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誰よりも特別な親友

 私は静かに席を立って店内の商品を手に取って見た。 前回はこんなじっくり見ることはなかったから。


 可愛い小物ばかり。


 残念なことにシャロンはこういうのに興味がないからお揃いでは付けられない。


 シャロンに似合う小物もいっぱいだけど、付けることを好まないからな。


 目立たず邪魔にならない物なら受け取ってくれるかも。


 置物とか。


「何かお探しですか」


 店員……スイさんの指には素人が作ったような凸凹の指輪がハメられていた。


「これ、彼が作ってくれたんです。不器用で指も太いから悪戦苦闘してました」


 そう言って笑っているものの、表情は嘘をつけない。


 どんなに不格好でも好きな人からの手作りプレゼントは何物にも代えがたい一生の宝。


「親友とお揃いで何か付けたいんですけど、こういうのはあまり……」

「ヘアピンとかよくお揃いで買っていく人は多いですよ」

「本人すごく嫌がるんです」

「それならピアスとかどうです?」


 それは考えた。シャロンは耳に穴を開けてるし、邪魔にもならない。


 ピアスは二つ一組だから片方ずつ付けるのもアリ。


 私が穴を開けてないから候補から外していた。


 シャロンは気軽に「開ければ?」なんて言ってくるけど、ちょっとトラウマなのよね。


 というのも昔、次兄が穴開けに失敗して耳が血まみれになった。


 表情を崩さない練習真っ最中だったから、悲鳴を上げることも取り乱すこともなく淡々と心配してみせただけ。


 あの子は大袈裟に心配しただけでなく、すぐに駆け寄った。


 私には許されなかった行動(こと)を平然とやってしまうあの子が憎かった。羨ましいと思う暇もなく憎んだ。


 私だってあんな風に心配したかった。


 今となっては、そんなことしなくて良かったと本気で思える。


 向こうだって別に、私に心配なんてして欲しくなかっただろうし。


 身に付ける物にこだわらないならハンカチでもいい。


 隅のほうに刺繍が入ったもの。花柄ではなく、そうね。こういう動物のやつがいいかも。


「もし良ければ開けましょうか?穴。一瞬ですし痛くないですよ」

「だ、大丈夫です」

「アリアナ様にも苦手なことがあるんですね」


 いけない。欠点があるなんて自分からバラすなんて。


 ピアスの穴一つ開けられないなんて情けなさすぎる。


 か弱い女の子ならともかく、よりにもよって私が怖いなんて。


 あれだけ発言には気を付けていたのに失敗した。気丈に振舞っていたらバレなかったかもしれないのに。


 こんなとこで侯爵と同じ詰めの甘さを認識したくはなかった。


「あ!アリアナ様の親友ってシャロン様ですよね!?それならピアスはやめておいたほうがいいかも」

「え?」


 スイさんは咳払いをして慌てて他の小物を勧めてきたけど、すぐに項垂れた。


「あぁもう。私のバカ」

「もしかしてシャロン。ピアス買いに来てました?」

「はい。その……穴を開けなくても付けられるピアスを」

「そんなのがあるんですか」


 つい、自分の耳を触った。


 穴を開けなくていいなら、誰でも気軽に付けられる。


「はい。去年から取り扱いを始めて」


 私宛と決まったわけじゃないのに、聞かなければ良かったなんて後悔した。


 サプライズで用意してくれてるとしたら、シャロンの心を踏みにじる行為。


「私がお客様のプライバシーを喋ったばっかりに……申し訳ありません!!」

「スイさんのせいじゃないです。私が聞きたがったのが悪いんです」


 聞き流せばいいものを、反応してしまったからスイさんも言わざるを得なかっただけ。


 シャロンの思いやりに決心がついた。


「このピアスください。それと……穴開けもお願いしてもいいですか」


 確かシャロンは右を開けていたから私は左に。


 先に穴を開けてしまおうと、奥から道具を持ってきた。


 緊張と恐怖で体は固まり、変に力が入るものだからスイさんも困り果ててる。


 どうにかリラックスさせようとしてくれるけど、次兄の失敗が頭から離れない。


「こうしてれば大丈夫かな?」


 いつの間にかディーは私の前にいて、そっと私の手を包み込んだ。


 ディーの手は剣を握る手としてはあまりゴツゴツしてない。それでも私よりは大きく、男の手。


 伝わってくる熱に体の力は抜けたものの、今度は沸騰したように全身が熱くなる。


 気付けば穴開けは終わっていて、安定するまでは触らずにこのまま。


「殿下はよろしいのですか。お揃いで付けなくて」


 バルト卿からの疑問。ディーは目を伏せて首を横に振った。


「アリーとボニート令嬢の絆に僕は太刀打ち出来ないからね」


 ディーを軽視してるわけじゃない。


 私にとってシャロンが特別。ずっと特別(そう)だった。


 それだけは変わることのない事実。


 きっとシャロンも同じ気持ちでいてくれたはず。


 あんなにも心が通じ合うのは、後にも先にもシャロンだけ。


 なのに私は、親友という最も特別な枠をあろうことかあの子に与えてしまった。シャロンは私が決めたことならと笑ってくれたけど、どんな思いだったのだろうか。


 あの子の本性を知りながら私のために口を噤んでくれていたシャロンの思いを踏みにじっていた。


 心に引っかかるシャロンの死から目を逸らしたあのときの自分をひっぱたいてやりたい。


 周りの目を気にしないで、向き合うべきだったのだと。

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