、しかも王妃より先に男児を産んでしまい機嫌を損ねてしまったみたいで」


 数々の嫌がらせをされてきたんだ。


 食事には毒を混ぜられていたのかも。王宮内で信用出来る人が何人いたのかしら。一人もいなかったかもしれない。


 私と同じ……ではない。私には友人がいた。ディーには心が休まるような人がいたの?


 敵しかいない王宮で生き残るために何でもしたはず。


 それこそ雑用でも何でも。


「アリー?泣いているんですか?もしかして嫌いなものでも?」


 この涙はディーの境遇が不幸だから流れているわけじゃない。


 私はディーの存在を知っていて、王宮でどんな扱いを受けてきたかある程度の予想はしていたのに、家族に愛されたくて、利益を優先して、無視した。


 ディーを選ぶだけで、辛い境遇を変えられた。


 私だけがディーを助けられたのに。


 それが何より悔しい。


 与えられた第二の人生では復讐だけでなく償いもしなければ。


 私は私の役目を果たしたらディーの前から姿を消そう。私なんかがディーの隣に立つことは許されない。


 一度は騙された愚かな女。


 二度目はそんな彼らの人生を終わらせる悪女。


 誠実なディーにもっと相応しい女性が現れる。


 そのときに備えて準備をしておく。


 焦り慌てふためくディーの手を包んだ。


「私の言葉なんて信用に値するものはないかもしれないけど、私はディーを裏切ったりしません。そして約束します。私が貴方をこの国の王にすると」


 忘れないで。私にはその力があると。


 王にさえなってしまえば誰もディーを無下にできない。それどころか今まで無礼を働いてきた使用人も王妃でさえ罰を与える存在になれる。


 見せしめは大事だ。


 ディーが王になれば逆恨みして殺されるかもしれない。


 王宮内で起きる事件の真実は歪められて報道される。


 殺されたこと自体捻じ曲げられ、不正行為で国王になったディーは良心の呵責に苛まれ、自殺したというシナリオのほうが受け入れられやすい。


 そうならないなめにもディーを見下してきた人は皆、排除しなくてはならない。


 多くの命を消すことで心を痛める結果になったとしても。


 ディーの身の安全は絶対必要だ。


「それでは僕も約束します。如何なるものからも、どんな人物からも必ずアリーを守ると。だから……。だから僕を……」

「ディー?」


 急に黙ったかと思えば、すぐいつもの笑顔に戻った。


 何を言おうとわからないけど聞いて欲しくなさそうな顔をしているから話題を変えなければと思った。


 よく考えてみたら私って異性とあまり話したことがない。あるにはあるけど、公的なことばかりでプライベートなことなんて。


 共通の話題なんて一つもない。仕事だけでなくてそういうことも勉強しておかないと。

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