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救わなかった……

 未来が視える占い師。


 暗部でさえ素性を調べあげられない男。


 美味しいお菓子を食べながらシャロンから聞いたこと。


 あの男の、らしくない行動の意味は全て占い師の助言によるもの。


 私達の敵。そういう認識でいいのよね。その占い師は。


 本当に未来が視えているのなら、全て失敗することも視えていたはずなのに、なぜその占い師は何も言わずにやらせたのか。


 未来は無限に可能性が広がっていて、占い師の視える未来は確定されていない?


 私達の働き次第で未来はどうとでも変わる。


 ──変わって……いる、のよね?


 占い師の未来を視る力が本物なら、私達が動く前に潰せばいいだけのこと。


 未来が視えるのに何もしない。その矛盾が不気味だ。


 面倒なことにならなければいいのだけれど。


 考えすぎて集中して本が読めなくなり、本棚に戻した。


「そうだ。ディーにも情報を共有しないと」


 顔を会わせることはないとはいえ、同じ王宮内にいる。警戒をしていて損はない。


 手紙を書き終えて送った直後、クラウス様が現れるものだから、つい大声を上げてしまう。


 慌てない様子から、素早く音消しの結界を張ってくれている。


「取り乱して失礼しました」

「そんなに緊張しないでくれ。ちゃんとディルクには許可を取った。君と二人で会うと」

「急ぎの用事なのでしょうか?」

「あぁ、そうだな。本当はもっと早くに確認するべきことだったのだが。見ての通り、私は臆病なものでね」


 クラウス様が臆病者?これは笑うべきなのかしら?


 場を和ませてくれているだけかもしれない。


「単刀直入に聞く。アリアナ嬢。君はなぜ死んだ?」


 単刀直入すぎて、どう答えるべきかわからない。


 一言で言えば裏切られたから。


「私はディルクの友人だ。君の冤罪を晴らすためなら何でもしたはず。それなのに君は殺された」

「そんなに難しいことではありません。ただ私が……あの男を選んだから」


 理由はどうであれ、あの男を選んだ私を快くは思っていなかったのだろう。


 ディーもそんなクラウス様の心情を読み取り、助けを求めなかった。私を憎んでいるクラウス様が手を貸してくれると自信を持てなかったのかも。


「最低な男だな。私は。そんな子供じみた理由で何もしなかったのか」

「それだけクラウス様がディーを大切に想っている証拠です。もしかしてずっと、そのことを気にかけてくれていたんですか?」

「私には救えるだけの力があるのに、なぜか、と気になっただけだ」


 クラウス様は広げた手の平を見つめては、ギュッと握りしめた。


「今度こそ大丈夫だ。守りたいものはこの手の中に収めた」


 揺れていた金色の瞳が力強く私を見た。


「私は自分の力だけでは何も出来ません。彼らに復讐することも、おぞましい真実を知ることもなかったでしょう」

「君は強いな。私なら記憶を奥底に閉じ込めて、全てを忘れなかったことにする。だって怖いだろう?真実と向き合うのは」

「だから私は目を逸らしたんです。認めてしまわないように。自分が愛されないと知ることよりも、もっと怖いことだから」


 いつだって私は、私を守るために気付くべきことに気付かない愚か者だった。


 もしもあの日、違和感を口にして侯爵達を問いただしていれば、どうなっていただろう。


 真実を知った私を生かしておくことはせず、殺そうとする。


 殺すだけでいいならプロを雇う理由もなく、事故に見せかけて殺すか、眠っているときに心臓を一突き。


 どんな殺され方にせよ、事件性はなく事故として私に落ち度があったという結果にしかならない。


「今世では必ず守るよ。君もディルクも、この手の中にしまい込んだ彼らの命は必ず……!!」

「はい。よろしくお願いします」


 人は、一人では生きていけないと本で読んだとき、そんなことはないと否定した。


 最終的に自分を守るのは、これまでに手にした経験であると断言していたからだ。


 恋人や夫、友人や実家でさえ、いざというときには助けてくれない。我が身可愛さに引かれた線を飛び越えることもなく傍観するだけ。


 それは違うと今ならわかる。


 打算も損得もなく接してくれる人の貴重さ。


 突拍子もない現実味のない話を信じてくれた。


 全てを話せない私を、疑うことなく力を貸してくれる人もいる。


 人との繋がりは生きていく上で欠かせない。


 ニコラとヨゼフはいつも私の心配をしてくれていた。


 シャロンはいつも私の力になると言ってくれていた。


 私には彼らの言葉を信じる勇気がなかったんだ。


 心のどこかで、私のことを裏切るんだと、だって彼らは赤の他人で私に尽くす義理がないと思っていたから。


 でも……今は。私を信じてくれる彼らを、私は信じている。


 クラウス様は肩の荷が一つ降りたと言いながら背伸びをした。


 軽くなった肩を回しながら結界を解く。


 クラウス様が帰ると、ニコラの私を呼ぶ声がした。


 部屋から出たわけではないのに、まるで誰もないような静けさ。扉を開けると、それはもう驚かれた。


 ニコラは伝達を預かっていて、明日のアカデミーは休講となった。


 詳しいことは伏せられたまま各家に知らせが届いている。


 このタイミングで……。あの教師が口封じで殺されたと考えるのが妥当。


 その辺のことはシャロンが詳しく調べ尽くして、この件も含めた全ての罪を白日のもとに晒すのが私の役目。

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