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目的論ニッケル結合

『文化フォビドゥン』を立ち読みした日、そのしばらくあとだろうか。


青梅子の様子がおかしくなった。


あの日の帰り道、コンビニ雑誌に挟み込まれていた非核三原則のビラを彼女に渡した。


そこには核汚染と環境に関する政治集会の場所と日時が記されていたのだが、好奇心旺盛な彼女は、そんな胡散臭い集会に心が惹かれたようだ。


「ふっふっふっ、いまや環境は政治的に力を持つ一大トレンド。

その市民運動家とコネをつくっておくことは、将来的に杉の根絶の役に立つはず…!!」


彼女は集会の日時が近づくにつれソワソワとし始め、せかせかと準備を始めた。


「よくもまあそんな変な集会行く気になるな。

何が面白いんだか」


「何言ってるの?『ああああ』も行くんだよ?」


「はあ?なんで俺まで」


「あたしはあんたのデートに付き合ってあげたでしょ?

こんどはあんたの番」


「嫌だよ、誰が行くか」


「来てくれないと、今度あんたの部屋に『月刊文化フォビドゥン』置くから。

それも毎月」


そんなわけで俺も、下らない集会に参加する運びとなった。

低俗有害図書を部屋に保有しているとの誤解は、万が一にもあってはならないのだから。



────────────────



政治集会は、ゲルマニウム病院のホールで行われることになっていた。


内容は予想通り退屈なもので、自分だけが正義で自分以外は全員悪だと思い込んているような偽善者たちが、声高に他人をこき下ろす、反吐が出そうな演説ばかりだ。


話題は核や環境の話から徐々に移っていき、人権や男女同権など、途中から各々が言いたいことを好き勝手に言うだけとなっていった。


「いまや核の脅威と環境汚染により、東京は滅亡しかけています!!

治安は乱れ、暴力団の抗争は激化、すでに首都機能も秩序も崩壊しています!!

これを漫然と見過ごすのみでよいのでしょうか!!」


「相席屋で女性料金の方が高いのは明確な差別であり人権侵害であります!

そもそも明治新政府が制定した民法の規定により女性の権利は・・・」


駄目だ、これ以上は聞くにたえない

俺は中座しようと席をたつと、服がむんずと掴まれる。


「どこ行こうっての?」


「ト・・・トイレへ・・・」


「男子トイレはあっち、そっちは玄関の方向。

まさか、帰ろうとしてたわけじゃないよね?」


ゴーグルの下から鋭い眼光が突き刺さり、ドスの効いた小声が重く響く。

環境に関する集会で花粉ガイジモードに入った青梅子は、単純に怖い。

逆らうことは許されない。


「そんなわけないだろ?

ほら、多目的トイレはあっちだったんだよ。

ちょっと広いトイレ使いたいなー、なんて」


咄嗟の言い訳をして、逃げるように多目的トイレへ向かう。


多目的トイレに入り鍵を閉めようとした時、扉を勢いよく開けて男が入ってきた。

俺は驚きのあまり気が動転していた。


「なんだこいつ!!何が目的だ!!」


「おい!!空けろ空けろ!!」


「多目的トイレに入るからには目的があるはずだ!!

目的を言え目的を!!」


「俺は病気だ!!俺のほうが優先のはずだ!!

だって多目的トイレなんだから!!

病気の者が優先されるのが道理のはずだ!!」


「おい!他人の多目的トイレに入ってくるならまず名乗れ!!

そして目的を言え!!」


男はそれを聞き、ニッカリ笑っていった。


「俺の名はニッケル!

目的は、大宇宙の秩序を完全に破壊することだ!!」


俺はそこで気を失った。パニック障害だった。

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