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いらないものは……

 私の考えを話すと、シャロンもこの方法なら……と納得してくれた。


 魅了香にやられてしまったら今の所は治す術はなく、男子生徒には気の毒だとは思わない。


 婚約者のいる身でありながら、あの子から香水を受け取るだけでなく付けてしまったのだから。


 不義を働くつもりがなかったとしても、充分な裏切り行為。


 あの子の毒牙にかかる人間をなるべく減らしたい。そのためにもマリアンヌ様の協力は不可欠。


「何をそんなに迷ってるの。だから言ってるじゃない。私が頼もうかって」

「シャロンにばっかり負担はかけられないわ」

「アリーに頼まれたことを負担に感じたことは一度もない。いいアリー。頼ると利用するは別物。貴女は私を、私達を、利用してるんじゃなくて頼ってるの。そこだけは間違えないで」

「う、うん。ごめんなさい」

「よろしい。で?どうするの?自分で頼む?それとも私?」

「私が…お願いして……みます」

「なんで敬語?」

「何となく」


 シャロンのカッコ良さについ、とか言ったら怒られそう。


 コーヒーを一気に飲み干したシャロンは「よし!」と言って立ち上がった。


「マリアンヌ様のとこ行こっか」

「今から!?」

「善は急げって言うでしょ」




 ※ ※ ※



 町ではとても面白いものが見れた。


 食事に来ていた侯爵達が門前払いをくらっていたのだ。


 隠れて事の顛末を見守っていると、会話の流れから察するにあの店は、あの子のせいで婚約破棄をした令嬢の家が経営しているレストラン。


 侯爵達だけならまだしも、あの子を店内に入れることは出来ないと断った。


 人目もはばからず、客を選ぶのかと怒鳴り散らす。そんな侯爵に怯むことなく堂々とした立ち姿で、婚約破棄になったのはあの子のせいで、そんな子に出す料理はないと。


 利用するためだけに近付いてる彼らの近況なんて興味がないんでしょうね。


 あの子の驚く顔は本物。


 非を認めて形だけでも謝罪をすれば今日だけは特別に、侯爵の顔を立てて中に入れてもらえたかもしれないのに。


 歯向かわれたことに逆上し言ってはならないことを口にした。


 ここが外であるということも忘れて。


「お前の娘がヘレンよりも可愛げがないからだろ!?ヘレンのように可愛ければ他の女に目移りすることもなかったんだ!!」


 本来なら、そんなことを言う前に長兄が止めなければならないのに、あの子を悪く言われたことに腹を立て助け船を出そうともしない。


 自分達で侯爵家の品位を下げているとも知らないで。


 悪びれるつもりもなければ、悪いのはあの子ではなく娘のほうだと言われれば、いくら侯爵家の人間でも礼儀を弁える必要はなくなる。


 強気で追い返した。


 全てを見ていた他の店が果たして彼らの入店を許可してくれるかどうか。


 侯爵達がいなくなったのを確認して男爵にお詫びした。


 教養のなかったあの子。教養を習ったにも関わらずあのような無礼な物言い。そして、見ていただけの私を。


 今の侯爵の姿は、私の有利になると踏んだ。そのせいで彼の心に傷をつけてしまった。


 あそこまで見境がないとは思ってもいなくて、呆れるほかなかった。


 男爵はローズ家の取り巻きの一人であり、あんな啖呵切ってしまったら今後はもう店を畳むしかない。そんな不安があるはずなのに男爵の顔は妙にスッキリしている。


 店がなくなっても死ぬわけじゃない。むしろ人の目を気にせず私の心配が出来る。もっと早くに侯爵に見切りをつけるべきだった。


 そうやって私が気に病まないように言ってくれた。


 これほどまでに相手を思いやれる人がローズ家なんかに振り回されるのは私としても気分が悪い。


 この店を潰さない方法としては私が買い取るのが一番。幸い、自由に使えるお金は沢山ある。


 たかが侯爵家なんかに、潰されていい店ではない。


「アリアナ様?」


 声をかけてきたのはバルト卿だった。


 背中をバシバシ叩かれて痛いのは気のせいじゃない。


 シャロンの目が輝き、感激のあまり泣いてしまいそう。


 かつてないほどに瞳がキラキラと輝いている。


「お久しぶりですバルト卿。紹介しますね。こちら、私の親友のシャロンです」

「初めまして!あの!!バルト卿のお噂はかねがね……。いや、違う。えっと……」


 言いたいことがまとまらずに焦るシャロンが可愛くて、微笑ましく見てると、助けろと言わんばかりの強い念が送られてくる。


 あの目は恋愛対象ではなく憧れの眼差しに近い。バルト卿は元とはいえ騎士。シャロンがチェックしててもおかしくはない。


「バルト卿は何をされているんですか?」

「お貴族様が問題を起こしていると聞いたので来てみたのですが」

「私達ではないですよ!?」


 私はともかくシャロンの悪評が広まるのはここで阻止しなければ。


「それはもちろん。わかっています。噂のローズ家だとも言っていたので」


 あの家の恥は遅かれ早かれ、国全体に広がりそうね。


 もう騎士ではないのに誰かが困ればすぐ駆け付ける。バルト卿はみんなからとても慕われ頼られていた。


 シャロンが憧れるのも納得。


 問題は解決していると伝えれば詳しいことは聞かずに納得してくれる。代わりに面倒な家族を持って大変ですねと苦笑いをされた。


 全くもってその通り。返す言葉もない。


 他にも何か言いたそうだったけど、心配して見に来たスイさんと帰って行った。


 バルト卿が決して口にしてはならない物騒なことを思いながら。


「(あんな家族ならいっその事、殺して(すてて)しまえばいいのに)」

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