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悪夢からの解放

 たった数十分、勉強しなかったとこでテストで点が取れなくなるわけではないとみんなが援護してくれたおかけで、階を移してマリアンヌ様と二人きりになった。


 私の成績が優秀であると、みんなが認めてくれている。


 ポケットから取り出した球体に魔力を注ぐと、耳の奥がフワンってした。


「ごめん。嫌な感じしなかった?」

「大丈夫です。それは魔道具ですか?」

「ええ。古いやつだから音消しは数分しかもたないの。さっそく始めるわよ」

「何を……でしょうか」

「クラウスから聞いてないの?待って。じゃあ私を知ってたのはなぜ?」

「それは……」


 過去、王妃教育のため王宮で過ごしていたときに何度かお会いしたから。


 隣国とは仲良くしておいて損はない。あのときの私は警戒されていて、常に一歩引かれていた。


 私が打算だらけの醜い思惑を見抜いていたのだろう。


「いいわ。貴女がパトリシア様の娘、アリアナなら、それでいい」


 マリアンヌ様はクラウス様に頼まれて私の呪いを解きに来た。


 呪いは掛けられてしまえば誰にも解けないと言ったのはクラウス様。


「私の特殊魔法、解呪魔法ならどんな呪いだって解ける。さ、目を閉じて。大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて。はい、終わり」


 体に変化はない。


 精神面や気分的にもスッキリした感じもなかった。


 そもそも目に見えない呪いは、かかっていることを第三者が知る由もない。


 解くのも同様。


 私が眠ることでしか、わかりえない。


「特殊魔法と普通の魔法は違うんですよね?」

「クラウスったら、なんにも説明してないのね」

「私が聞かなかっただけです。クラウス様はお忙しそうだったので」

「暇よ暇。こき使ってくれていいから」

「それはちょっと……」


 魔道具が壊れる前にマリアンヌ様に魔法のことを教わった。


 生まれながらに持つ魔法は属性と呼ぶ。


 水、炎、雷、風、土の五つに分かれ、子供は親のどちらかの属性を受け継ぐ。


 魔力の少なく力の弱い子供は家門の恥とならないよう、隠されるか捨てられるか。


 ここはラジットから聞いてた通り。


 適性というのは魔力が暴走せず、自分の思い通りに魔法を操ること。


 小粒な魔力も自在に操れない者は見下される。


 ラジットはそんな世界で生きてきたのね。


 羨まれるはずの貴族に生まれたはずなのに、蔑まれ嘲笑われる。


「苦しい」や「痛い」なんて言えずに、「ごめんなさい」ばかりを口にする日々。


 覚醒とは、本来持つ属性魔法とは別魔法の取得。


 クラウス様は王族特有の炎と風の属性をあわせ持ち、更には歴史を遡っても数える程しかいなかった光属性の治癒魔法を手に入れた。


 現在では覚醒の特別性はなくなり、特殊魔法がいかに使えるかだけが重要視される。


 覚醒の瞬間は人それぞれ。歳は特に決まっていないものの、誰もが一瞬、淡い光に包まれる。


 時間にしてしまえば一秒もないため、目撃者がいるか、あるいは自己申告をして魔法を見せるかしないと覚醒したかなんてわからない。


「時間ね」


 魔道具にヒビが入ると、そのままポケットにしまう。


 部屋を出ようとすると人の驚き声と一緒に、扉が誰かかにぶつかった音がする。


 不審に思い確認すると、尻もちをついた騎士がぶつけた鼻を手で抑えていた。


 普通に歩いているだけで扉につぶかるわけがない。扉に耳を当ててない限り。


 この騎士はあの男に忠実で、どんなことでも何も聞かずに遂行する。


 忠誠心なんて立派なものではなく、完璧にやり遂げると報酬として百リンを貰えるから。


 期待以上の収穫があれば千リン。


 自分は何もしていなかったとシラを切るように慌てて立ち上がり、戻ろうとする騎士の肩をマリアンヌ様が掴んだ。満面の笑みで。


 掴む力が強いのか、骨がギシギシと鳴ってる。


 助けを求めるような視線を向けられるけど、私にどうにか出来るはずもない。


 そのまま騎士を連れてホールに戻り、騎士を投げ飛ばした。


「ここの責任者は貴方かしら。エドガー殿下?」


 あの子と楽しく喋っていたのを邪魔されて機嫌が悪くなり、手に持っていたグラスを他の生徒に渡して、「そうだ」と答えた。


「この国では、騎士が女性の会話を盗み聞くなんて非常識なことを行うんですね」

「ち、違っ…!私は……!!」

「では貴方は何をしていたのですか。あんなとこで」


 圧が強い。


 騎士には嘘をつかなくてはいけない理由がある。


 王宮騎士の肩書きと、あの男から貰うお金で、休みの日に夜の店に繰り出しては可愛い女の子にチヤホヤされて自尊心を満たす。


 無駄にプライドだけが高いから、王宮を追い出されてしまえば今と同じ豪遊が出来なくなることが耐えられない。


 あの男もあの男で、目の届くとこに置いておく必要がある。


 余計なことを喋られるとマズいことがいくつもあるってこと。


「も、申し訳ありませんでした!出来心なんです!!」


 潔く土下座をするもマリアンヌ様は許す決断をしない。


 騎士を殺すなんて無謀はしないけど、どうやって懲らしめようかと案を考えている。


 今日は魔道具のおかけで会話は聞かれなかったけど、もしマリアンヌ様が魔道具を持っていなければ私の呪いが解けたことがあの男に伝わっていた。


 責任を問われたくないあの男は擁護(ようご)するつもりもなく、全ては騎士の独断でやったこと。本人も深く反省していると、それだけ。


「この男のしたことは騎士道に反するどころか人として恥ずべき行為です。セシオン団長には私からご報告しておきます」


 カルの目は同じ騎士として彼を軽蔑している。


 まさか第一騎士団員がこんな子供じみた真似をすることに、女子生徒達は夢を打ち砕かれたかのようにガッカリしていた。


 王宮騎士は響きに華やかさがある。そして何より、王宮騎士に選ばれる実力があることは、憧れる対象でもある。


 外見も多少は基準点に反映してるだろうけど、難関な試験を突破する実力のほうが遥かに大きいのだ。


 愚かなことに、その価値を自分で下げていることに気付いていない。


 仮にも第一騎士団団員。拘束しておくわけにもいかず、私達から一番遠い場所に配置された。


 私なら助けてくれるだろうと、言うような視線が飛んでくる。


 何も知らない頃の、あの男の周りにいる人間を疑うことさえしなかった、あの頃の私なら、大事(おおごと)にならないようすぐに手を打った。


 シャロンの調べで、私を誘拐しようと計画を企てたのがあの男で、犯人を雇ったのがこの騎士。


 あのときは暗部がいたから良かったものの、一歩間違えればシャロンは殺されていた。


 あの男の手によって。


 攫ったのが私じゃないとわかれば、余計なことを勘づかれる前に監禁場所で殺して、全ての罪を誘拐犯に擦り付ける。


 自分は安全なところから私に寄り添うふりをするだけ。


 今日初めて会った騎士を助ける義理はなく、この先、今日みたいなことが起きないようにセシオン団長にはしっかりと指導をしてもらわなければ。


 クビになるであろう、この騎士を除いた団員達に。

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