『それは、静かの――』
☆
――火花を、蒔いている。
夜空を翔る灰の星たちは、爛々と輝く満月に照らされ、紺碧の海に墜ちていく。
見れば、その水平線には一筋の光が引かれていた。
それは天の銀世界、リタウテットの冥府へと続く月光の道。
どうして、この夜に限って――と、指の隙間から零れる砂を、強く握りしめた。
なのに、月の重力に引かれた潮がそれを飲み込んで、掬うように指をほどいて。
気付けば空になっていた掌を、力無く伸ばしていた。
波間に馳せる。
あの月にも海はあるのだろうか。
あるとしたら地球の重力は、その水面をどれだけ引き寄せることができているのだろうか。
水月は天月に、どれだけ近づくことができるのだろうか……と。
だけど。
どんなに引かれ合っても、波は寄せて返す。
追い付くことも追い越すこともない。
それはまるで、永遠の追いかけっこのように。
ゆえにどんな願いを込めても、この手が届かないことだけはもう、識っていた。
――灰の花火を、咲かせている。
優しい嘘があった。
弔いの刃を執らせるための、言葉をすり替えた告白が。
けれど真実を混ぜた嘘は、同時に嘘を混ぜた真実として、確かだったはずの本当すらも歪めてしまって。
――墜ちた星の欠片に、身を委ねる。
いつか途切れた時間の、口紅の塗り直し。
揺蕩う棺桶。麻痺していく指先。泡沫の浮遊体験。
このままいけるところまでいこうか。砕けるように、散り往くように。
飲まれて、沈んで、溺れて、どこまでもどこまでも、流されるままに。
そうして――鏡花水月、オレを試せ――――。




