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忠誠を誓うべき相手

 違和感はあったんだ。


 アルファン公爵が来る日はいつも、ニコラは私の部屋で話し相手になってくれていて、アルファン公爵とバッタリ会うなんてなかった。


 婚約破棄を申し出る手紙にも侍女になるとは書いていない。


 テオから聞いていた、と言われたらそれまで。


 私が知りたいのは、聞く前、つまりはニコラが侍女として働き始めた頃から。


 二つしかない公爵家の当主。昔から交流が少なかったわけでもない。事前にロベリア公爵から聞いていた可能性がある。


 だとすればテオが魔法習得のため留学に行ったことが謎になる。


 ニコラの気持ちを汲み取り内緒にしていたのなら筋は通る。


 それとも未来の公爵家を担うテオの成長を見越して?


 アルファン公爵はいつから私の専属になったのか気にする素振りもなく、ただ私との会話を楽しんでいた。短い期間とはいえ息子の婚約者だったニコラを存外に扱うほどアルファン公爵は腐っていない。


 さっきの「君ににしてあげられるのは、こんな些細なことだけだ」っていうのは、遅くなったけどお祝いのプレゼント、と言ってるようにも聞こえた。


「だから。何度か足を運んだのだが姿を見せてはくれなかった」


 それは私の問いに対する答え。


「まさかアルファン公爵様が尋ねてきた理由は……」

「接点のないロベリア公爵が来ては怪しまれる。代わりに私が様子を見に来ていた。質問の答えになったかな?」

「はい。ありがとうございます」


 侯爵に会いに来ていたわけではないとわかると底知れない安心感が押し寄せる。


 あの男を支持する者同士、深い関係でいられると思い込んでいた侯爵からすれば裏切られた気分。


 そのことを責め立て、王族への反逆罪だなんて訳のわからないことを言い出す。


 自らの汚点をここまでさらけ出せるのは一種の才能。あんなにも自分を偽らない生き方はきっと楽。


 アルファン公爵は侯爵の肩に手を置き、グッと指先に力を込めた。


「勘違いするな。我々は代々、国王陛下に忠誠を誓ったのだ。王子に対してではない。それと、二度と私と仲が良いなんてデマを流さないでくれ。不愉快だ」


 有無を言わさない迫力に、あの侯爵が震えている。


 あそこだけ酸素がないのか侯爵の顔は真っ青。放っておいたら泡を吹いて気を失うんじゃないかしら。


 長兄が仲裁に入れないなんて。アルファン公爵の強さが証明された。


「もうやめて下さい!!侯爵様が何をしたって言うんですか!?」


 侯爵なんかと仲良しだとデマが流され、それを信じてる人がいることにご立腹なのでは?


 仲良くない人と仲が良いと思われるのは苦痛でしかない。


 物事を理解する頭がないことを哀れんだのか


「親友の子を引き取るのは勝手だが最低限の教養とマナーぐらいは身に付けさせるべきではないのか。いずれはローズ家の養女にと考えているなら尚更」


 第三者からすればあの子を養女にすると思われても仕方ない。


 そういう特別な扱いをしているのが事実なんだから。


「今後も似たようなことを繰り返すなら名誉毀損で訴えさせてもらう。いいな?」

「私のほうでも可能な限り真実を広めておきます。お二人の仲は全て侯爵の虚言だと」

「よろしく頼む。アリアナ嬢。それと。息子を存分にこき使ってくれ」

「は、はい……?」


 今のはどう言う意味?


 私とニコラにだけ挨拶をして、扉の陰で様子を伺っていたメイド長は通り過ぎる瞬間に横目で見ては特に反応を示さない。


 平静を装ってはいるものの、メイド長の顔や耳は真っ赤で恋焦がれる乙女のよう。


 あの容姿じゃモテるなと言うほうが難しい。本人も好きで惚れられているわけでもなく、対策としてはあまり外に出ず人と会わないようにしているとか。


 アルファン公爵が私の味方になってくれたと解釈するのは都合が良すぎるかしら。言質も取っていないのに期待するのはやめよう。


 ディーの後ろ盾になると宣言してくれただけでも大きな収穫。


 公爵家の忠誠の高さは信頼しかない。いざというとき、あんなにも強い味方がいてくれるのは心強い。


 緊張の糸が切れたニコラが倒れないうに体を支えていると、長兄が感情剥き出しでラジットが警告しないギリギリまで近付いてきた。


「父上に謝罪もないのか?」

「なぜです」


 謝らなければならないことは何もしていない。


「父親の言葉を妄言などと抜かしただろう」

「事実でしょう?」

「お前は家族より他人を信じるのか」

「もちろん」

「酷いわアリアナ。見損なったわ!!」


 いくらでも幻滅してくれて構わない。貴女達の私への評価を気にするなんて時間と労力の無駄。


 たった数人の悪評なんて気にする価値もない。


「こんなにも愛してくれてる侯爵様の想いが伝わってないなんて」

「あら。侯爵は私を愛してくれていたの?」

「当たり前じゃない!」

「じゃあどうして赤の他人である貴女を叩いたぐらいで、私はあんなに強く殴られたのかしら?」

「そ、それは……」

「私には貴女のほうが愛されているように感じるわ」

「な、何言ってるのよ。疲れてるのね!きっとそうよ!今日はもう休んだら」


 触れられたくない話題に、いとも簡単に逃げた。


 ここまでハッキリ言ってあげているのに、貴女は……貴女達は。私が真実に気付いていると、思いもしないのね。


「言われなくてもそうするわ。行きましょうニコラ」


 暇なあの子と違って私はやることが山積み。


 今日は早く寝て、明日に備えて体を休めておかないと。

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