魅了香がなくとも…
「そ、そういえば!あの日は気が動転してて、私を襲ったのはボニート令嬢じゃなかったかも」
危うくなった立場を少しでもマシにしようと、全ては自分の勘違いだったと主張するも、もう誰も聞く耳を持たない。
魅了香にやられている人達は別だけど。
「そうだよな!襲われた直後なんだし、勘違いするのは当然だ!」
「ヘレンは何も悪くない!!」
あの子の肩を持つのは自身の評価を落とすことになると懸念したあの男は喋るのをやめた。
自分だけが可愛くて他人には目もくれない。お似合いの二人ね。
「あの。ボニート令嬢。えと……」
助けを待ってる。
どんな神経をしてるのかしら。散々犯人扱いして騒ぎ立てておいて、都合が悪くなったら助けてもらおうなんて。
「まぁ確かに?ジーナ令嬢は襲われて、しかもナイフで切りつけられて、パニック状態に陥ってただけかもしれないわ」
まるで庇い立てするような言葉に令嬢達の頭には「なぜ?」が浮かぶ。
「そうなんです!だから……」
「でも!!見たのよね?私を。何だっけ?そうだ。特別な理由があるから貴女を襲ったとも言ってたわね?」
意地悪なシャロンってほんと好き。
希望があると思わせ絶望に叩き落とす。
差し伸べられた手を掴むと、瞬時に手を離され崖下に真っ逆さま。
ニッコリと笑ったシャロンはまたあの子の耳元で何かを囁いては、突き飛ばされた。
「自分のしたことを棚に上げてシャロン様にこんなこと!」
「行きましょう。シャロン様。もうあの様な方と関わっても時間の無駄です」
数人の女子生徒が駆け寄り怪我がないかを心配した。
思い切り突き飛ばされたわけでもなく、シャロンは無事。
取り残されるあの子の目は必死に私に助けを乞うけど、大切なたった一人の親友をここまで侮辱された私が、本気で手を差し伸べ助けてくれるなんて夢を見ている。
自業自得よ、と言いたいのをグッと飲み込んで、シャロンの傍に行き、あの子の暴力のことを謝った。
他の令嬢達には先に勉強スペースに行くようお願いして、少しゆっくり歩きながら、さっき何を言ったのか聞いた。
「私を排除し損ねて残念だったわねって」
本当に残念としか言いようがない。
傷害事件をでっち上げてシャロンを退学に追い込んで、家門も潰したかったんだろうけど可哀想なぐらい派手に失敗した。
せっかく怪我までしたのに。
これで益々、あの子の立場は悪くなったけど、辞めてくれないわよね。アカデミー。
「ねぇ。魅了香にやられてるのってうちのクラスだけよね?」
その場で泣き崩れるあの子を慰める男子生徒達。
シャロンが嫌いだから見たと嘘をついたわけではなく、本当に誤解で、私に信じてもらえないのが辛いと言い訳を並べる。
あの子の言葉は信じるに値しないのに、か弱い女の子が泣いていたらついつい味方をしてしまう男の子がバカなのか、そうさせてしまうあの子がすごいのか。
「男がバカで無能で学秀能力がないだけよ」
心を読んだシャロンは辛辣に、鼻の下を伸ばしてデレデレする彼らに、ため息をついた。
信じたいものしか信じない。シャロンの嫌いなタイプ。