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特別な仲

「今日は私のためにありがとうございました」


 アップルパイを食ベ終えて、特にすることもなくお開きとなった。


 もっとちゃんとした部屋でもてなしたいけど、道中で侯爵家の人達どころか、使用人躾のなっていない使用人とも顔を会わせて欲しくない。


 あの子が侯爵に泣きついて、怒鳴り込んで来ると思ってたけど流石に王族と隣国の王太子が揃う席で己の恥を晒すことはなかった。


 それが成長ならいいのだけれど、自身の保身を守るための行動。


 帰ったら部屋の前で機嫌悪く居座るに決まってる。


「私達が勝手に押しかけただけたから気にしないで」

「そうだよ。みんなアリーの力になりたかった。それだけ」

「だとしても貴重な休みを潰してくれたのに、お礼の一つも言わないのは淑女らしからぬことよ」

「アリーのそういう真面目なとこ好きよ」

「私もシャロンの素直なとこ好きよ」

「二人の仲の良さはディルクに立ち入る隙を与えないな」


 クラウス様は面白がっていた。


 他の人と比べてシャロンが特別なのは否定しない。


 シャロンのことは本当に好き。だから、前世でシャロンを蔑ろにした自分が嫌い。


「アリアナ嬢。これを」

「これは?」

「君の私物を盗む輩がいると小耳に挟んだものでね。アリアナ嬢以外の指紋では決して開けられない魔道具だ」


 ドアノブに付けるだけでいい。


 私以外が開けようとすると気を失うほど強い電気が流れる。死には至らないと補足してくれた。


 盗っ人しかいないこの家ではどんな警備より心強い。


 今のは護衛にあたってくれている騎士を悪く言ったわけじゃなくて、私とニコラを守りながら私の私物にまで気を回すのは大変って意味であって、それ以外に深い意味はない。


 って、誰に言い訳してるんだろ。


 彼らは精一杯やってくれている。侯爵令嬢である私のために不満を表に出さず、立派に命令を遂行してくれる。


「アリアナ嬢。もう少しだけ辛抱してくれ」


 クラウス様の言葉の意味は私にはわからなかった。その表情は申し訳なさそうで、なんと返していいのかわからない。


 ウォン卿とラード卿は休暇が終わり次第すぐ戻ってくるそうだ。


 玄関まで見送りに行くと物陰に隠れて、あの子が様子を伺っている。


 ──何してるの……?


 待って。本当にわからない。何をしてる、というか何がしたいの。


 みんなが帰ってもラジットとルア卿は引き続き護衛にあたる。


 そんなに地下牢に閉じ込められたいのかしら。


「またアカデミーでね」


 シャロンはあの子の存在を完全に無視している。気にしても負けだしね。


 みんなが帰ると、あの子は目に涙を溜めた状態で物陰から出てきた。


 足でも痛めてるのかその場に座り込んですすり泣く。


「ヘレン!どうしたんだ!?」


 今日は次兄との即興劇。配役が一人変わると内容も変わる。


 暇潰しに見てあげよう。どうせつまらないだろうけど。


「アリアナがすごく不憫で……。だってねハンネスお兄様。ディルク殿下は私に殺すって言ったのよ。もしかしたらアリアナは脅されて婚約者にさせられているかと思うと……」


 あれは貴女が悪いのであってディーに非はない。


 止めますか?とラジットが目で聞いてくる。ルア卿も感情を隠すつもりがなく嫌悪感が強い。


 もう結末がわかったから興味がなくなった。配役が代わろうと主演があの子なら薄っぺらい内容に決まっていた。


 そして本当につまらない。


「アリアナ!考え直したほうがいい!エドなら間違っても殺すなんて言わないわ。それに!平民なんてアリアナには不釣り合いよ」

「ヘレン。今のは王族への侮辱よ。わかってる?」


 わかってないから見下しているのよね。


「確かにソフィア様の実家は没落し平民となったわ。でもね、陛下は?あの方も平民だと言うの?」

「それは……」


 ソフィア様が貴族でなかろうと、陛下には代々受け継がれた王族の血が流れている。そんな陛下を父親に持つディーは当然のことながら王族なのだ。


 教養がない人でも、そんな簡単なことはわかる。もしもわかっていないのなら、救いようがない。


 黙り込んだあの子は、か弱い女の子を演じながら次兄の袖を掴んだ。


「おい!いい加減にしろよ」


 頼られたことがよっぽど嬉しかったのか、すぐさま睨んできた。


 ──いいわね貴女は。楽な生き方が出来て。


 貴方達の中ではいつだって私が悪役。そうよね。共通の敵がいたほうが、何かとやりやすい。


 同情も罪悪感も抱かない。目的を果たす道具として扱うだけ。


 責めるなら考える頭の足りないその子を責めるべきでは?


 一直線に私を悪者にすることしか頭にない。こんな愚か者達にハメられたなんて最大の汚点。


「何か言ったらどうなんだ!?」


 私が何か言って困るのは貴方達と思うのだけれど。


 もしも謝罪の言葉を待っているのだとしたら一家揃って脳内お花畑説が成り立つ。


 何か言っていいとお許しも出たことだし、望み通り喋ってあげる。


「このことは王族の皆様へ報告するわ」

「はっ!?」

「何を驚いているんですか?その子はディーを侮辱したんですよ。当然でしょう?」

「アリアナお前……!!」

「ハンネスお兄様!いいの。アリアナの言う通りだもの。悪意がなかったとはいえ、私は……。うぅ…ごめんなさいアリアナ。でもね。心配しているのは本当よ。あんな野蛮な人と結婚したらアリアナが傷つけられるんじゃないかって」


 あの男に泣きついて罪をなくしてもらおうって魂胆。


 陛下が変わりつつあることを知らないこの子は、今までと同じように何を言っても咎められないと確信を持っていた。


 手で覆い隠された泣き顔の下は、私やディーを嘲笑っているに違いない。

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