表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡面のクロノスタシス  作者: 悠葵のんの
四章【儚恋の物語】
78/81

『それは、静かの――』


 ――火花を、蒔いている。


 夜空を翔る灰の星たちは、爛々と輝く満月に照らされ、紺碧の海に墜ちていく。

 見れば、その水平線には一筋の光が引かれていた。

 それは天の銀世界、リタウテットの冥府へと続く月光の道(ムーンロード)


 どうして、この夜に限って――と、指の隙間から零れる砂を、強く握りしめた。

 なのに、月の重力に引かれた潮がそれを飲み込んで、掬うように指をほどいて。

 気付けば空になっていた掌を、力無く伸ばしていた。


 波間に馳せる。

 あの月にも海はあるのだろうか。

 あるとしたら地球の重力は、その水面をどれだけ引き寄せることができているのだろうか。

 水月は天月に、どれだけ近づくことができるのだろうか……と。


 だけど。

 どんなに引かれ合っても、波は寄せて返す。

 追い付くことも追い越すこともない。

 それはまるで、永遠の追いかけっこのように。

 

 ゆえにどんな願いを込めても、この手が届かないことだけはもう、識っていた。


 ――灰の花火を、咲かせている。


 優しい嘘があった。

 弔いの刃を執らせるための、言葉をすり替えた告白が。

 けれど真実を混ぜた嘘は、同時に嘘を混ぜた真実として、確かだったはずの本当すらも歪めてしまって。


 ――墜ちた星の欠片に、身を委ねる。


 いつか途切れた時間の、口紅の塗り直し。

 揺蕩う棺桶。麻痺していく指先。泡沫の浮遊体験。

 このままいけるところまでいこうか。砕けるように、散り往くように。

 飲まれて、沈んで、溺れて、どこまでもどこまでも、流されるままに。


 そうして――鏡花水月、オレを試せ――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ